第4章 第6話 心配ばかりかけて、ごめんなさい

「ただいま~」


 夜遅いから声を押さえて静かに扉を開ける。

 家に帰ってくるのは5日ぶりかな? かなり速く終わって助かった。

 鎧も武器もボロボロだし、もっと改良しないとドミストリィとの勝負に使えない。

 もうすっかり深夜だけど、みんな寝ちゃったかな。


 静かに扉を閉めて家に入ると、リビングではロウソク1本だけがともり、リアがソファーで寝ていた。

 え? なんでこんな所で寝てるの? 風邪ひいちゃうよ!


「リア、リア起きて。ベッドで寝ないと風邪ひくよ?」


 ゆっくりと肩を揺らすと飛び跳ねて起き上がった。


「ユーさん!? ユーさん……ユーさん?」


 なんで疑問形?? そして俺の顔を手で触りまくってる。


「怪我してない? 火傷は? 痛い所はない?」


「大丈夫。治療もしてきたし、神獣も倒して、倒してないけど勝った」


「そう」


 リアは安心した顔になり、そして徐々に涙目になっていく。


「え!? あれ!? どうしたの? 何か嫌な事あった?」


 俺に抱き付いて嗚咽おえつを漏らす。


「だって、前は、凄い火傷、で、死んじゃいそうで……今度も、大怪我したら、どうしようって……大丈夫、なんだよね?」


 そっか、ヴォルフの時の俺は半死半生で戻ってきたんだったな。

 酷い火傷で、俺はヴォルフに内側からも焼かれて、ルリ子に交代してようやく勝ったんだ。

 出かける時は明るく振る舞ってくれてたけど、本当は凄く心配してくれたんだな。


「大丈夫だよ。今回は万全の用意をしていったし、俺は前よりも強くなってるから」


 本当は何回か死にそうだったけど、それは言わないでおこう。

 リアの髪に手ぐしを入れながら頭をなで、しっかりと抱きしめる。

 ダメだなぁ俺。嫁さんにこんなに心配をかけるなんて。

 泣かせないって決めてたのに。


 リアが俺にしがみ付いたまま寝てしまった。

 抱き上げて部屋に連れて行こうとしたけど、途中で目を覚ました。


「ん……ユーさんも寝るの?」


「俺は風呂に入ってから寝るよ」


「じゃあ私も入る」


 そう言われて2人で風呂に入った。

 リアは1度風呂に入っているから、リアが俺の体を洗ってくれた……んだけど。

 おさまれ~、おさまれ息子~。今はそういう時間じゃないんだ!

 くそぅ! 裸のリアが体を洗ってくれてるだけだ! 気にするな! 

 気にならないわけないだろ~! ああんもぅ! あ……見つかっちゃった……。

 リアは顔を真っ赤にして……息子を優しく包んでくれた。いやん、リアのエッチ。





 翌朝になり、久しぶりに全員で(宝石ジュエルも)食事をしながら話しをしている。

 シャコの名前はメンティシュリンプ。どうやら甲殻類の癖に地上でも当たり前に活動し、家畜・人間を問わず襲っていたそうだ。

 攻撃が効かず、メンティシュリンプと対峙した者は、粉々に吹き飛んでいたのだとか。

 あのコブ攻撃は普通の人には目視出来ないだろうな~。


 そしてその理由を説明しようとへこんだ鎧を見せた。


「ユーさん? 全然大丈夫に見えないんだけど?」


 あ、いっけね。リアがご機嫌斜めだ!


「アダマンタイト製の鎧をへこませるって、やっぱり神獣だからだな。おっかねぇ」


「アズベル、ちょっとこの鎧を素手で殴ってみてくれないかしら?」


「俺の拳が砕けるわ!」


 食事の後は、みんなしてへこんだ鎧に攻撃をしていた。

 魔法も武器も、しまいには岩を投げつけていたけど、結局鎧はそれ以上はへこまなかった。


「実は私、ユーさんが帰ってきたら手合わせ願おうと思ってたけど、やめとくね」


「そうかアセリア。なら俺はユグドラと勝負するぜ。もちろん鎧は無しで」


「あら奇遇ねアズベル。私もユグドラに挑戦するつもりだったのよ? 鎧無しで」


「偶然だな、私もだ」


「気が合うネ! 私もだよ!」


 あ~そうでしょうともね。そんな気はしてました。

 でも正直言って、俺もどれだけ強くなったか知りたくてしょうがない。


「ふっふっふ、鎧は無しで斧のみでやろうか。もちろん俺 対 全員でね」


 鎧も無しで1対多数なんてナメ腐ったプレイナメプも良い所だけど、リアも乗って来てくれた。

 



 戦闘開始して直ぐに強さが分かった。

 剣も矢も魔法も、全てが見える。

 それだけじゃない。知りたいと思った場所がなぜか立体的に頭に浮かび、目をつむっていても全員の動きが手に取るようにわかる。


 スポーツ選手は上から見たようにフィールドを認識できるっていうけど、それの上位版か?

 こう、目をつむっていても……アズベルの剣が俺の足元を狙い、ベネットは頭を狙い、リアは石の壁ストーンウォールで俺の逃げ場所を塞ごうとし、エバンスは灼熱弾ファイヤーボールを発射し、アニタは連射ラピッドファイヤをしている。


 それらを全てかわしたけど、途中で思い出したように魔法だけ食らい始めた。

 魔法抵抗レジストスペルスキルを上げよう。

 リアとエバンスの魔法スキルは俺と大差ないはずだし、少しずつでも上がってくれたらいいな。


 しかしそんなに長続きするはずもなく、昼前には俺以外が倒れてしまった。


「おっと、やり過ぎたか。ゴメン、調子に乗った」


「うる……せぇ……次……こそは」


「影が……影が見えない……わ」


「魔法、当たって……るのに、効かない……んだもん」


「くたばれ……エロドラ」


「昨日も……お盛んだった……のに、体力……あるネ」


 え? 昨日? 昨日は風呂場でリアといたしましたが、なんで知ってんの? 寝てたんじゃないの?

 あ……ああああああ!!


「風呂場は防音されてないんだった!!」


 つまりは外に丸聞こえで……各部屋は防音だけど、窓を開けたら音が入ってきて……ゴフッ!

 俺もリアも顔が真っ赤っかになっていた。

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