第114話 二人の魔王


砂埃を撒きあげながら巨大な物体が迫ってくる。

全形は見えないが大きい物体だと言う事は地響きの大きさで分かる。

距離は500mを切っている。


ゴゴゴゴー

ゴゴゴー


何かが走っているような音だ。


「魔王よ!魔王がこっちに向かってきてる。しかも2匹いるわ!」

茜のスキルが魔王に反応した。


その魔王らしき物体が


キェーーー

キェーーー

キェーーー


と叫んでいるのが聞こえる。


砂埃が徐々に大きく、地面を揺らす振動も大きく、その大きな物体も段々と見えてきた。

目視できるのはその大きな物体だけだった。


徐々に近づいてくる。

高さは100mくらいはあるだろうか。

砂埃に隠れながらその物体は見えてきた。


「木だ!」

「木が走ってるぞ!」

お付きの騎士たちが叫ぶ。


「違うよく見て、蔦よ。薔薇だわ」

加奈が答える。


「燃えているわよ」

千代が叫ぶ。


薔薇は体の上部に真っ赤で大きな花を咲かせ、下半身も上半身も無数の小枝で構成されていた。

その上部は火で燃えていた。

無数の蔦で頭部の燃えている炎を振り払おうともがきながら走っている。


上空には翼の生えた生物が飛んでいた。

その生物は次々に炎の魔法を巨大な薔薇に向けて放っている。


「何あれ? 戦っているの? 魔王同士の仲間割れ?」


「茜様、魔王同士の抗争だと思います」


「王子様、どうすればいいの?」


「戦略的には弱い方の薔薇に加勢した方が良いと思いますが・・・・

 状況がよくわからないので・・・・・」


「という事は、行き当たりバッタリということね」


「ただ、このまま、こちらの方へ巨大な薔薇が来ると我々の後ろにある村、町へ被害が出る恐れがありますから」


「じゃ、取りあえずは薔薇を倒せばいいのね」


と、王子と会話している間にも薔薇の魔王は近くまで燃え上がりながらやって来た。

そう、茜は虫でなければ問題ないのだ。

魔王を蹂躙できる能力を持っていても虫だけは・・・・・


茜が全員の前に出てタナの剣を構える。

すると薔薇の魔王はピタッと動きを止め静止した。

薔薇の魔王には眼は無いように見えるのだが、どうも茜と見合っているようだ。


ウキャーーー!

ウキャーーー!


と叫んだ瞬間、薔薇の魔王は回れ右をして空を飛ぶ魔王の方へ逃げ出した。

その叫び声は空飛ぶ魔王に攻撃されたときのよりも遥かに切羽詰った恐怖を感じる声だった。


「ヘッ?」

「エッ?」

「ええ?」


魔王のあまりに突然の行動に全員は唖然とした。


「逃げたの?」


「茜ちゃんを見て逃げたんじゃないの?」


「何よ、詩織!失礼ね!!」


「それはあの薔薇に言ってよ。茜ちゃん」


「頭、きた!! こんな美少女を見て!!」

誰もが思った。

自分で言うか?と


「あの薔薇、燃やしてやる!!」

怒気を発しながら茜は飛空魔法で薔薇の魔王を追いかけた。


「ゴラ~~~~薔薇!!許さん!! 私を見て逃げるとは何事だ!!許さん!!」

茜もファイヤーボールを薔薇の魔王に撃ちまくった。


ギエーーー

ギエーーーー

ギエーーーーー

と叫び声を上げながら薔薇の魔王はもがき苦しんだ。



「あ~~ら、お譲ちゃん、手伝ってくれるのはありがたいけど燃やし尽くしたら私が困るのよ。

 ウォーターウェイブ!!」

もう一人の魔王が話しかけてきた。


頭にはすこしだけ巻いた角

白い肌をほとんど露出しているような最低限のビキニアーマー

背中には拡げれば3mを超えそうな漆黒の羽

スラッとした長い足には黒いストッキング

胸は詩織をも凌駕するダイナマイト

お尻もプリンプリンの・・・・・

早い話、ナイスバディーな女の悪魔だった。


女の悪魔は虚空に手を入れるとバラのムチを取り出し自分の頭の上で2度3度回転させる。


ヒュン!ヒュン!

と空気を切り裂く音が聞こえたかと思うと


パシーーーン!!

とムチが薔薇の魔王に直撃をする。


キエーーーーー


薔薇の魔王が叫ぶ。

直撃した10mほどの腕、枝はドサッと音を立て地面に落ちた。

それを3度ほど繰り返すのであった。


「これで材料は充分ね。 お譲ちゃん、こいつ、殺しちゃっていいわよ」


「へ?」

茜は今の状況がよく分かってなかった。


この露出狂は薔薇の魔王に炎の魔法を打ち込んで攻撃していたはず→敵対していた。

私が炎の魔法で加勢する→水の魔法で火を消した→薔薇の魔王を助けた→私たちの敵?

バラのムチで薔薇の魔王の腕を?もいだあと、『殺しちゃっていい』と言う。


????????

なに、なに?どういうこと?


「え?お譲ちゃん、コイツ、殺さなくていいの? 放っておくと危険よ」


「え? なに、なに??」


「じゃ、私が始末しておくわね」


というとバラのムチで薔薇の魔王を切り刻み始めた。


キエーーー

キエーーー


薔薇の魔王の断末魔の悲鳴が辺りに轟く。


「ヘルフレイム!!」


地獄の業火が薔薇の魔王を燃やし尽くし、その中に今まで使っていたバラのムチを投げ入れた。

その後、炎は萎むように小さくなり消え、そこには10cmほどの赤い石だけが残った。

女の悪魔は地上に降り薔薇の魔王の枝を集め収納魔法を使い虚空へ入れた。

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