第124話 狐と狸の化かし合い
「ベルファ王子との結婚は?」
とレイランが加奈に尋ねる。
「ないですよ。私たちは自分たちの故郷に帰りたいと思ってますから」
「マストンの後継者にと言う話を聞いたのですが」
「私もついさっき王子から聞いたのですよ。お酒の席での話しだそうですよ」
「魔王討伐の影の功労者と聞いておりますぞ。加奈殿が作戦を立てて茜殿が実行していると」
「いや、それは作戦と言うより行き当たりバッタリで・・・・
今は猫を被ってますが茜はコントロールできるような子では無いですよ」
「茜殿がマストンの顔を鷲掴みにしたとか」
「そうですよ、あの子、いきなり一国の宰相にアイアンクローを掛けるんですよ。
私、死刑になると思いましたよ」
「いい気味ですな~ マストンの頭を握りつぶしてくれたら清々するのですが、ハハハハハハ」
「レイラン宰相閣下、そんなこと言っていいんですか?」
「良いも何も、マストンも同じ事を言うに決まってますよ。ハハハハハ」
「実はお二人とも仲が良いのですね」
「ハハハハ、何をおっしゃる。あのような『くそじじー』はさっさとくたばれば良いのですよ」
自分もその『クソジジー』なのを棚に上げて毒づくレイランであった。
「お二人は同時代の傑物同士、色々感じる者があるのでしょうね」
「止めてください、あのような生臭坊主と一緒にしないでいただきたい」
レイランの瞳は笑みを浮かべているのを加奈は見逃さなかった。
「私たちは茜のお兄さんを見つけて早く帰りたいのですよ」
「他の34人は?」
「一応、そっちも探せたらと思いますけど茜にしてみればお兄ちゃんとその友達、数人以外はどうでも良いと思っているでしょうね」
「他の者たちが、ちと可愛そうですな」
「でも、私も茜のお兄さんたち以外は・・・まぁ、どうでも良いかと。探せたら探すといったところですね。
ですから、何か情報があれば一つ残らず教えて頂きたいのです。
もし、この世界で碧さんが不幸な目に合っていたらと考えるだけで・・・・・」
「それは、加奈殿も碧殿のことを、と言うことでしょうか?」
「いえ、もしどこかの国が碧さんを傷つけていたら茜がその国を滅ぼすのでは無いかと心配で。
万が一碧さんを殺めでもしていたら・・・・・ハルフェルナを破壊しつくしそうで怖くて怖くて」
「ま、ま、まさか、滅ぼすなんて大袈裟な」
「城や山なんか簡単にフッ飛ばしますよ。
茜の『お兄ちゃん愛』は普通じゃないのですよ。危険水域をとっくの昔に突破しているので・・・・
この世界が兄弟で結婚できると聞いたら、アルファ王子に爵位と家名が欲しいとか言い出すのですよ。あの子は」
「そ、そ、それならウインレルでも爵位と家名、領地も用意致しますよ。
加奈殿の分も用意致しますから、そのときは声を掛けてください」
レイランは顔を引きつらせながら言った。
友好国であろうと魔王を簡単に葬れる者に爵位を与えると言うなら、こちらもそれ以上の物を用意しなくてはならないと。
出来ることならウインレルに取り込みたい。が、ファイレルにリードされている以上、こちらにも何とか取り込みファイレルと共有と言う形をとりたいと思っていた。
加奈は、あぁ~この件が本命かと見抜いた。
「私たちは異世界に帰ることが第一希望ですから安心してください」
「加奈殿、勇者の召喚の件ですがお力添えしていただけるのはありがたいのですが・・・・・・」
そこへ茜とアインマッスルが戻ってきた。
「我が国も勇者を召喚した方が良いと思っているのです」
「えーー召喚なんてしないでよ、王様はしないって言ったじゃない、レイランさん。
犠牲が出るんでしょ。私は嫌よ。人の死なんて見たくない。
私は妨害するわよ。全力を上げて」
「茜!何て事を言うの!」
「だってそうじゃない! 私たちがいれば充分でしょ。
それに勇者が増えれば日本に戻るのが大変になっちゃうじゃない!
ゲートを作って、魔王石を取って。
魔王を倒しても全員がゲートになるわけじゃないでしょ。
足りなくなっちゃうじゃない。そうしたら日本に帰れないかもしれないでしょ!」
加奈は『あちゃー』と言う顔をして顔を押さえた。
「なるほど、そういう裏もあったのですな。賢者・加奈殿。
さすが『マストンの後継者』と言われるだけの事はありますな」
茜は、え??何、何?私なんかマズイ事を言った?と言う顔をしながらオロオロしていた。
「あのねぇ~、茜、私は何も善意だけで召喚に反対したわけじゃないの。
茜の言ったとおり、召喚者が増えるとゲートや魔王石の数が足りなくなる事を恐れて反対したの」
「え?言っちゃだめだったの・・・・・・・最悪、メアリーをプスッとやっちゃえばいいかなと思っていたのだけど」
と、茜はサラッと酷い事を言う。
「まぁ、レイランさんはすぐに気がついたでしょうけどね」
とレイランを見て言った。
「そういうことでしたら絶対に召喚はしません。王も望んではいませんから。安心しなさい」
「ただ、これだけは言っておきます。碧さんのことで何か隠し事があったら茜を止めることはできませんからね」
「明日にでも国中に
魔王の討伐をお願いする」
とレイランは頭を下げた。
「レイランさん、でも、中には人間と敵対を望まない魔王もいるから。メアリークィーンのように。
会った事ないから分からないと思うけどメアリークィーンは人間を害しようとは思っていないから・・・・・
人間に友好的な魔王を討伐するのは気が引けるわ」
「その辺は茜殿たちに任せるしか無いだろう。
我々で魔王をどうにかできるとは思えないのでな。
その時は改めて検討すれば良いことだ」
「あぁ、でもレイランさん。召喚者が全員使えるかは微妙ですよ。
茜は別格としても私たちの勇者は・・・とても使い物になるとは思えないので。
茜がすんなり勇者を取っていれば楽に物事を進められたのにノリで横取りした馬鹿ですから・・・・・それで私たちは苦労してます」
と加奈がガッカリ肩を落とした。
「魔王を殺すことが出来ると分かった以上、無理に封印する必要が無くなったので使い物にならない勇者は邪魔にしかなりません。
私たちも半分以上が必要ない・・・
より正確に言うなら茜以外必要が無いと言うのが正解ですけど」
どこまでも辛辣な加奈であった。
「いや、最低限、加奈と詩織は必要。二人がいなければ私はこの世界で迷子になっていると思う」
「違うでしょ、私達がいなければ魔王になっていたでしょ。茜は!」
「こんなに可愛い魔王がいるわけ無いじゃない~加奈ったら酷いんだから~~」
と笑いながら茜は言う。
「レイランさん、魔王討伐ですけど・・・・・地形が変わったりするのは許してくださいね。
茜が本気出すと山が無くなったり湖が出来たりするので、その辺は許してください」
「そ、そんな事があるのか!?」
「現に湖作ったり、カルピナ山は上半分が無くなってしまいましたから。
ウインレルとの国境にある城も壊しちゃいましたから」
「わ、わ、分かった。魔王を討伐できるのなら致し方ない」
レイランの
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