第2章 第44話 混濁と走馬灯

「俺達が治療するだって?」


「しずか、私達は医者では無いのよ?」


 2人が戸惑っています。

 しかし今はそれしかありません。


「1度、ユグドラに替わります。しっか、り、治療方法を、教えますから、その通り、にしてください。傷口を……見て」


 腹部の布を破り、2人に傷口を見せます。

 恐る恐るですが見ていますね。


「時間……がありません」


 キャラクターチェンジ

 ⇒ユグドラ

  ルリ子

  しずか

  番長

  ディータ

  メイア

 ◆ しずか ⇒ ユグドラ ◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。

 困った事になったな。

 俺が直接治療できればいいけど、それは出来ないし。


「2人とも、今から教える事をしっかり覚えて。治療にはこの治療キットを使えばいい。あまり猶予は無いから」


 自分の体の事はよくわかってる。

 何もしなければ1時間も持たないだろう。

 ゆっくりと、死んでいくだけだ。

 だが今死ぬわけにはいかない。この世界でやりたい事、やらなきゃいけない事がある。





「覚えたね? それじゃあ後は任せるよ」


「任された」


「任せてちょうだい」


 力強い言葉だ。

 きっと不安で一杯だろう、やった事もない事を、人の命を救う事を強要してしまうなんて、俺はなんて罰当たりな事をしているんだろう。

 でも今はそれしか方法がない。


 俺は床に寝転がり、メニュー画面を操作した。


 キャラクターチェンジ

  ユグドラ

  ルリ子

 ⇒しずか

  番長

  ディータ

  メイア

 ◆ ユグドラ ⇒ しずか ◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。


「それでは……お願い、します」


 



 ここは……どこでしょう。

 私は死んでしまったのでしょうか。

 何も無い真っ白い空間で、私は1人で立っています。

 死んではいませんね、死んだら灰色のローブを羽織っているはずですから。


 ではここは? ああ夢を見ているのでしょうか。

 治療は上手くいっていますか? アズベルとベネットはどんな様子でしょうか。

 もしも失敗したらどうしましょうか。

 リアに錬金術を教えている最中ですし、みんなに武具を造りたい、色々な人と出会いたい。


 ああ、私は思ったより欲があるのですね。


 ん? 何かが見えてきました。これは何でしょうか……ああ、懐かしい、アルティメット・オンラインのゲーム画面ではありませんか。

 古いゲームなので2Dの斜め見降ろし画面です。

 街の鍛冶屋で他のプレイヤーの武器や防具を修理している時ですね。

 他の鍛冶プレイヤーと共に土日は夜遅くまで修理していたものです。


 しかしなぜこんな画面が出てきたのでしょう。

 走馬灯? まさか私は死んでしまったのでしょうか。


 レンガが崩れるように画面が無くなり、次に出てきた画面ではユグドラが戦っていました。

 あれは古代龍エンシェントドラゴンと戦っている時ですね。


 画面が切り替わり、ルリ子が出てきました。

 ナイトメアにまたがり、3匹のドラゴンを引き連れてダンジョン攻略をしています。


 さらに切り替わり、番長が初心者プレイヤーと共に狩りをしています。

 切り替わり、ディータが宝箱を開けて喜んでいます。

 次はメイアが弓で対人戦をしています。


 どうやら……私は死ぬようです。

 残念ですね、一足先にリタイアですか。

 こんな、こんな下らない死に方……痛い。痛い? 夢でも痛みを感じるんでしたか?

 腹部が……痛い!! お腹の中をグチャグチャにかき回されているように痛い!


 目を開けると、リアとアニタの顔が見えました。

 走馬灯の続きですか、まあこの調子で順番に出て来てくれれば、死ぬまでの時間が稼げるというモノです。

 

「しずかさん! しずかさん!」


「アズベル! ベネット! しずかさんが目をあけたネ!」

 

 騒々しい走馬灯ですね。

 続々と人が出てきました。出会った人数は多いので、まだまだ出てくるのでしょう。


「気が付いたのね! 良かった、よかったよぉ~うわ~ん」


 少女が泣いています。誰……クローチェ王女ではありませんか。

 素に戻っていますね。

 随分最近知り合った人が出てきたという事は、もうそろそろ逝くのですか。

 ふぅ……。


 しかし頭がボーっとしてはっきりしませんね。

 寝ているのか起きているのか、走馬灯だから寝ているはずですが。


「しずか? ひょっとしてまだ意識が混濁しているのかしら」


「麻酔の量は間違っちゃいないはずだ。しばらくしたら元に戻る、はずだ」


「やっぱり、コイツはしぶとい」


 しぶといとか麻酔とか、何をいって……あ。ベネットが手を握りました。

 アズベルもエバンスも、アニタにも……リアも。


「生きて……いる?」


「おはようございます、しずかさん」


「ぶっはぁ~、成功だな」

 

「ぶっつけ本番だったけど、上手くいったわね」


「2人、褒めてやる」


「もー、安心したらお腹空いちゃったよネ」

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