第210話 大統領との会見 ぱ~と2
部屋に戻ると大統領が聞いてきた。
「ところで勇者・茜さまは、どのような方だったのかな?」
「普通の女の子ですよ。どこにでもいる」
「そうなのか・・・・・・・・・実は・・・・・
実はな・・・・・勇者・茜さまは・・・・・・
私の初恋の人なんだよ」
「「「「「「「え!!!」」」」」」」
部屋にいる全員が、いや、大統領の斜め後ろに立つ秘書官の女性以外、ヘルムートさんさえもあまりの発言に声を上げた。
「だ、だ、だ、大統領は茜ちゃんと会ったことあるんですか!!」
俺は思わず大統領に聞いた。聞かないわけが無いだろう!!
「いやいや、勇者・茜さまの物語はハルフェルナの伝説となって多くの書籍が出回っているだろ。
子供の頃の憧れなんだよ」
お、おい、なんだよ、このおっさん!
何を言い出すかと思えば!!
焦らせるなよ!!
ハハハハとヘルムートさんも笑い出した。
「大統領もそのくちですか!?ハハハハハ」
おい、おっさんたち!
『そのくち』とはどんなくちだよ
「ヘルムートもそうか!?」
「まぁ、そうですね。ハハハハハ
アイゼー将軍も言ってましたからね」
おお!凄いぞ茜ちゃん!異世界でモテモテじゃないか!
「だいたいハルフェルナの男子は勇者・茜さまの物語を聞いて育つので誰もが茜さまに情景を持つのだ。
だれもが茜さまの英雄譚に心をときめかすのだよ。
女だてらに多くの魔王を倒し、幾度と無くハルフェルナを救った英雄だからね。
茜さまに母の強さ、姉の優しさ、恋人の愛を求めるのだよ。
正しく茜さまはハルフェルナの男子にとって理想の女性であるのだ」
おい、茜ちゃん。いつの間にそんな存在に!
大統領は声のトーンを落とした。
「実は極秘裏にクリムゾンからの使者が我が国に訪れ・・・・」
「大統領、その話は国家の最重要機密です。ご控えください」
いきなり大統領の後ろに控えていた秘書官が会話に割り込んできた。
「秘書官! 彼らは一般人とは違うのだよ。
勇者・茜さまの兄上がいるパーティーなのだ。
この件を話さないわけにはいかない」
と秘書官の方を振り向き答え俺たちの方へ向き直り。
「実はクリムゾンから使者として『強欲の魔王』ジルド・ブラドー伯爵が訪れクリムゾン魔国との和平と交流を求められたのだ。
ブラドー伯爵は外交交渉など一手に任せられているキレ者らしい。
伯爵曰く紅姫は戦いは望んでいないということらしいのだが・・・・」
大統領は言葉を濁すように時間を空けた。
「オリタリア共和国としては喜ばしい話なのだが、一個人としては・・・・」
大統領は両手で拳を握り締め、
「交流など結ぶ気にはなれない。
国民の大半も同じ気持ちだろう。
平和は喜ばしいのだが紅姫を許すことが出来ないのだよ! 紅姫だけは!!
条約調印式に紅姫が出てくれば・・・・襲いかかってしまいそうで・・・・・
大統領自ら平和を乱すことを行いそうで怖い」
後でヘルムートさんも頷いている。
秘書官さんも頷いているではないか!
茜ちゃん。みんなに愛されていたんだね。
兄として嬉しいよ。
過去形で言わないといけないのが悔しいけど。
そして大統領はいきなり強い語気で言った。
「だから紅姫などを許せるわけが無いだろう!!
出来ることなら我が国の全兵力を集めてクリムゾン魔国に攻め入りたいくらいだ!
が、国の事を考えるとそんな身勝手なことなど許されるわけないからな」
両拳でテーブルを叩き下を向き、そして顔を上げ俺の眼を真剣な眼差しで見ながら言った。
「これだけは白田殿に誓う。
政治の世界だからクリムゾン魔国と同盟を結ぶ事になるかもしれない。
が、後世の歴史家に『裏切り者』と人差し指を刺されようが、恥さらしと罵られようが頃合を見て必ずクリムゾン!紅姫に復讐をする!!
クリムゾンは人類の敵なのだ。
勇者・茜さまを殺した紅姫を人類としては許すことは出来ない!
必ず敵討ちにオリタリア共和国は力を貸すことを誓う。
私の命を賭してもだ!」
大統領は俺の両手を握りながら熱く語った。
俺たちは大統領の熱意に圧倒された。
時間を少し空け智弘が話し出した。
「そのジルド・ブラドー伯爵というのは銀髪でしたか?」
「ああ、そうだ。クリムゾンの外務大臣だ。
ガルメニアに滅ぼされてしまったがイズモニア皇国にも赴き国交をまとめた人物らしい」
そのとき、俺たちは全員、『やはり』と思った。
あのときに感じた恐怖は今まで味わったことの無い恐怖だった。
グリフォン、オーク・ジェネラル、半イフリートと化した西原など相手にならない恐怖。
体中の五感のすべてが『逃げろ!!』と叫んでいた。
「あの・・・・俺たち、多分、その伯爵と一戦交えてますよ」
「え?なんだって!?」
「碧が運良く茜様のマシンガンを手にして追い払ってくれたから助かったようなものですけど・・・・・
あのマシンガンが無かったら俺たちの半分はあの世に行っていたかもしれません」
「君達の力をも持ってしてもか!」
「ハイ、傷一つ与えられなかったと思います。
唯一、七海が対等に戦えるかもしれない、と言うところでしょうか?」
「おお、さすがは七海殿だ!」
「今はとてもではありませんが無理です。
あの時と比べて魔力が弱くなってしまっているので・・・・・
私も簡単にやられてしまいます」
「そうなのか!?
普通はレベルが上がり強くなりそうなものなのだが」
「彼女は普通の女の子ですから。
性格的にも戦いには向きませんので、あまり戦いには参加させたくないんですよ」
「うん? 碧殿は七海殿と?」
と言って小指を大統領が小指を出す。
おい、いつの時代のおっさんなんだよ!!
「あぁぁ、そういうわけではないのですけど・・・・
痛い、痛い!」
七海が俺の太ももを抓った。
「うん!? どうしたのかね?」
「あぁ、いえなんでもありません」
「グリフォンを倒した碧殿なら、対等に戦えるのでは無いかな?
グリフォンも相当な強敵!
勇者・茜さまの兄上の碧殿ならいけるのでは無いかと期待しているのだが・・・」
あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
ヤバイ!
ハッタリを噛ますために偉そうに強そうに振舞った罪なのだろうか!!
グリフォン君の死を散々利用した罰なのだろうか!
俺の心の中の顔はムンクの叫びのようになっていた。
「いや、無理です。絶対に無理です!!」
と俺は心底ビビリながら答えた。
「う、う~~ん。
あの吸血鬼が見逃してくれたというのが正解ですから。
セキジョーダンジョンでコリレシア軍を200人くらい惨殺してますから相当危険な男ですよ」
智弘が俺のビビリ具合を読んで話を元に戻してくれた。
ありがとう。ありがとう。智弘!
お前は空気が読めるヤツだ。
今度イラッとしたときアイアンクローを噛ます力は加減してやろう。
「う~~む、そんな危険な男が外交を任されているのか・・・・
やはり、クリムゾンとは距離を置くべきなのだろうか」
大統領は腕組みをし黙ってしまった。
「大統領。紅姫についてお聞きしたいのですが、どんな姿をしているのですか?
紅姫の強さはよく聞くのですが姿形についての話は一度も聞いたことがないので」
「それは・・・・誰も見た事は無いんだよ」
「「「えっ!!」」」
俺たちは全員、驚きの声を上げた。
そして俺は思わず大統領に聞くのであった。
「誰も見た事がない?って?????」
「クリムゾン魔国へ行って帰ってきた者はいないんだよ。
かつて人間界の色々な国がクリムゾン魔国へ紅姫や魔族を討伐のために勇者を派遣したことがあったのだが・・・・・
誰一人帰ってきた者はいなかった。
すべて四天王に倒されたと言われている」
「紅姫と手を合わせることなくですか?」
「あぁ。そのように言われている」
「でも、おかしいですよね。
誰も戻ってこないのなら、なぜ四天王に倒されたとか、紅姫と手を合わせることなくとか分かるのですか?」
七海が大統領の矛盾点を突いた。
「それは『風の噂』で流れてきた話しらしい。
噂の出所はリピン王国らしいけどね」
「リピン王国か~
色々怪しい国だな~」
智弘が腕を組みながら考え事を始めた。
「その『風の噂』で流れてきた話しでは紅姫は細い角を2本生やした赤い顔をしたオーガだそうだ」
「オーガですか!」
オーガはオークと同じくらいの巨体で力が強くスピードもオークより素早く1ランク上のモンスターと言う印象だ。
が、今の俺たちの力からするとオーガはそんなに強いとは思えない種族だ。
現にこの間、装甲車で轢き殺したし、対峙した何度かあるが俺でも倒せる相手だった。
オークにもジェネラルやキングがいるようにオーガにもキングやジェネラルがいるのだろう。
さしずめ紅姫はオーガ・クィーンという特殊固体なのだろう。
今まで対峙したオーガより一回りも二回りも大きい筋肉ダルマな雌オーガを想像してしまう。
そうでなければ『獣王』『龍王』『大魔王』などを従えることはできないだろう。
脳筋オーガなら智弘の狡すっからい作戦で足元をすくえるのではないか?と甘い想像をする俺がいた。
「大統領、教えていただけることだけで良いのですがガルメニアとの戦いはどうされるのでしょうか?」
「ワイハルトとリピン国の戦いを諸君らも知っておると思うが、我が国との国境の砦に布陣しているワイハルト軍の一部隊が首都へ戻っていったということなのだ。
クリムゾン・リピン国と戦線に投入されると推測している。
我がオリタリアも国境に布陣している一部隊をガルメニアとの戦いに回す事になった。
我が国の南、ナミラー方面だけではなく、東側、イズモニアに隣接するイフル方面からの侵攻も予想される。
諸君らも力を貸して頂けると有りがたいのだが」
と大統領は俺たち全員の顔を眺めるのであった。
俺たちは顔を見合わせ智弘が俺の顔を見て顎を大統領の方へ動かし、『お前が話せ』と合図をした。
「大統領、申し訳ございません。
俺たちはクラスメイトを助けるためにガルメニアへ向かう予定です」
「君たちだけかい?
それはいくらなんでも危険すぎると思うが!」
「クラスメイトを放っておくわけにはいきません。
全員で帰りたいと思っています」
「・・・・そうか」
と、大統領は短く答えた。
西原は俺がこの手に掛けてしまった。
山中、鈴木、星野は無理としても残りのクラスメイトだけは救出して一緒に日本へ戻りたい。
俺の隣では幼女渋い顔をしながらが腕組みをし始めた。
「大統領。俺たちは明日にでもナミラーへ戻り南からガルメニアへ行こうと思っています。
ナミラー方面へ物資の輸送などがあればお手伝いする事は可能だと思います」
智弘が答えた。
「それは有りがたい。
ヘルムート、手配の方をよろしく頼む」
「ハッ!」
とヘルムートさんは敬礼をしながら短く答えた。
こうして会見は無事終わった。
会見後、俺たちが緊張でヘロヘロになったのはいうまでもなかった。
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