第13話 惨殺


智弘がおじいさんの様子を見ていた。

目を合わすと首を振った。

親切なおじいさんだったのに残念だ。



「う、う、うぅ」

30mくらい離れたところからうめき声が聞こえた。

七海の魔法でブッ飛ばされた賊たちだ。


俺と智弘と則之は倒れている賊の方へ向かうと

俺が刺した賊は出血多量で生き絶え絶えの状態だった。

一人は動くことが出来ず仰向けで胸を押さながら口から血を流していた。

もう一人は体を起こした瞬間に血を吐き出した。

3人とも長くは無さそうだ。


「則之、こいつらは野盗じゃないのか?」


「野盗にしては剣筋が綺麗過ぎるでゴザル。野盗にしても剣の心得のあるものでゴザルよ」


「則之がそういうなら間違いないだろう。オタクらは何者なんだい?」

智弘が賊に問いただす。


「・・・・・・・・・」


「答える気は無いのね」


俺は出血多量で行きも絶え絶えになっている賊の首にシャベルを振り下ろした。


「ウグッ」

出血多量の賊は絶命した。


「碧殿!!」


「碧!」


則之と智弘が声を上げた。


「もう、助からないだろう。生きて帰す気も無いけどな」


「碧殿、やりすぎでゴザルよ」



少し間を空けて智弘が

「いや。則之、碧が正しいよ」


賊の剣を拾い上げ見てみる。


「なんか高そうな剣だね。身なりは野盗にしか見えないけど剣は良さそうなもの持っているね」

智弘に下手投げで渡す。


「俺も剣は詳しくないけど剣先以外は傷一つ付いていないな。真新しいな。則之、分かるか?」


「拙者も西洋剣は詳しくないでゴザルが武器屋に置いてあった上級クラスの剣に近いとおもうでゴザル」



「もう一度聞くけど、オタクら何者?」


「・・・・・・・・・・」


「答える気は無いのね」



「ガゴン」


シャベルの平の部分で体を起こした賊を殴り飛ばした。

賊はウグッといって倒れた。



「アオ君!!」


「白田君!! ダメ、それ以上やったら死んじゃう」


将太と七海が俺の傍に叫びながら寄ってきた。


「アオ君、止めなよ」


将太が俺の右手を押さえる。


「こいつら、十中八九、ガルメ二アの騎士だよ。俺たちを追って殺しに来たんだよ。

七海を斬りつけたヤツらだよ。情けをかける必要なんてない」


「私、生きてるよ。骸骨だけど生きているから。復讐みたいなことしなくていいから。ね」


振り向くと七海が両手を重ね祈るようなポーズで俺に訴えかけてくる。


「七海、将太、それは甘いよ。御者のおじいさんを殺したんだぜ。

こいつ等を生かして帰せば、七海が生きていることが露呈する。

今度はもっと強力な追っ手が来るだろう」


「でも白田君、考え直して。そんなことしなくても・・・・・・」


「七海、それだけは出来ない相談だ。碧の意を汲んでやってくれ。

則之、二人を離れたところへ連れて行ってくれ。ここは俺と碧で片付ける」


「頼むよ。則之、智弘の言う通りにしてくれ」



しばらくの沈黙の後

「分かったで、ゴザル。さぁ、二人とも行くでゴザルよ」


「嫌だよ~アオ君に人殺しはさせたくないよ」


「そうよ、復讐なんてしなくていいから」


「頼む。則之」


則之は抵抗する二人を左右に抱え俺と智弘の元を離れた。





「さぁ、騎士様、続きをしましょうか。誰に頼まれた?」


「・・・・・・・」


「ガコン」


「フェルナンドの差し金だろ!」


「・・・・・・」


「ガコン」


智弘は腕を組みながら何も言わずぶっ飛んでいく騎士を見ている。


「ガコン」


「さすが騎士様ですな。王を裏切ることは出来ませんか。なら、もう一人の方を」


「俺が代わろう」

智弘が先ほどの剣を持って、もう一人の騎士に近づいた。


「智弘、待て。俺がやる。お前まで手を汚すな。こんな不愉快な思いをするのは俺だけで充分だ」


「あおい・・・・・・・・・」


俺は倒れている騎士にゆっくり近づいた。


「さぁ、騎士様、お仲間が痛い目にあいますよ」


「グサっ!」

「うぐ」


間髪入れずに太ももにシャベルを突き刺した。

大量の血が流れ出した。もう助からないだろうな。助けるつもりは最初から無いが。



「わかった、話す。話す。

そうだ、王の命令だ。お前たちを野盗に襲われたように見せかけ殺せと。

俺の知っていることはそれだけだ」


「それだけか!」


「そうだ。知っていることはそれだけだ。王の命令には逆らえないんだ」


「で、人も殺すか。フェルナンドは素敵な王様だな。お前もお仕えすることが出来てさぞ幸せだったろうな」


「・・・・・・・」


「すまんな。お前たちを助ける気は最初から無かったんだ。

お前たちを俺が殺さないと傷つく人がいるからな。これ以上、苦しい思いはさせたくないので死んでくれ。

もう一人もすぐに送ってやるから。来世ではもっと良い主君にお仕えできるといいな」


騎士の首にシャベルを突き刺した。

そして、最後の騎士の首にもシャベルを突き刺した。


「すまん。碧。お前にだけ嫌な思いをさせてしまって・・・・・




すまん。お前は友達思いだな」

智弘は俯きながら泣いていた。


「いいんだよ。七海にこれ以上苦しい思いをさせたくないから。今のうちに『人殺し』にも慣れておかないとな。

ここは日本じゃないんだ。日本じゃ」



ローブの下はヘンタイルックの智弘の肩を抱きながら、ゆっくり則之たちの元に向かった。


「終わったよ」


「アオ君、3人は?」


「殺したよ」


「なぜ?なぜ?なぜ、殺す必要があったの?」


将太の言葉に何も返すことができなかった。


「アオ君、変わったよ。異世界来てから人が変わっちゃったよ。

僕の知ってるアオ君は人を殺めるような事は絶対にしない人だったのに、 

どうしちゃったの? ねぇ~どうしちゃったの??」


泣きながら問い詰めてくる将太に何も答えることが出来なかった。


「ねぇ~ねぇ~答えてよ。アオ君、答えてよ。僕の知っているアオ君を返してよ。

誰にでも優しいアオ君を返してよ!」



「将太、いい加減にしろ!! 碧が好きこんで人を殺すわけ無いだろう! それはお前が一番知っているだろう!

碧が殺さなかったら俺が殺していたよ。誰よりも優しいから自分が犠牲になったのが分からないのか?

誰よりも付き合いの長いお前が分かってやらなくて誰が分かってやるんだ」」


「でも、でも、殺さなくたって・・・・・・・」


「将太、物事を表面上だけで考えるな。奴らはほっといても死ぬんだ。

これ以上、苦しまずに逝かせてやるのが情けってものだ」


俺の代わりに智弘が代弁してくれた。




しばらく気まずい沈黙が続いた。





「ごめんなさい。ごめんなさい。私のために白田君に嫌な思いをさせてしまって・・・・・・」


「いや、いいんだよ。これ以上、七海に辛い思いはさせたくないから。


「ありがとう。白田君」


と言うと七海は俯いてしまった。



そして、また、沈黙が続いた。






「これから、どうするでゴザルか?」

則之の一言でこの後の始末の話し合いが始った。


まずは、

追っ手の騎士たちは七海を埋葬するために掘った穴に埋葬し、

御者のおじいさんの遺体は野盗に襲われたことにして次の町で引き取ってもらうことにした。

しっかり、追っ手たちの装備品およびお金は頂くことにした。

七海は町の中に入るとまずいので一旦町の外で待機してもらって、

手袋、靴、お面を購入してから再合流するということになった。

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