第77話 到着 セキジョー・ダンジョン


セキジョー・ダンジョンへの旅は順調に進んだ。

途中、小さく名も無き村をいくつか通りながら・・・・・・

近づくにつれてサンジョウ、ダイワから逃げてきた人々が増えてきた。

話を聞くと銀色の巨人と白いゴーレムに襲われた話、火を噴く馬車の話ばかりだった。

多くの人が傷つき、多くの人が家を失い、多くの人が亡くなった。

この難民を作ったのが俺達のクラスメイトだという現実が圧し掛かる。


なぜフェルナンド王に手を貸したのかは当人たちに聞かないと分からないが、どんな理由があってもこれだけの虐殺をおこなったのだから許されるべきではない。

七海が行ったルホストの町での行為とは話が違うのだ。

たとえルホストの兵士が全員死んでも彼らは兵士なのだ。

星野、鈴木、山中が行ったことは民間人への大量虐殺なのだ。

奴らと再会した時、俺はどうすれば良いのだろうか・・・・・



ナミラーを出てから3日後セキジョー・ダンジョンが見える地点に到着した。

ダンジョンの上部は石造りの柱が沢山並んでいた。

アレックスさんの話によると大昔にはいくつもの神殿があってロゼ教の祭りが行われていたのではないかと言うことだ。

このセキジョー・ダンジョンがロゼ教の始まりの地とも言われているらしい。

が、遥か昔、神話で語られていることなので半分ぐらいは嘘だろうと言うのがアレックスさんの見解だ。

そして、ダンジョンの入り口は一番大きい神殿の残骸の中心にあるそうだ。


ここで食事を取った後、セキジョーダンジョンへ行く事になった。

アレックスさんに俺のスキルの事を話すと。


「あっ、だから碧さんが一人で調理しないといけなかったんですね。

 商業ギルドから派遣した調理人たちが皮むきとか下拵えだけしかさせないことにネーナも不思議がっていたのですよ」


「実は俺の作った料理を食べて俺と信頼関係が確立されていると自分のステータスが見えたりするんですよ」


「え~~ 自分のステータスって『ステータスの鏡』が無いと見れないはずですよ。 

 私、自分のステータスを見たのって大学の入学依頼ですよ」


「目の前にボードがあるようにイメージしてみてください」


アレックスさんは両手を握り真剣な目をした。


「あ、見える。見える。凄いですわ。私、水魔法、使えるんだ。今、初めて知りました。

 これで水の確保に困らないで済みますね。

 私、碧さんから信頼されていると言うのが嬉しいです」

と言ってアレックスさんは俺の両手を握った。


「はいはい、お二人さん、いい雰囲気作らないでくださいね」

「アオ君、何見つめ合っているの?」

と七海と将太が俺の両脇を抱えるようにしてアレックスさんから引き離した。


「ちょっと、二人とも何するんだよ~アレックスさんの柔らかい手を握れたのに」


「アオ君がアレックスさんに変な気を起こさないようにね」


「あ~~、さいでっか~」


「残念ですわね、碧さん」

と言ってクスッとアレックスさんは笑った。


俺はアレックスさんをとても好ましい人物だと思っている。

ガルメニアが侵攻したときも自ら進んで調理や雑用などをしてくれた。

しかも汚れても良い服装で。

名家のお嬢様がそんな服を着て手伝う姿は感動的でさえあった。

俺自身、こんなにも気持ちの良い人と信頼関係が築かれていることを有難く思った。



「俺の作った食事を取るたびに各ステータスが1づつ上がるらしいですよ」


「え?それどういうことですか!?」


「今言ったとおり、1上がるんですよ」


「エッ!! では10回食べると全ステータスが10上がるのですか?」


「俺自身は上がらないので確認できないのですが、みんなは食べた回数だけ1上がるみたいですよ」


俺の言葉に全員が頷く。


「では。碧さんと1ヶ月くらい一緒に旅すれば100近くあがると言うことですか!!」


「まぁ~そうなりますね」


「うそ~~~~!!凄い! 凄すぎです!! こんな能力聞いたこと無いですわ!! 

 セキジョー・ダンジョンに行ったら私の研究室があるオリタリアの首都リーパスへ行きましょう。

 色々と碧さんを研究させてください!!」


「止めてくださいよ~ 俺、異世界人で女神様から祝福を貰っただけですから。 

俺を調べても何も分かりませんよ」


「そうですか・・・・・せめて子種でも」


ぶっはっ!と思わず噴出してしまった。


「▲×□●・・・ダ、ダメです!!まだ、わ、わ、私たちは高校生ですから。

そ、そ、そんな不純な事はしてはいけません」

「そ、そ、そうだよ、アオ君!そんなことしたらダメだからね!」


「エッ!ダメなの? 俺、したいんですけど」


「「ダメです!!!」」


と将太と七海は綺麗にハモったのであった。

その光景を見ながら智弘と則之は腹を抱えて笑っていた。




食事を終え周りにガルメニア兵が居ないか確認し慎重にダンジョンに近づく。


「ちょっと待て、あれは装甲車じゃないか?」

智弘が見つける。

明らかにハルフェルナに有ってはいけないものだ。


「まずいな、コリレシア軍が居るという事は山中が居る可能性があるな。

 戦車部隊を召喚されたら厄介だな。

 ここはどうするか? 一時撤退を選ぶべきか・・・・・」

智弘が悩んでいる間に俺は、


タナニウムの鉄板プレートを取り出し左手に

頭には両手鍋を被り

背中にランドセルを背負い

胸に最初に貰った中華鍋をヒモで固定し

右手に中華君を装備した。


どうだ!!女神様から頂いたオマケ装備


別名 フルアーマー・碧!!



どう見てもアホだ。

誰が見てもアホだ。

戦いを舐めているだろう!と言われてもおかしくない装備だ。

が、これが今の俺の最高装備だ!!



「あの私、索敵の魔法が使えますよ。相手が私より高レベル過ぎると役には立ちませんけど」

とアレックスさんが提案してくれた。


「それは素晴らしい!お願いできますか?」

智弘が即答した。


「search」

アレックスさんが呪文を唱え目を瞑る。

しばらくして。


「ダンジョン内部までは分かりませんが地上には誰もいませんね」


「全員でダンジョン内部に入ったということか?」


「?????それはおかしいぞ、碧。全員で中に入ると言うことはありえない。少なくとも俺ならそうする。

 装甲車以外にもトラックがあるから少なくとも100名以上で行動しているはずだ。

 地上にも何人かは残しておく」


「そうですね。智弘さんのおっしゃる通りだと思います。私たちもダンジョン内の調査のとき必ず数名は地上に待機しています。

 内部で何かあったときの援軍や緊急事態のときの連絡要員として待機させますね」


「これは何か対処不能なことが起きたのかもしれないな。みんなどうする?」

智弘が意見を求めてきた。


「とりあえず様子を見るために、もう少し近づいてみないか?」


「確かに碧の言うとおりだな。慎重に近づくことにしよう」


俺たちは馬車を置いて徒歩で静かに近づく事にした。




装甲車やトラックが見える位置に300mほどに近づくと何か嫌な臭いが風に流され漂ってきた。

誰もが不快な顔をしていた。

なんだ、この匂いは?


・・・・・・・血だ。血の臭いだ。

近づけば近づくほど血の匂いは濃くなっていく。

装甲車まで100mを切ったところで二人の男が慌てて1台の装甲車に飛び乗った。

一人は鎧を着ている・・・・・ガルメニアの騎士だろうか?

もう一人は見慣れたブレザーの服を・・・・・・あっ!!山中だ!

二人は慌てて装甲車の飛び乗ると慌てて走り去った。


「智弘、見たか?」


「山中だ!」


「追うか?」


「止めておこう、今はダンジョンの方が重要だ。あいつにコリレシア軍を召喚されたらまずいことになるからな」


「あんなに慌ててどうしたんだろうな? 切羽詰っている様子だったけどな」


「何かに追われているようにも見えたな」


「ダンジョン内部に強いモンスターでもいたのかもな」


「ダンジョン内には危険なモンスターはいませんでしたよ。

 私でも逃げることが出来るモンスターばかりだったので、転移者のみなさんなら問題ないと思います」

アレックスさんが答えてくれる。

もう少し近づいてみることにした。

装甲車が3台、トラックが4台残されていた。


「誰もいないな。この装甲車貰っていくか」


「碧、運転できるのかよ」


「習うより慣れろ!だよ」


「全員で運転の練習だな」


俺はマジックランドセルに入るか試してみた。

装甲車どころかトラックも難なく入った。

ご馳走様でした。

これで移動も速くなる。


「キャーーーーー」

「キャーー」


七海とアレックさんの悲鳴が聞こえた。


「どうした!」


「ア、ア、あれ見て。白田君」

と七海は指差した。

その方向にはおびただしい数の死体が地面に散乱していた。


「なんだよ、これは」

この死体が血の匂いの素であった。


俺、智弘、則之で死体の方へ近づく。


「軍服だな。コリレシア軍か?」


「あぁ~コリレシア軍だな」


「遺体の山でゴザルな。誰の仕業でゴザルか?」


「剣で切り裂かれた傷が多いな。こっちは火炎魔法か。焦げているな。

 争ったというより、ほぼ一方的に蹂躙した感じだ。

 これだけの敵を一方的に始末できるという事は的は複数いるな・・・・・・・」

智弘が冷静に分析しこう言った。


「気をつけろ、これを殺った奴は近くにいるかもしれない」


俺たちは山中が逃げ出した理由を悟った。 

近代軍であるコリレシア軍が一方的に倒せる者がこの近くにいるのだ。

俺たちの元に緊張感が走る。                         


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