第3章 第42話 職人をバカにしないでください

 キッカス達とは別れ、家で荷物整理をしながらエリーナの様子を見ている。

 エリーナはずっと“心ここにあらず”状態で、声をかけても間を開けて返事が返ってくる。

 随分と酷い目にあったようだからねぇ、ヘタしたら脳が委縮しちまってるかもしれない。


「にしても弱ったねぇ、このままじゃ冒険にも行けやしない」


「すみません、私の我儘わがままで……」


「正直言って私も困っているわ。アナタ達はその場にいたからいいけれど、私にとっては降ってわいた事だもの。どう対応して良いのか分からないわ」


「あれ? ベネットだったらアセリアと同じで気持ちが分かると思ったけどネ? 気のせいだった?」


 ギョッとした後でアニタを睨んだ。

 ん? なにが同じなんだい? ああ弟子って事か?


「あ、アニタ? アナタは時々意味不明な事を言うわね。私のどこがアセリアと同じだというのかしら? 確かにユグドラは私よりも強い数少ない男性だし、時々優しいのか優柔不断なのか分からない所もあるし、何かにつけて胸をチラ見してくるし、でもしっかり女性として扱ってくれるし、確かに魅力的な男性だし、周りの信頼もあって何より最上級クラスの冒険者だし―――」


「ベネット、絶賛自爆中」


 ベネットが超早口でまくし立てる中、エバンスがよくわからないツッコミを入れた。

 何が自爆中なんだ? 

 しかしそのツッコミによりアニタ、エバンス、アズベルはニヤけ、リアはほおを膨らませてベネットをポカポカ叩いている。


 また女にしか分からない話しかい?


「なんにせよ、交代で面倒を見るしかないだろうからねぇ。こいつをどうするかは、もう少し会話が成立するようになってからさね」


 それから1週間ほどは交代で依頼を受け、誰かが留守番をしてエリーナの世話をしていた。

 アタシもやろうとしたが、なぜか満場一致で却下された。


 そんなある日、しずかをご指名の依頼が鍛冶ギルドから舞い込んできた。

 

 キャラクターチェンジ

  ユグドラ

  ルリ子

 ⇒しずか

  番長

  ディータ

  メイア

 ◆ ルリ子 ⇒ しずか ◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。

 黒いショートパンツと黒いストッキング、白い長そでシャツに茶色のチョッキ。前髪は切りそろえられ、首の後ろで髪を雑にまとめています。


「おお、よく来てくれたしずかさん」


 鍛冶ギルドは冒険者ギルドとは違い、建物は大きくありません。

 鍛冶屋はギルドへ来ることはほとんどなく、年1回の会費を払いに来る程度ですから、1階は小さな受付と小さな部屋2つ、2階はギルドマスターの部屋と会議室が有るだけです。


 今はギルドマスター室でソファーに座りながら話しを聞いています。


「実はな、しずかさん宛てに依頼が来ているのだが、少々厄介な依頼でな、一応話しをするが、断ってもらって構わない」


「そんなに厄介な依頼なのですか?」


「そうだな」


 向かいに座ったギルマスは1通の封筒を手にし、中から1枚の紙を取り出して私に手渡します。

 

「簡単に言うと、船で1日の場所に島国があるんだが、現在内戦中で武器が不足している。しずかさんの噂を聞いた勢力が、武器の製作を依頼してきたんだ」


 へぇ、海を渡った先にある島国ですか。まるで日本を思い出しますね。

 どれどれ、手紙を読んでみましょう……ん? ……これは……本気ですか?


「お尋ねしたいのですが、この手紙はマスターも読まれましたよね?」


「ああ、読んだ。だから断ってくれて構わない」


 書いてある内容はあまりに酷いものでした。

 条件として

 ・金属などの資材が不足しているため、必要な物は揃えて欲しい

 ・兵士5千人分の魔法効果付き装備一式が必要

 ・予算は無いので分割10年払い

 ・今後の整備のため、我が国の鍛冶屋への技術指導

 などがオブラートに包まれて書いてありますが、どれもこれもメチャクチャです。

 正直言ってめまいがします。

 しかし依頼をしてきた以上、向こうの事を調べてから返事をしたい所です。


「一体どのような国なのですか?」


「小さな島国なんだが、勢力が4つあり、それぞれが島の正当な統治者だと言っている。一応オンディーナと4つの勢力は商売上の付き合いはあるが、それ以上は何もない。以前は2つの武器商人が取引をしていたが、片方が宴会の席で、酔った将軍に切り捨てられてしまってね、危ないからもう片方は武器を売るのを止めてしまったんだ」


「何というか、大丈夫なのですか? 国として」


「国というか、4つの勢力が10年近くも睨みあっている。それぞれが疲弊しきっていて、大丈夫を通り越し、破滅寸前なんだ」


 今の気分としては、絶対に受けたくない仕事です。

 しかし10年も続く戦争を、何とか終わらせることは出来ないか、とも考えてしまいます。


「返事は後でもいいですか? 少し考えてみたいので」


「構わない。ゆっくり考えてくれ」





 家に戻ると、全員を呼んで話しを聞きました。


「あの国か。俺は行った事は無いが、随分と前から戦争してるからな、いいイメージはない」


「確かにそうね。私は1度だけ行った事があるけれど、殺伐としていて、生活も心にも余裕が無いようだったわ」


「噂でしか聞いた事ありませんが、どうしてそんなに長引くのかなって」


「興味ない」


 アズベル、ベネット、リア、エバンスの4人は反対とは言いませんが、消極的ですね。

 そして1番聞きたかった人の意見が続きます。


「あの国はネ、元々は1つの王様の元でまとまってたんだ。だけど王様の死後、王様に仕えてた4人の大臣がそれぞれ4人の王子を担ぎ上げて、我こそは正統な~って言い始めちゃったんだよネ」


「しかしアニタ、王位は長男が継ぐものではないのですか?」


「それがネ? 長男は体が弱く、次男は留学していて国内事情に疎く、3男は脳筋、4男は可もなく不可もなく、って状態なのネ。全員が決め手に欠けていて、ぶっちゃけ誰でも大して変わらないんだよネ」


 うわぁ……ある意味一番厄介な状態ではありませんか。

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