第3章 第3話 新階級制
お泊り組を送り出した後、私達は冒険者ギルドへ向かいました。
昨日
問題が発生したから1度顔を出して欲しい、と。
しかし何故か慌てる様子がありませんでしたので、慌てる必要のない問題とは一体何なのかと不思議に思っていました。
「おはようございます」
「あら、おはようみんな。早速来てくれたのねぇん」
受付には沢山の冒険者が列を作っています。
朝1番は良い依頼を受けようと沢山の冒険者が集まりますから、まるで通勤通学の電車に並んでいるように見えてしまいます。
私達も並びましょう。と、思いましたが、お茶でも飲んで待っててくれと言われました。
本当に大した事のない問題の様です。
それは問題というのでしょうか。
「はぁい、おまたっせ。それでねぇ、みんなに相談があるのよ」
冒険者の列がひと段落し、
一体何の話があるのでしょうか。
「あのね、今ちょっとギルド内で揉めてるのよ」
「冒険者ギルド内で揉めごとですか? 一体何で揉めているのでしょう」
近くのイスを持ってきて座り、テーブルに両肘をついて顔の前で手を組みます。
……いつになく真剣な顔をしていますね。
化粧が濃いのでイマイチしまりませんが。
「ギルド内で新しいランクを作る事になったんだけど、名称が決まらないの。いい案がないかしらん」
全員の頭の上にハテナマークが浮かびました。
「新しいランク、とは一体何の事でしょうか? そもそもランクとは?」
「ああゴメンなさいね、ランクっていうのは初級冒険者とか中級、上級、熟練と大まかに4段階の事なんだけど、今は臨時でユグドラちゃんは(特)熟練冒険者なんだけど、熟練者パーティー向けの依頼を1人で達成する冒険者が増えた事で、新たなランクが必要になったのよん」
6人が一瞬、目だけを上にあげて「あ」と発しました。
「えっと、ひょっとしてそれは……」
「ひょっとしないだろう」
「そうね、当事者よね」
「規格外。良い響き」
「あっはっは、大変だねーグレゴリィもネ!」
はい、間違いなくウチのパーティーの事でしょう。
考えてみれば全員が1人で熟練パーティー向けの依頼をやっています。
「まぁ確かにあなた達が始まりなんだけどね? 最近では2人で達成とか、1人で上級パーティー向けを達成とか出て来てるのよん。だから既存のクラスだけじゃ当てはまらなくなっちゃったのよ~」
「2人で達成というのは、アルファやケンタウリでしょうか」
「ええそうよ、アズベルちゃんと一緒にいた子よ。一番若い子は上級をやってたわねん。ユグドラちゃんにギルドで鍛えてもらった子達も、そろそろクラスに当てはまらなくなりそうよん」
なるほど、それは確かに『熟練冒険者』の枠では納めきれませんね。
(特)熟練冒険者があるのですから、それでいいと思うのですが?
しかしそう簡単な話しでもないようです。
「(特)熟練冒険者はあくまでも特例として設けられたものなのよん。特例が沢山になっちゃったら、特例じゃなくなっちゃうじゃない?」
そういえばそうでした。
となると恒久的に使われる呼び方が必要になってきます。
「ちなみにギルド内での話し合いではどんな案がでましたか?」
「ギルド内ではね、各クラスの前か後ろに上中下、もしくは1,2,3と付けたらどうかってなったけど、まだまだ熟練までで収まる子が圧倒的に多いし、今の子達をさらにクラス分けする必要があって、そんな暇はないって、喧嘩になっちゃったのよん」
確かに今いる冒険者のクラスをさらに分ける必要がある分、手間がかかり過ぎますか。
ならば新しく上にクラスを作るしかありません。
「あ! それだったら『特級冒険者』ってどうですか?」
リアがドヤ顔で、目を輝かせて発言しました。
しかしそれは……。
「ええ、それはもう入っているわねん。出来ればそれの上に2つ欲しい所ね」
「あ、あれ? そう、だったんですか……」
一転してしぼんでしまいました。
誰でも思いつく名前ですしね、仕方がありません。
「よし! それじゃあ鬼冒険者ってのはどうだ!?」
「モンスターなのか冒険者なのか分からないわねん」
「ダイヤモンド冒険者はどうかしら?」
「他のクラスと呼び方が違いすぎるわねん」
「暗黒より来たりし
「悪い冒険者みたいに聞こえるわねん」
「いっそシンプルに
「それだと熟練より下に聞こえるわねん」
一通り発言しましたが、中々いい呼び名が出てきません。
考えてみれば冒険者ギルド内で話し合っても出なかったのに、いま簡単に出てくるはずがありませんか。
「いっそ
「は……はおう?」
「はい。武力と策略を兼ね備えた人物の事を指す称号です」
古代中国の項羽が名乗っていた称号ですね。徳が無くて天下統一できませんでしたが、冒険者にはちょうどいい名でしょう。
「覇王・エバンス……良い響き」
「ご、ごほん。しずかが言うならそれでもいいぞ? 仕方ないな、覇王を名乗ろう」
おや? 嫌がっている割にニヤけていますよアズベル。
アニタはいまいちピンと来ていないようですが、リアとベネットは目が輝いています。
「それじゃあ決まりね。上に伝えておくわん」
「そうですか。ではあと1つですね」
「ああそれだけど、実は半分決まったものがあるけど、聞く?」
「あるのなら聞いておきましょう」
「“自由”よ」
「自由? 随分とシンプルというか、それこそ位置づけが分かりにくくありませんか?」
「ある意味これが特例になるんだけどね、登録された冒険者はギルドを通してしか仕事を受けちゃいけないけど、これが無くなるの。逆にギルドに在籍してくれとお願いするくらいね。だから敵対とかは嫌だけど、それ以外は何をしてもOKという意味もあるわねん」
そんな制約ありましたっけ……まぁ冒険者ギルドを会社、もしくは職業あっせん所と考えれば、登録した者はギルドを通さないと仕事をしてはいけない、というのも当たり前にありそうですね。
「なるほど、それでいいのではないでしょうか。そんな自由が与えられる人は大変そうですね」
「そうね、だからお願いね♪ ユグドラちゃん、ルリ子ちゃん」
え~……。
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