第2章 第21話 PTSD

 まずい……意識が……無く、なる前に……。


 キャラクターチェンジ

  ユグドラ

  ルリ子

 ⇒しずか

  番長

  ディータ

  メイア

 ◆ユグドラ ⇒ しずか◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。

 

 ふぅ、意識を失って動けなくなるよりはいいですが、適当にも程があります。

 吐しゃ物を眺めながら立ち上がりました。


「しずかさん! ユーさんは、ユーさんは一体どうしたんですか!?」


 リアが戦闘どころでは無くなっていますね。

 無理もありませんが、今は戦闘に集中してもらいましょう。


「大丈夫です、少し気分が悪くなっただけですから。今は戦闘に集中してください」


「わ、分かりました。じゃあしずかさんは馬車の中に避難していてください」


「いえ、私も多少ですが戦えます」


 一応魔法スキルはユグドラよりも上ですし、生産キャラとはいえ、資材集めのためにダンジョンに入っていました。

 随分前の話しですが、フォローくらいは出来るでしょう。




 戦闘が終わり、周囲には盗賊の死体が多数転がっています。

 今回は冒険者にも随分と被害が出ました。

 死者がいない事が唯一の救いです。


 盗賊と戦っても私は平気、なのですね。

 ユグドラがああなった、おおよその理由は分かっています。

 なので逆に、いえ、ひょっとしたら随分前から別だったのかもしれません。


「チッ、まさか盗賊がこんな罠を張るとは思わなかったぜ」


「兵士の装備を数人分揃えるなんて、それなりの組織じゃないと出来ないはずだわ」


「御二人とも本当に助かりました! ありがとう、ありがとう!」


 馬防柵ばぼうさくの近くへ行っていた3人が帰ってきました。

 馬車群の隊長に怪我は無いようですね。


「しずかさん、ユーさんはどうしたんですか?」


 後片付けも程々に、リアが駆け寄ってきました。

 そうですね、説明しておかないといけません。


「エバンスも呼んで、5人で話しをしましょう」




 馬車から少し離れて話しを始めました。


「アズベルとベネットからは見えなかったと思うので、簡単に説明します。ユグドラが戦闘中に嘔吐して行動不能になりました」


「なんだって! まさかまた毒を盛られたのか!?」


「いえ今回は別の原因です。少し前にトラウマが出来ましたので、それが原因でしょう」


「トラウマ? それは一体なにかしら」


 リアが両手で口を押えて目を見開きました。

 気が付いたようですね。


「まさか……ユーさん」


「はい、リアのお兄さんを殺してしまった事で、人を殺す事が出来なくなりました」


「意味不明。今まで散々殺してた」


「元々私達が住んでいた場所は殺人とは縁が遠い世界でした。いきなりこの世界に来たので現実味がなく、加えて他の冒険者も強盗を躊躇ちゅうちょなく殺すため、感覚が麻痺していたのです」


「でもアセリアの兄貴は強盗団だったんだろ? 今更トラウマになるモノか?」


「今までは赤の他人の、無関係だと思っていたから大丈夫でした。しかし知らずに知人の、最愛の人の兄を殺してしまった事で、さらなる連鎖を想像してしまったのです」


「私達の家族かもしれない、かしら?」


 コクリとうなずく。

 色々な人との関りが深くなり、その家族も増えていきます。

 この盗賊も誰かの家族なんだ……と。


「すみません! 私のせいでユーさんが……!」


 深く頭を下げるリア。

 リアには全く非がありません。それは全員が理解しています。

 しかしその影響がいつまでも尾を引くことが、我慢できなかったのでしょう。


「お前は何も悪くねーよ、頭を下げるな」


「あなたも知らなかったのでしょう? E・D・Dの事は」


「ユグドラが腑抜けただけ。アセリアが気にする事ない」


「でも……」


「リア、顔を上げてください。これの解決にはあなたの力が最も必要なのですから」


 顔を上げたリアの目には涙が浮かんでいました。

 苦しいでしょうね。

 ユグドラも辛いですが、リアには何時までお兄さんが付きまとうのでしょう。

 なんとか解放してあげたい。


 最も単純な解決方法としては、盗賊などの人間とは殺し合いをしない事。

 しかし冒険者がそれでは意味がありません。

 もっと根本的な解決を図らなければ。


 アズベルは腕を組み、ベネットはあごに手を当て、エバンスは魔法の杖にあごを置き、リアはしゃがみ込んでいます。

 そういえばリアの服装は山に素材回収をした時のモノですね、冒険者に相応しい物を作りましょう。


 しばらく考えていましたが答えが出る事は無く、この晩は馬車に帰りました。

 いまユグドラに交代しても意味が無いので、街に着くまでは私でいましょう。

 

 少々周りの人に驚かれましたが、しずかで問題ないようです。

 さて、どうしましょうか。

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