第3章 第29話 誰だい?見ている奴は

 アミック、その名前の人物が嫌われているのは分かった。

 今回の『乗っ取られている』と『早く逃げろ』は関連があるのだろうか。

 更に聞き耳を立てると、あちこちでアミックの名が聞こえる。


「あのクソガキ」

「どっちがお人形さんやら」

「上手く王族に取り入りやがって」

「貴族でもないのに出しゃばるな」

「突然現れて、いきなり王子の婚約者と言われてもなぁ」


 などが聞き取れた。

 要約すると、アミックはまだ子供・女で、突然コミューン国に現れ、王子の婚約者として好き放題している、といった所だろうか。

 そういえば『強い』、という話もあったが、騎士なのだろうか。それとも魔法使い?


 だが今回の件との関連が分からない。

 少し拡大解釈して考えると、アミックが王子の婚約者としてこの国を乗っ取り、部外者である私達を排除しにかかっている、しかも腕が立つため誰も止められない、か?


 あくまでも仮定だが、ギルド受付嬢の態度が気になる。

 ギルドカードを提示した際、私達が何者かが分かるはずだ。

 特例クラスの【自由フリー】と最上位クラスの【覇王級】だと。


 それでも危険な相手、という事なのか?

 そこまで危険という事は……転生者、かもしれない。

 ギルドではこれ以上の情報は入りそうにない、次に行こう。


 この街の貴族の屋敷に侵入する。

 ……小さいな。

 オンディーナでは小さな街でも貴族の邸宅は特別大きかったが、ここは金持ちの3階建ての家、といった感じだ。

 やはり小国だと貴族でも裕福では無いのかな?


 囲いはあるが警備は手薄、侵入も簡単に出来た。

 屋敷も狭い事から調べ物は簡単だったが、これといった情報は無い様だ。

 仕方がない、これ以上は無理だろうから帰るとしよう。




 街のはずれにある馬車に戻ってきた。

 見張りをしているのはベネットとエバンスだな。姿を見せないまま帰ってきたことを伝え、リアが眠るテントに入る。


「お帰りなさい、メイアさん」


「ただいま。寝ていなかったのか?」


「はい、なんだか眠れなくて」


「明日も護衛の依頼がある、速めに寝ておいた方が良い」


 寝袋に入ったまま、顔だけを私に向けるリア。

 しかしその顔は困ったような、戸惑いの表情をしていた。


「どうした、ユグドラに替わった方が良いか?」


「いえ、その、ルリ子さんに替わってもらえませんか?」


 ルリ子に? 魔法関連の問題でも発生したのだろうか。

 まぁ替われば分かる事だ。


 キャラクターチェンジ

  ユグドラ

 ⇒ルリ子

  しずか

  番長

  ディータ

  メイア

 ◆ メイア ⇒ ルリ子 ◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。


「どうしたんだい? アタシに用事って」


「ルリ子さん、私、この国に入ってからずっと違和感があるんです」


「ほほぅ? それはどんな……ああ、この国は自然が多いせいか、精霊や魔力が多い様だね。オンディーナとは感じ方が変わって感じるんだろう」


「そう、なんでしょうか」


 アタシの寝袋をリアとくっつけて、リアに密着するように下半身を寝袋に入れる。


「だから気にしなくても、時期に慣れるさ」


 そう言ってリアのほおに自分の頬を合わせる。


(何かが見ているね。エバンスも気付いているのかい?)


 リアを抱きしめ、耳元でささやく。

 傍から見ると、アタシがリアを襲っているみたいだねぇ。


(気付いていると思います。しきりに周囲を気にしていましたから)


(そうかい。この事は他の奴には言わなくていい。ちなみにテントの中も見られているよ)


「えっ! あ……」


 大声を上げようとしたリアの口を、アタシの口で塞ぐ。

 いけないねぇリア、今は何も言わずに大人しくしていておくれ。

 しかし見ている奴は誰だ? この世界で広範囲の魔法を使えるなんて……転生者の可能性が高いねぇ。


 さっきの情報から判断すると女の子供らしいが……試してみよう。

 キスをしたままリアに覆いかぶさり、頬をなで、あちこちにキスをする。


「あ、ルリ子さ……まって……ちょ、あ」


 キスをする範囲を広げ、服をずらした時、見られていた気配が消える。

 一時的なモノか? 本当に子供なら、刺激が強すぎたかもしれないねぇ。

 そのまま全身にキスをしたが、結局気配は戻ってこなかった。


 本当に子供なのかねぇ、やたらと気を遣う男ならのぞき見を止めるだろうが、そうでも無ければ喜んで見ていると思うがね。

 周囲にも、この街から見られている気配が消えている。

 ウブな奴だね。


「ルリ子……さん?」


 涙目でアタシを見ている。

 胸を腕で隠し、一糸まとわぬ姿で。


「ん? ああ大丈夫だ。もうアタシ達を見ている奴は居ないよ」


「お姉さんだと思ってたのに……」


「お姉さん? 師匠じゃないのかい?」


「ユーさんが旦那さんで、ルリ子さんとしずかさん、メイアさんはお姉さん、番長さんとディータちゃんは歳の近いお友達だったんです」


 ああ、アタシ達6人に対しての関係を、リアはそういう風に考えていたんだね。

 確かにアタシとしずかとメイアはリアを妹と、番長とディータはお友達感覚だったねぇ。


「なのにいきなり全身にキスされたら……愛人になっちゃうじゃないですか」


 いきなりだねぇ、いやいきなりキスをしたのはアタシだがね?

 それにしてもリアは抵抗しなかったねぇ、そっちもいけるクチかい?


「浮気をする気はありません。でも同一人物ですし……どうなるんでしょう?」


「気にする事はないさ。さっきのは見ていた奴への演技だったからね。アタシもお前の事は妹みたいなモノだからね」


 なんだか複雑な顔をしているねえ。

 ただの見ていた奴への演技だって言ってるじゃないか。

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