第10話 追放という名の旅立ち



旅立ちの日・・・・・いや、追放の日、俺たちは王から貰った金を使い次の町へ行くための装備を整えるために町へでた。

驚いたことに貨幣も紙幣も日本と同じ意匠だった・・・・・・が、微妙に偽物臭が漂ってくる。

よく見ると「日本銀行券」や「日本銀行」の文字は無くカタカナで「ハルフェルナ」と書いてあった。

異世界へ来て諭吉さん、一葉さん、英世さんに会えるとは思ってもいなかった。

驚くことにこの世界には100万円札があるそうだ。

主に国と国の取引、商工業者が決済に使うために作られたそうだ。

肖像画は『伝説の勇者・茜様』ということだ。

どんなご尊顔をしているか興味はある。


街の雰囲気、賑わいは中世の町、商店街をイメージさせる。

商店街は現代日本とは違いスーパーマーケットのような何でも置いてあるような店舗ではなく、

魚屋、八百屋、肉屋など食料品店に分かれていた。

旅に持っていく携帯食料は各種生鮮食料品店でも扱っていたが雑貨屋のほうが品ぞろいは充実していた。

雑貨屋で保存の利く食料を、本屋で地図、歴史の本を購入した。


現代と決定的に違うのは武器屋があったことだ。

武器屋を見たとき、異世界に来たのを実感した。

武器屋は十件ほど並んでおり、近くには冒険者ギルドがあった。


「冒険者ギルドに登録して狩りをして生計を立てることができそうだな」

と智弘がつぶやいた。


武器屋で智弘用の女性用ローブ、七海を埋葬する穴を掘るためのシャベル2本を買った。

則之は剣と楯、将太は杖、智弘は魔法少女が持つようなマジカルなんちゃらが標準でプレゼントされていたので・・・・・・

止めてくれ、止めてくれ!!智弘がマジカルなんちゃらを持っている姿は頭のオカシイ人にしか見えない。

3人は武器を最初から持っていたので今後の資金を考え購入しなかった。


俺用の剣も購入する予定だったのだが・・・・・・・俺には装備できなかった。

持つことはできるのだが、振り回すことが出来なかった。

剣に振り回されてしまう状態だ。出来たのは突き刺すことだけだった。

俺には剣も金属の楯も扱えそうに無かった。

なんとか木で出来た楯は腕につけて動かすことはできたが、金属性の楯は長時間装備することは難しそうだった。

昨夜の騒動で血が減っていて体力が無いということもあるかもしれないが、本能的に『俺には使えそう無い』と感じた。

これは他の3人と違って戦闘職ではないからなのだろう・・・・・・俺は3人のお荷物にしかならないのでは無いだろうか。



赤城たちに別れの挨拶をするために城に戻りクラスメイト達に合流すると鈴木、星野、山中の3人はいなかった。

王、自らの指揮する部隊に組み込まれるらしく待遇も特上クラスだそうだ。

武勲を挙げると爵位、褒美の数々、望むものが与えられるようだ。

特に根暗の山中は異様に力が入っていたらしい。


「赤城、俺たちは国から追い出されるのでこれでお暇するよ。

道中の丘にでも七海を埋葬するつもりだ。途中まで、来るかい?」


「いや、それが・・・・・俺たちは城から出ることが許されないそうだ」

赤城は申し訳無さそうに答えた。


「そうなのよ! 紫音を埋葬だけでもとお願いしたのだけど認められなかったの」

井原が続けて答えた。


なんてことだ。あの王は憎しみを買うだけじゃないか。あれで一国の指導者様だというのか。

この国の国民を哀れに思うのは俺だけでは無いはず。


赤城が俺に近寄り小声で

「俺たちも何れここから逃げ出すから、しばらくの間、辛抱してくれ。必ず迎えにいくから」


さすが、赤城!男前だ。


則之の周りには男子が将太の周りには女子が集まり色々話している。


「緑山君。体に気をつけてね」

「緑山、水原には気をつけろよ、あいつヘンタイだから可愛くなったお前に変なことするかもしれないからな」

「将太! お姉ちゃんをお姉ちゃんを置いていかないで!!」

と言って栗原が足元に縋っていた。

あいつはいつからそんなキャラになったんだ?



「赤城なら分かっていると思うが、あの王はお前達を道具くらいにしか思ってないから信用するなよ」

智弘が俺の隣に来て言った。


赤城は黙って頷いた。


「昨夜、井原にも色々話しておいたから、あいつとも相談しておいてくれ。

誰もがお前に頼ってきて大変だと思うがお前しかリーダーに相応しいやつはいないからな。頑張ってくれ」


「俺たちはとりあえず隣のオリタリア共和国へでも行こうと思う」

と、智弘は地図を広げ言った。

オリタリアはガルメニアの北に隣接している国だった。


「おい、智弘、俺もそれ初耳だけど。なぜオリタリアなんだ?」


「オリタリアは俺が勝手に思っただけなのだが、王国や帝国より共和国の方が民主化されているだろ。

民主化されている国のほうが理不尽なマネはされないと思うのだが。どうだ?」


「なるほど。理に適っている。さすが、秀才の水原!!」


「止めろ、赤城、俺はお前に一度もテストで勝ったこと無いんだぞ。自分で天才と言っているようなもんだぞ!

これだからイケメンの爽やか君は!」


「俺たちは俺たちで帰還できる方法も探しておくよ。まぁ、その前にケリはつけてからだけどな」


ケリ?と赤城は疑問そうに顔を捻った。


「じゃ、俺たちは行くよ」


と、将太や則之の方へ視線を移すと。




「ちょっと、もう栗原さん、止めてよ~~」


「将ちゃん、お姉さんを置いていかないで~」


「お前ら、まだそのコントをやっているのか!」


「コントとは何だ!! 一段と可愛くなった私の将ちゃんに手を出したらエクズカリバーで真っ二つにしてやる!」


「ださねーよ! 俺はノーマルだよ。 『男の娘』には興味が無い! 乳がないヤツには興味が無い!!」


「おい、今、貧乳を馬鹿にしたな! 貧乳はステータスなんだぞ!」

篠原がいきなり参戦してきた。

篠原はちびっ子、ロリっ子、貧乳の3拍子揃った『お子ちゃまキャラ』でした。


「は~?何言ってるの? 貧乳がステータスなら巨乳は国宝だ!」


「白田! 殺す!!」


あ~~余計なこと言っちゃいました。俺、殺されちゃうの?

忍者の職業持っている人間にキッチンセットしか持っていない俺が勝てるわけ無いよね。


ビュッ!


あーーーコイツ、手裏剣投げてきやがった。

あぶねーー危うく当たるところだったぜ。


「琥珀、どうどうどう」 


栗原が羽交い絞めにしてくれたおかげで命拾いした。

昨日から命の危険に晒されている。



危ない危ない。ここは早く城を出るようにしよう。

本来なら他のクラスメイトたちも七海と最後の別れをさせるべきなのだが、

仲の良かった4人、特に井原は亡骸をみんなの前に晒すようなことになるので猛反対した。

埋葬後、連絡が取れるようになったらみんなで墓参りに行くということで落ち着いた。



俺たち4人は城を出て隣町へ向かう馬車の乗り合い場へ向かうことにした。

俺は七海の亡骸にロングコートを掛けお姫様抱っこしながら歩いた。


「亡骸ではない七海をお姫様抱っこをしたかったな~」


「そうでゴザルろう。七海殿はみんなの憧れの女子でゴザルからの」


「誰も彼も七海さんの事を好きだよね~ あんなに気持ちの良い人もいなかったからね。

アオ君は大ファンだったもんね」


「そりゃ、そうだよ。美人で明るくて優しくて気が利いてバインバインで!文句のつけようが無いでしょ」


「七海は別格だったな。過去形で言うのが残念だけどな」


「生身の女子に興味の無い智弘も七海だけは認めるか!」


「いや、10歳以下の女子はOKだ!」


「あ~~~コイツ、言い切った! おまわりさ~~ん!ここに未来の犯罪者がいますよ~~捕まえてくださ~~い」






そんな事を話しているうちに馬車の乗り合い場に到着した。

すぐに出発する馬車があったので、それに乗ることにした。

幸いにも搭乗者は俺たちだけなので途中の湖に小高い丘があるので休憩を取ってもらい、そこに七海を埋葬することにした。

一切の交渉は智弘が行った。

ヘンタイでロリコンだが交渉力は抜群だ。

魔法少女なんていう訳の分からない職業より商人になったほうが良かったのでは無いだろうか?




馬車の御者のおじいさんは凄く良い人で二つ返事だったそうだ。

俺たちが転移者だと話すと色々な事を教えてくれた。



「太古の昔、ハルフェルナは神々と魔神との間に壮絶な戦いが繰り広げられたそうな。

その戦いは、魔神側優勢に進み神々の敗色が濃厚になったとき異世界から来た男女二人の若者が神々の危機を救い

魔神たちを撃退したと言われているのじゃ。

男はタナ様、女はロゼ様と言われハルフェルナの神々になったと。

タナとは「神を超える者」、ロゼとは「神を魅了する者」とハルフェルナでは言われておる。

神話としてハルフェルナに伝わっておるのじゃ」


え?タナ?ロゼ?うちの犬と同じ名前じゃん。

そういえば3年前、あいつら2匹揃って1週間くらい行方不明になったことあったな。


「アオ君、タナとロゼだって。あの子達が居なくなったときハルフェルナに来たんじゃない?w」

と、将太が笑いながら言った。


将太はタナとロゼがいなくなった時、一緒に探してくれた。

そのタナとロゼは1週間後にドロだらけになって帰って来た。

2匹のいない1週間、俺は必死になって探し続けた。

学校もサボるか、行ったら行ったで居眠りばかりしていた。

タナとロゼの居ない1週間は地獄のような日々だった。

どこかで事故にあったのではないか、連れ去られたのではないかと不安で眠れなかったのを今ハッキリと覚えている。



「今から2000年ほど前に何人もの魔王が現れハルフェルナに災いを巻き起こしたのじゃよ。

その時に異世界・日本から伝説の勇者・茜様が現れ魔王たちを討伐してくれたのじゃ。

たいそう美しい方で赤い髪に透き通った紺色の大剣を持ち、赤く縁取りがされた白いローブを着て、

魔王たちの軍勢を蹴散らした英雄伝の数々は、ワシが子供の頃、ばぁさんから聞かされ心が躍ったもんじゃ。

虫の魔王と壮絶な戦いの末、城を吹き飛ばしたとか、獣王と力比べをして負かしたとか、リッチの軍勢との闘いとか

この先にある湖は茜様が魔法で魔族を殲滅したときに出来た大穴に雨が溜まって出来た湖といわれておる。

お連れさんの亡骸もその湖のほとりにでも埋めるのが良かろう」


茜ちゃんじゃないよね。茜ちゃんじゃ・・・・・


「勇者様は何人もいたのだが、茜様は別格じゃて。何度ハルフェルナを救ってくださったことか。

茜様は謎の人物でな、何度かハルフェルナに降臨なさっておるのじゃ。

その度に魔族や魔獣などを討伐されておってな・・・・・

茜様は人間ということなのじゃが、最後に降臨されたのは500年ほど前だそうじゃ。

人間なら1500年も生きておらぬじゃろ。

だから、その都度、別の者が選ばれて降臨されたという説と

茜様は神の子、タナ様とロゼ様の娘といわれている説の二つがあるんじゃ。

共通しているのは赤い髪と透き通った紺色の大剣、白いローブを着ていたということじゃな」



「おい、碧、茜さまじゃないだろうな」

智弘も将太も則之も「どうなの?」という顔で俺を見ている。


「待てよ。茜ちゃんなら駅まで見送りに着てくれただろう?みんなも見たじゃないか」


「まぁ~そうだけど。タナとロゼだろ!?出来すぎじゃないか?」


「泣きながら碧殿に泣きついていたでゴザルな」


「茜ちゃん、子供のころから極度のブラコンだからね」


「俺たちが転移する前に茜ちゃんは、召喚されていたってことか?

いや、待てよ。女神様の横に大剣とローブがあったぞ」


「あったな。あれがそうだったのか。あの女神様なら何か知っているかもな」


女神様に何とかして会えないだろうか・・・・・

そうすれば謎が解けるのだが。


「おじいさん、その後、伝説の勇者・茜様はどうなったのですか?」

将太が問いかけると。


「500年前に遥か西にあるクリムゾン魔国の朱殷城(しゅあんじょう)へ紅姫(べにひめ)討伐のために向かったのを最後に誰も見ていないそうだ。

紅姫に倒されたと言われておる」


「ええええ、伝説の勇者より強いものがいるの?

その茜様を倒したといわれる紅姫はやたらと強いんじゃない?」


「そうじゃ、紅姫(べにひめ)の配下は魔王と呼ばれるものばかりらしい。

とくに四天王といわれている魔王は人間では太刀打ちできないそうじゃ。

魔国クリムゾンが人類の方に攻めてこないのは魔属地方を統一しているからとも言われておる」


「伝説の勇者 茜様を倒したものがこの世界にいるでゴザルか。心して掛からないと危険でゴザルな」


「そうそう、朱殷城(しゅあんじょう)には異世界へ通じるゲートとかいうものがあるそうじゃ」


帰る手立てが見つかった。俺たちは顔を見合わせて頷きあった。



「が、朱殷城(しゅあんじょう)に行って帰ってきた者はおらんのじゃ。

だから、本当にゲートがあるか分からんのじゃ。

言い伝えが本当だとすると茜様を倒したような魔王が転移者のためにゲートを貸してくれるとは思えんだろうて」


「その朱殷城(しゅあんじょう)はどこにあるのですか?」


西のワイハルト帝国を西へ向かうとリピン国という小国があるのじゃがその西がクリムゾン魔国と接しておる。

早い話、遥か西じゃて」


「人類側との最先端の城を居城としているなんて余程、自信がるのだろうな」


「なぜ?トモ君?」


「そりゃ、王様が最前線で指揮を執るようなもんだぞ。普通はありえないだろ?

人類なんて、恐れるに足らないということか・・・・・

それとも、人間を誘っているのか?」


智弘は判断がつかないようだった。


おじいさんは他にもいろいろな話しをしてくれた。

そして、最後に転移者であることはあまり人に話さないほうが良いと忠告してくれた。



「さぁ、湖に着いたよ」








ー^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^



「フフフフフ」








ガルメニア城の玉座ではフェルナンド三世が不敵な笑みを浮かべながら騎士団の団長に指示をしていた。


「召喚者の情報が漏れると不味い。あやつらを始末しておけ」



「はい、国王。ぬかりはございません。野党に襲われたようにしておきます。ご安心を」



「今回の神様は奮発してくれたようじゃな。これで世界はワシのものだ! ハハハハハ」


声を上げながら笑ったフェルナンドの瞳は赤く光ろうとしていた。




「フフフフフフ」


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