第250話 仇


「エ!? カクさん!!」


「カクタス!!」


「カクターーーーーースっ!!」


「うん? カクタスか!?」





カクタスが碧マジックランドセルに閉じ込められたとき


おメアは後ろを振り向き驚きの声を上げた。

ご隠居は小さな声で名前をつぶやいた。

スケルシャールは信じることが出来ずに大声を上げた。

ジルドは静かに呟いた。




「カクさんの気配が消えたのだけど・・・・・そんな馬鹿なことが!

 カクさんがやられたって事?

 あのハーレム小僧たちはそんなにも強いの?」


おメアは血の気が引くのを感じた。

カクさんを倒すことが可能なんて・・・・・・数百年前の『魔王勇者』よりも強いってことなの!

おメアの脳裏に『魔王勇者』が引き起こした悲劇が思い起こされる。

『魔王勇者』の起こしたブラッド・ライトニング事件でサキュバスたちが数100人犠牲になった。

『魔王勇者』はサキュバスに悪魔の血を飲ませ虜にし、サキュバスの催淫の力で多くの男を操った。

男とは人間族以外にも獣人や魔族も含まれた。


おメアにとって自分より年したのサキュバスたちはすべて妹のように思っていた。

その妹たちが操られ悪事に利用されたことが許せなかった。

そして、役に立たなくなったら廃棄の名の元、殺されて言った。


今でも助けられなかった妹たちが夢に出てくる。

夢に出てくる妹たちは誰もが、おメアに微笑みかけていた。

それがおメアを苦しめる。

呪いの様に苦しめる。

夢から醒めると涙がこぼれていた。


「カクさん、必ず仇は取りますからね」




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「カクタスよ! 老いぼれより先に逝ってしまったか。

 無能なワシを許せ!

 カクタスを死なせ、ワシだけのうのうと生きておったら女子おなごに合わせる顔が無いのぉ・・・・・・」


と言うと、ご隠居は魔力を丁寧に深く深く練りこんだ。


「これで決着をつける」


さらに深く深く魔力を練りこみ静かに目を閉じた。




^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^


「嘘だ! 嘘だ!! カクタス!! カクタス!! あいつがやられるわけ無い!! クソがーーー!!!」

スケルシャールは悪魔らしく吠えた。


「許さんぞ!! ハーレム小僧!! 許さん!! 絶対に許さん!! 俺がこの手でギタギタにしてやる!!」


スケルシャールは狂気を撒き散らしながらカクタスの気配が消えた辺りを目指し全力で飛んでいった。



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「博士、カクタスの気配が消えました」


木々の間を走る装甲車の中で静かにジルドは運転する博士に伝えた。


「え?それはどういう意味です?」


「ついさっきまでカクタスが怒気を発しながら、何者かと戦っていたようですが、いきなり気配が消えたのですよ」


「僕は戦闘職じゃないから分かりませんが、気配が消えたという事は・・・・・・」


博士が尋ねるとジルドは静かに頷いた。


「エ! まさか! カクさんに限って!!」


博士は急ブレーキを掛け装甲車を止めた


「エ?そんな馬鹿なことがあるのですか? 

 カクさんほど強い人なんて、いないじゃないですか!!

 竜や魔獣の群れをアッという間に倒すところを何度も見ているんですよ!

 そんなカクさんがやられるわけ無いじゃないですか!

 何かの間違いですよ」


信じられないと言う顔をしながら隣に座るジルドに向き直った。


「我々が強いといってもこの世界では強いのであって、他の世界からの転移者はもっと強いかもしれません。

 現に姫様が強いように」


「あの人は例外だし、僕たちと同じ側の人間ですよ」


「姫様が心優しい方だったから、我々は殺されなかっただけなのかもしれません。

 博士の世界でも悪魔や魔族と言われる者たちを受け入れる人間は極少数なのではありませんか?

 問答無用で斬り捨てられていたかもしれません」


博士はあの人が問答無用で対立する魔族や魔獣を片っ端から薙ぎ倒していったときの事を思い出した。

優しい人である事は知っているが、自分の身内に危害を加えたものに対しては一切の手心を加えない徹底振りも知っていた。

 



「カクさんは優しい人ですよ。

 初めて会ったときは悪魔の形態で僕らが怖がったらすぐに人間形の姿に変化して・・・・

 色々と僕たちに気を使ってくれたり・・・・・・」


博士は装甲車のハンドルに顔を伏せながら泣いていた。

ジルドも信じたくは無かった。

魔族界でもカクタスの武勇は昔から轟いていた。


「カクタス・・・・・」


と装甲車助手席から外を眺めていたとき、一人の少女が腕を押さえながら横切った。


「うん?」


少女は装甲車を見るなり全速で逃げ出した。

が、怪我をしているのか、その速さもたいした速さではなかった。


「あれは、メアリーのところにいたサキュバスだったはず!」


とジルドは言うやハッチを開け走る少女の後を追い大きな声を出した。


「おい、メアリーのところの娘よ、何故ここにいる!!

 腕の怪我はどうした?」


少女がハッとして走るのを止め振り向いた。


「ブ、ブラドー様!」


「やはり、そうか! その怪我はどうしたのだ?」


下から上へとブラドーは視線を上げる。

少女の服はところどころ破れており足や腕には出血の後があった。


安堵した少女はヘナヘナと女の子座りをするのであった。


ゴロゴロゴロ


と二人の下へ装甲車がやって来た。


「ブラドー様! 奴らが! 危険です! 逃げましょう!」


少女は装甲車を見るなり立ち上がりジルドの手を引っ張った。


「大丈夫だ! 博士が運転している」


「エ!? 博士もいらっしゃっているのですか? という事は姫様も?」


「いや、博士一人だけが別口で召喚されたようだ!」


「では姫様たちは、まだなのでしょうか・・・・・」


ジルドは黙って頷いた。


「それより大変です!

 『魔王勇者』と同じ能力を持つものが現れました!」


「なんだと!!」


いつも冷静なジルド驚いた顔をしながら返答した。


「それは危険だ!

 早く対処しなくては!」


装甲車が二人の側に来ると停止しハッチから博士が降りてきた。


「大丈夫ですか? あのー・・・・・・」


博士が少女に声を掛けると


「ソアラです」


「ソアラちゃ・・・・ソアラさんですか」

博士は少女の姿を見て自分より年下に思ったのだが魔族は若く見えても、大概自分よりは年上だと言うことを思い出し、言い直すのであった。

マジックバッグから残り少ないポーションをソアラに手渡した。

ソアラは『良いのですか?』という目で博士を見ると、博士は頷いた。

ソアラはそれを見てポーションを一気に飲み干すと、ほどなく体力は回復し、痛みなども消え去った。


「ありがとうございます。博士」

と恭しく頭を下げるソアラの姿に博士は少々赤面するのであった。


「ソアラ! 車の中で『魔王勇者』の話を詳しく聞かせなさい!」


と言うとジルドは装甲車に乗り込み、博士もソアラもそれに従いナミラーへ向け走っていった。







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また救われた。

犬の獣人さんに。

いや、エイジアさんに助けられた。

エイジアさんがいなければ俺も将太も智弘も命は無かったかもしれない。

俺たち三人はエイジアさんが飛んでいった方向へ向け深く頭を下げた。


「お主ら! 早く逃げた方がいいんじゃいか?・・・・・・・・

 来るぞ! 強い気を発しながら何者かがやって来るぞ!! 気をつけるのじゃ!!」


とミリアの声が木々に響いた。

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