第2章 第7話 スキル
「俺の名はブラスティー。お前に選択肢をやる。1.俺の配下に加わる。2.この国から出ない事を誓う。3.死ぬ、だ」
ブラスティーと名乗る男は随分と横暴な要求をしてきた。
配下ってのは横暴ながらも分かる。
この国から出るなってのは……横暴すぎるけど、まぁまだわかる。
死ぬってなんだよ。
男は木のジョッキに入ったワインをがぶ飲みしている。
俺に選択肢をやるとか言っておきながら、全く俺を見ていない。
イライラしてきた。
「初めましてブラスティーさん。残念ながら私は冒険者ですので、あなたの配下になる事も、この国から出ない事も、ましてや死ぬ事は出来ません。ご希望に沿うことが出来す申し訳ありませんが、あなたの未来が輝かしいものであることを祈っております」
超超超皮肉を込めて、懇切丁寧にお断りしてやった。
あれ? でも何だか聞いた事のある要求だな。
配下にするか国を出ないようにするか? 聞いた事があるな……!?
リアを戦場に連れ出した元・優しい冒険者だ! あいつが髪の長い騎士風の男にそんな事を言ってたぞ!
え? じゃあこいつが……?
でも死ぬって選択肢が増えてる。
「そうか、皮肉を言う程度の度胸はあるようだな。しかし俺のことが分かっていないのか? 分かっていてしらんぷりしているのか?」
「さて、4つ首のドラゴンから出てきた男との繋がりなんて、俺には興味がありません」
「ほほぅ、気づいていたのか。ではもう一つはどうかな?」
よかったー! 寸前で気が付いてよかったー!
でももう一つ? もう一つと言っても、俺がいま気付いている事なんて1つしかない。
「それも何のことか分かりませんが、あなたが俺の数倍強いという事くらいでしょうか」
じつは一番ビク付いている事だけど、このブラスティーってやつ、俺じゃ勝てない。
仮に戦闘系の3人で束でかかれば相打ちに出来るかもしれない。
それでも“かも”だ。
こいつの装備、実は俺は知っている。
俺もやっていたゲーム『ウィズダム・オンライン』の
装備自体は騎士風だが、腰に刺した日本刀、鎧も部分部分で侍の装備が見て取れる。
俺の『アルティメット・オンライン』とは違い攻撃スキル制で、攻撃スキルコンボから魔法コンボまで使える上に、攻撃特化型の職種のため、1対1では絶対的な強さを誇る。
俺のスキルは技術スキルだ。
斧の扱いが上手い、剣の扱い上手い、魔法の使い方が上手い……その組み合わせはプレイヤー次第で無限だが、必ず技の間にスキが出来る。
だが向こうはシステム的にスキを帳消しにして次の攻撃をくり出せる。
番長の『昼夜の残月』も、実のところ力いっぱい地面を殴っているだけだ。
けた外れの力だから、あんなことが出来るだけ。
絶対に敵対したくない相手。
でも気にくわないし……
「ほぅ、分かっていてその態度か。それではそうだな、俺の所に来れば名誉も女も思いのままだぞ? どうだ、来たくなったか」
「私は名誉は要りません。女性が沢山いても私の手には余ります」
ヤベーヨヤベーヨ! これが最後通告だったらどうしよう!
「ハーレムは必要ないか。そうか、なら日を改めるとしよう」
そう言って席を立ち、振り向くことなく店を出て行った。
と同時に、店の中にいた連中が一斉に息を吐いた。
「「ぷはぁ~」」
?? これは何事か。
「いや~アイツが居ると息が詰まるわな」
「なんでこんな所にアイツが来るんだよ」
「でもホッとした! これで思う存分飲めるぞ!」
静かだった原因がいなくなり、みんな安心しているようだ。
兵士どころか冒険者まで黙らせるなんて、アイツは一体何者だったんだろう。
「おーいユグドラ、アセリア、こっちだこっち」
アズベルが手を振ってる。
隣にはさっきの戦いの指揮官がいるな。
側にいくとアズベルの隣の席に座らされた。
リアは俺の隣にいた冒険者が席を詰めて、イスを置いてくれたからそこに座った。
「いやー助かったぜ、アイツが居ると場の空気が悪くてしょうがないからな」
「そう言ってくれるな。王国騎士団の副団長なんだ、俺達のずっと上のお方なんだからな」
へー、騎士団副団長なんだ。
偉い人ジャン! じゃあ逆になんで?
「じゃあなんで俺はそんな偉い人に狙われてんの?」
「「しらん」」
即答しやがった。
まぁそんな偉い人の考えなんて、俺達にゃ分からんよね。
その後はお祭り騒ぎになって飲みまくった。
でも途中でルリ子と番長に替わってくれと言われ交代すると、少々困った事態になった。
☆番長の場合
「バンチョウ! 兄弟のちぎりを交わそう!」
「バンチョウ! 腕相撲をしよう!」
「バンチョウ! 俺の師匠になってくれ!」
血の涙を流す量が増えた。
☆ルリ子の場合
「キャーお姉さまー!」
「お姉様になら抱かれてもいい」
「お姉さま!
などなど、どうしてそうなったのか理由を知りたい事だらけだった。
でも誰も怖がってなかった。
いや怖がってたかな? 男はルリ子を怖がって、女は番長に近づこうとしない。
キャラクターチェンジの事で怖がる人がいないのは良かったけど。
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