第208話 救出作戦


ドドーーン

ガキンガキン!!

ババーーン!


ガルメニア王都南側で激しい爆発音が聞こえる。

悪魔2匹が突如として王都を襲撃した。


1匹は白地に○の中に『ス』と書いてあるTシャツを、もう1匹は黒地に○の中に『カ』と書いてあるマヌケなTシャツシャツを着ていた。

前日には王都より北へ1kmほど行った草原で謎の大爆発が起こった。

国王フェルナンドを含むガルメニア軍の多くは次なる戦いに備え出払っており王都には守備隊が残っているだけであった。

ただでさえ数が少ないガルメニア王都守備軍は偵察のために人数を割かなければならなかった。

前日に王都の北1㎞辺りでご隠居様が特大のヘルフレイムを撃ちこみ注意を北へ向けていたのが功を奏した。



「スケさん、カクさんが上手くやっているようですね。

 陽動は成功ですね。

 ご隠居様、城へ突入しましょうか?」


「そうじゃな。では行くとしようか」




話は数日前に遡る。



「ご隠居様。

 ガルメニアに捕らわれている召喚者たちを救出するべきだと思うのですが?

 その中にいる可能性が高いと思います。

 うちの子たちの情報では深い傷を負って城の地下に閉じ込められているみたいです。

 もしその中に姫ちゃんの・・・・・・・

 手遅れにならないうちに事を起こしておいた方が良いと思うのですが?」


おメアの言う、うちの子とは、自分の配下のサキュバスの密偵のことだ。


「そうじゃの~

 おメアの言う事が正しいじゃろう。

 事を荒立てわけにもいかないから出来る限り隠密にすべきじゃの~」


「報告書にはフェルナンドもイズモニアへ出向いているようですし、オリタリアとの戦いに備え主力となる部隊、例の召喚者3人も王都にはいないそうなので今がチャンスかと」


「なぁ~おメア、隠密にしなくてもいいんじゃないか?

 どの道、ガルメニアとは潰し合いをするんだから早いか遅いかの違いだろ?」


「カクさん!

 そんなこガサツなこと獣王でも言わないわよ!!

 宰相ちゃんに聞かれたら『机叩きの刑』に処されるわよ。

 すべてカクさんが責任を取ってくれるのなら私はいいけどね」


「あ~~~~はい。

 俺が間違ってました。

 隠密でいきましょう。隠密で。こっそりと」


宰相の名を出したとたんカクさんは大人しくなるのであった。


「ふっ! これだからカクは」

とスケさんが嘲笑した。


「うるせ~~よ! スケ!

 てめーだって本当は俺と同じ意見だろ!」


スケさんは両手を広げ肩を竦めた。


「もう~すぐ二人はケンカする」

パンパンと手を叩きながらおメアが言う。


「スケさん、カクさんより年少のおメアの方がしっかりしているな~ カカカカカ」

と笑いながらご隠居は言うのであった。


「そんなに暴れたいのならスケさん、カクさんは王都の南門で陽動を仕掛けて。

 ご隠居様と私は城へこっそり入って召喚者たちの救出にあたるわ」


「なぁ~おメア! ガルメニアの奴らは皆殺しにしていいか?

 奴ら、遅かれ早かれ魔物になるのも時間の問題だろ。

 奴らの恐怖心とか食っても美味くも何とも無いからよ」

とスケさんはニヤリと笑った。


ガルメニアの軍人は全員がフェルナンドの支配下に置かれフェルナンドのスキル『王の威光』により徐々に普通の人間ではなくなっていく。

見た目は人間と同じでも精神構造は人間から離れ時間の経過とともに残虐で知力の低い魔物と化していくのだ。

王に近い者ほど早く、より強くなっていく。

一般市民も魔物になるのは時間の問題だった。


「そうね。確かに遅かれ早かれ始末する事になるわね」

とおメアが答えると


「よっしゃぁ!! 皆殺しな!」


「スケさん!それはやり過ぎ!

 宰相ちゃんにバレたら『机叩きの刑』が待っているわよ!」


「スケ!バレなきゃ、いいんだよ! バレなきゃ!

 作戦遂行上、歯向かって来るヤツは殺しちゃっても仕方ないだろ!」


「ハイハイ。カクさんもアウト!

 市民にはなるべく手を出さず兵士や強い者のみ、撃退してください!

 これだから男の悪魔は!!

 そんなことばかりしているから魔族の評判を落としているんですよ!!

 無益な殺生をしても仕方ないでしょ!!」


(そんな甘い考えを持っているのは私が女なのだろうか?)

とおメア思ったのだが・・・・・

自分の愛用の薔薇のムチが古くなったので新品を作るために薔薇の魔王を殺した事はすっかり忘れているようであった。


「では明日の早朝を狙ってスケさんカクさんが南門を襲撃。

 その後、ご隠居様と私が城の地下へ侵入!!

 ということで宜しいですね!」



と、時間は現在に戻る。



「オラオラ!! 雑魚しかいないのか!」

「もっと、つぇ~ヤツ連れて来い!」


スケさん、カクさんが本来の悪魔の姿になって次から次へとやってくるガルメニア守備兵をなぎ倒す。

ある者は爪で鎧を切り裂かれ血が噴出し

ある者は拳で殴り飛ばされ壁に激突し

ある者は蹴り上げられ5mほど上空に飛ばされ落下した。


が、けして止めを刺さず甚振るだけだった。

スケさん、カクさんはおメアの言うとおりにしただけなのだが、それが守備兵にとって幸なのか不幸なのか分からなかった。



パンパン!

と渇いた音が響く、次に


ダダダーーン!

と連射音が響いた。


「いていていていて!!」


「うがーーーー!誰だ! ゴラーーー!!」


スケさん、カクさんが大声を上げ音源の方向を見ると迷彩服を着用しヘルメット被った人間が銃とマシンガンを構えていた。


「てめーら! 何してくれるんだよ!! 服に穴が開いただろうが!!

 これはお譲からのプレゼントだぞ!!」

スケさんが顔を真っ赤にしながら白地に○の中に『ス』と書いてあるTシャツを指差しながら激怒した。


「おらーークソども!! よくもお譲の服に穴を開けてくれたな!!

 てめーら、今すぐ皆殺しにしてやるよ!」

カクさんも牙をむき出し叫びながら黒地に○の中に『カ』と書いてあるTシャツの胸の辺りを両指で引っ張り上げながら威嚇する。


「第一小隊! 構え! 撃て!!」

と城に残っていたコリレシア軍の部隊が再度発砲を開始する。




とスケさん、カクさんが大激怒している間に、ご隠居様とおメアは隠密のスキルを使い城に入り込み召喚者たちが捕らわれている地下へと向かった。

ご隠居様はいつも着ている魔法使いが着るような黒いローブで、おメアは忍者のようなくのいち姿で忍び込んだ。


「ご隠居様、こっちらですよ」


とおメアが道案内をする。


「おメア、よく城の内部を知っているな~」


「はい、何度となく潜り込んでますからね」


「何しに潜り込んでおるのじゃ!」


「まぁ、色々ですよ。色々」


「なんじゃ、そりゃ~ おメアも色々と悪いことしているんじゃないかろうな。

 宰相にバレても知らんぞ!」


「大丈夫ですよ。バレなければいいんですよ。バレなければ」

と笑って答えた。


「おメア、昨日、カクさんに注意しておっただろうに」


「ご隠居様、細かい事を気にしていると禿が進行しますよ」


「う、うるさい! ワシはこの頭が気にいっておるのじゃ!」


「はいはい。もうすぐ地下牢ですよ」


おメアは何度も潜り込んでいるからなのか、表でスケさん、カクさんによる騒ぎがからなのか、ガルメニアの兵士にもほとんど会うことは無かった。


地下牢へ近づくほど湿っぽさが増してくる。

そしてカビ臭さが鼻腔をくすぐる。

薄暗く衛生的とはいえない風景がそこにはあった。


「予想通りとはいえ、酷いところですわ。

 さっさと救出しましょう」


地下牢の前には門番が二人いた。

おメアはスリープの呪文を唱えると門番は膝から崩れ落ち深い眠りに就いた。


同じような牢屋が幾つも続いている。

ご隠居様、おメアは片っ端から牢屋の鍵穴に解除の呪文を唱え扉を解除していく。


「お前たち、勝手に逃げ出せ! 南の方へ行くと危ないからな」


最初は何が何だか分からなかった囚人達も逃げ出すチャンスとばかりに一斉に上の階を目指し階段に殺到した。


「この中に召喚者されてきた者はいない?

 高校生はいない?

 日本から来た子はいない?」


おメアが声をあげた。すると牢屋の中ほどから


「助けて~

 助けてください」


「こっちです。こっちです」


「こっちです、ここにいます」


少年たちは残りの力を振り絞るように叫んだ。

声の方へ行ってみると、3人の少年が倒れていた。

3人は仰向けに倒れていて体を動かすのも間々ならない状態だった。


「助けてください。

 僕たちは日本から召喚されました」


3人の服はハチベーが着ているものと同じデザインをしていた。

異なっていたのは服がボロボロになり、いたるところが破れていた。


(この子たちで間違いない)


「君たちが日本から召喚された35人?」


「そ、そうです。お姉さん」


牢屋の奥を見ると同じ服を着た悪臭を放ち、動くことがない少年が二人倒れていた。


「ご隠居様、こっちです」


「おい、坊主ども歩けるか?」


ご隠居様がやってきて動いている3人に声を掛けると


「ダメです。足の腱を切られていて歩けません」


「仕方ないの~」


とご隠居様は背筋をピンと伸ばし少年二人を荷物のように両脇に抱え


「おメアは残りの一人を抱えていけ」


というとおメアも荷物を担ぐように左肩に乗せた。


「脱出するぞ!」


「はい、ご隠居様」


と地下から上の階へと歩みを進めた。

おメアは一人の少年に肩を貸しながら尋ねた。


「白田 碧と言う子はいない?」


「白田はここにはいません」


「ここには? どこにいるか分かる?」


「いいえ、召喚された次の日には追い出されたから分かりません」

と苦しそうに答えた。


「じゃ、牢屋で亡くなった子やアホ1、アホ2ではないのね」


「違います。追放された4人のうちの一人です」


良かった。良かった。

所在はつかめないが今の段階で亡くなっていない事が分かっただけでも収穫だ。


とおメアは安堵した。




その頃、城の南側では


「おどりゃ~!貴様ら皆殺しだ!!」

スケさんが爪を伸ばしコリレシア兵の頭をヘルメットごと串刺しにする。


ダダダーン!!


他のコリレシア兵がスケさんを後から撃つ!


「てめーー また服に穴が開いたろうが!

 悪魔を後ろから撃つなんてどれくらい卑怯なんだよ、お前らは」


と叫ぶと伸ばした爪が水平に薙ぎ払われる。

首がポロンと落ち血が吹き上がる。


一人の兵士が手榴弾をカクさんに投げつける。

足元に転がった手榴弾をカクさんが拾い握りつぶす。



ドガーン!


「ゴラ~~~!! てめーら、何してくれんだよ!

 お譲から貰ったシャツが黒焦げになったろうが! 死にさらせ!!」


カクさんは手榴弾を投げつけた男に近づくと50cmほどある右手で男の頭を握りつぶした。


「撃て、撃て! 撃てーー!!」


隊長らしき男が半狂乱になりながら射撃命令を下す。


ダダーーン

ダンダン!


銃声が城下に響く!


銃声と銃声の間を縫って


「てめーーら! ぶっ殺す」

「死ね! ゴミクズが!」


「どうすんだよ! お譲のシャツを!」

「せっかく、お譲が買ってきてくれたのによ~」



と2匹の悪魔の怒鳴り声がガルメニアの城下に響く。

2匹の悪魔が絶叫するたびに死体が一つ、また一つと増えていく。


「くたばれ! 異世界の豚ども!」

「地獄へ落ちろ! 豚が!」


スケさん、カクさんが王都に残っていた多くのコリレシア兵を始末すると


「スケさん、カクさん! 派手にやったの~」


スケさん、カクさんが声のする上空を見るとご隠居様が二人の少年を両脇に抱え空を飛んでいた。



「あ、ご隠居様! 見つかりましたか?」


「いや、助けた中には居なかった」


「あ~あ、スケさん、カクさん!ちょっとやり過ぎじゃない?」


おメアも左肩に少年を担ぎ飛空魔法で空を飛んできた。


「仕方ねーだろ! こいつらお譲のシャツをボロボロにしたんだぜ!」

「そうだそうだ!! 皆殺しにしなきゃ俺たちの気がすまねぇんだよ」


「そんなに大事な服を着て戦う二人が悪いんじゃないの?」

 宰相ちゃんに知れたら大変よ~

 『机叩きの刑』じゃ済まないかもしれないわよ」


パーーン!


一発の銃声が響いた。


「いた~~い!! 何するのよ!! この豚が!!」

おメアのお尻に一発の銃弾が当たった。

 

「レディーのお尻を狙うなんて許さない!!

 ヘルフレイム!!」


ガルメニアの城下に極太の火柱が上がった。


「おメア! いくらなんでも、ちとやり過ぎじゃないか!

 宰相にばれたら大変じゃぞ!」


「大丈夫ですよ。ご隠居様。

 バレなきゃいんですよ。バレなきゃ!!

どのみちコリレシアの豚どもは燃やしておいた方が良いので、丁度良いではないですか!!」


と言うとおメアはそ知らぬ顔でナミラーの方角を目指し飛んでいくと、3人の悪魔も追いかけて行くのであった。

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