第4章 第12話 打つ手なし

「キャインキャイン!」


 フェニックスから降り注ぐマグマを、お尻に火が付いた勢いで逃げまくる。

 ヒィ~~! どっちかっていうと、イケメンとかカワイイ女の子に追いかけられたい!


「火の鳥は間に合ってまーっす! って本当にお尻に火が付いてた!」


 スカートの火を叩いて消して、よそ見をしながら走ってたから転んでしまった。

 いった~……くは無いけど、ぺっぺっ、砂が口に入ったし服の中にも入った。

 もう! 最悪じゃん!


「何なのよ! ディータちゃんが何したってーのよ! ……ごめんなさいウソです!」


 急にディータちゃん目がけて猛スピードで飛んできた。

 ひょっとして言葉がわかるのかな? てか早!

 もう真後ろまで来てる!

 

石の壁ストーンウォール!」

麻痺の障壁パラライズウォール!」

火焔障壁ファイヤーウォール!」

魔力防護壁エネルギー・ウォール!」


 とっさに各種防護壁を使ったけど、お願いだから止まって~!

 石の壁は溶かされて通過、麻痺の障壁は一瞬動きが止まったけどダメ、火焔障壁は意味なし、魔力防護壁は数秒で破られた。

 うそん。


「っていうか、いつまで追いかけてくんのよ! ストーカーで訴えるわよ!?」


 必死に走ってるけど、ずーー~~……っと追いかけてくる。

 しつこい男(?)は嫌われるんだからね!


「あったま来た! 食らえ! 精神侵略マインドブラスト!」


 心の隙間、お埋めします!

 あ、隙間を作る魔法だった、てへっ。


「って、高度な魔法使う相手に効くわけないじゃん!」


 また走り出した。

 てか……暑い……汗が滴る……ディータちゃんスタミナには自信あるけど……これはムリ。

 お願い……助けて女神様!


悪魔召喚レッサーデーモン!」


 私の呼びかけに答えてくれた悪魔女神様?は身長10メートルほどで、真っ赤な体にコウモリの翼を生やし、大きな牙と羊の様な丸まった角がある。


「さあ行け! お前の力を見せてやれ!」


 召喚魔法で呼べる中では上位になる悪魔くんは、魔法の制限がない。

 ルリ子のドラゴンみたいに魔法を同時使用したり、種類や回数に制限が無いからやりたい放題!

 やったねパパ! ホームランをブチかませ~~!


 ボシュ!


 そんな音が聞こえたかと思うと、レッサーデーモンは一瞬で蒸発した。

 思わず鼻水垂らしちゃったじゃない!

 魔法も全部無効化されてんじゃん!


「なにあれぇ! 卑怯クサ!」


 もー無理! ダメ! ディータちゃん戦意喪失した!

 えーっと、珍百景逃げるにしかず?


「ゲート!」


 コレをくぐれば海岸近く! 海水浴して優雅なティータイムを過ごすんだー!

 でも日焼けは嫌だから曇り空。さあ! 地上の楽園はすぐそこに!!

 急いでゲートをくぐり抜け……る振りをして伏せると、フェニックスはゲートをくぐって向こうに行った。


「ひゃ~っはっはっは! かかったなバカめが! ディータちゃんと海水の掛け合いっこ開始だ!」


 と、ゲートが消えた。

 はえ?? なんで消えたの? まだそんな時間じゃないよね?

 背後から青白い光が発せられる。


 え? これってゲートの光……!?


 振り向くと、そこには新しいゲートが誕生していて、中からフェニックスが飛び出してきた。

 

「ちょ……タンマ」


 ワシのクチバシって、正面から見たらこんな形なんだ~。

 ああ、ゲートを使えるんなら魔法解除ディスペルも使えるよね……私のゲートを消したうえで、さらにゲートを出して戻ってきたんだ。

 って呆けてる場合じゃない!!


瞬間移動テレポート!」


 噛みつかれる直前に、フェニックスの背後に移動した。

 こわ! マジこわ! 今流れてる汗は冷や汗だ! でも暑い。

 背後に移動したら流石のフェニックスでも……あり? どこいった?


 背後から何かが衝突し、私は宙を舞う。そして、全身が炎に包まれた。


「キャーー!!」


 熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!熱い!!


 全身にマグマが付着していて炎が消えない。腕が炭化していく。

 足は感覚がない。 


 必死に転がって、砂にまみれてやっと火が消えた。

 もう……無理……交代……。


 キャラクターチェンジ

  ユグドラ

 ⇒ルリ子

  しずか

  番長

  ディータ

  メイア

 ◆ ディータ ⇒ ルリ子 ◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。


「ああ、よく頑張ったねディータ。しかし、そうか。結局水が無いとダメか」


 あいつがゲートを消して戻ってきたという事は、水を嫌っての事だろう。

 最大パフォーマンスを発揮できるのがココ、という訳だ。


 つまり……マジで打つ手がない。

 魔法攻撃をしてこないのは、アタシらの魔法抵抗力レジストスペルが高い事を警戒しての事だろう。

 ついでに言うと、自分の体が最大の攻撃力を持っているからだ。


 チッ……やってらんないね、マジで逃げるしかないねぇ。

 にしても暑いね、さっさと再呼び出しリコールで帰るとしよう。


「リコー……!?」


 アタシのすぐ右側からマグマが噴出し、右腕がマグマに巻き込まれた。

 クソッ! 詠唱の時間すらないのかい!

 直ぐに腕を抜こうとするが、一瞬でマグマは黒くなり硬化した。


「……あ?」


 肘から先がマグマ石に入ったまま動けなくなる。

 なんてこったい、熱くするだけじゃなく、熱を奪うことも出来るのかい。

 そして間髪入れず、焼き鳥はアタシに突進してくる。

 これは……避けられないねぇ。

 

 だからって諦められるかよ!

 ナイフを取り出して右腕を切断する。


瞬間移動テレポート!」


 さっきまで居た場所をフェニックスが通り過ぎ、残っていた右腕は炭になって崩れ落ちた。

 右腕を無くし、ひたすら流れ落ちる血を眺めて怒りが頂点に達した。


「ふっざけんなぁ! 死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!くたばれクソ野郎がぁ!」


 ただひたすらに魔法を撃ちまくった。

 効く効かないは関係ない、頭に浮かんだ魔法を出鱈目に打ちまくる。

 怒り、叫び、暴れる。


 それは当たり前だった。

 興奮状態が冷めたアタシの周囲には、大量の血だまりが出来ていた。

 意識が朦朧としているが、ヴァンパイア化のお陰で意識は保っている。


「はっ、無様だねぇ……これだけやっても、無傷とはねぇ」


 何事も無かったかのように、マグマの中から出てきたフェニックスは……変化が無かった。

 アタシは右腕を失い、失血寸前、意識さえ失いかねない。


 ケンタッキーは飛ぶ必要さえないのか、ゆっくりと歩いて近づいて来る。

 そうだろうねぇ……近づくだけで終わりだからねぇ……。


「お前がな」


 準備は整った。

 ここまで仕込んだんだから、上手くいっておくれよ!


鮮血のブラッディー精霊召喚エレメンタル!」

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