第2章 第4話 アセリア4

 一緒に依頼を受ける日になった。

 森の中に入り、私の前にはエリーナさんが、後ろにはユーさんがいる。

 私が真ん中に居るのは他の冒険者の時と同じだ。


 やっぱりこの森は素材の宝庫だ。依頼の品以外にも沢山の素材がある。

 他の素材も集めないかと提案したけど、エリーナさんに後で良いと言われた。

 むぅ、ユーさんに良い所を見せれると思ったのに。


 しばらくすると大型のクマの姿が見えたらしく、ユーさんとエリーナさんで倒してくることになった。

 流石に戦闘には参加できないから大人しく待っていよう。




 どれだけ時間が経っただろう。

 そろそろ日が高くに昇ってお腹がすく時間だ。

 2人は戻ってこない。


 熊に倒された、なんてことはあり得ない。

 ユーさんがクマに後れを取るはずがない。

 他のトラブルかな、ひょっとして私、置いてけぼりにされちゃった?


 でもユーさんはそんなことしない。

 仮に嫌われててもこんな事はしない。

 じゃあトラブルがあったのかな。


 ゆっくりと2人が進んだ方向へ向かう。

 ユーさんは気が付いてないけど、ユーさんの鎧は凄く重い。

 道を歩いてても少し地面がへこむくらいに重い。

 だから草木を踏んだ後がクッキリと残っていて、後を追うのは簡単だった。


 途中で依頼の薬草や必要な物を回収しつつ、足跡をつけていく。


 理由が分かった。トラブルなんてものじゃない。

 ユーさんが地面に倒れていた。


「ユーさん! ユーさんしっかりして!」


 うつぶせに倒れるユーさんの体を揺らしながら声をかける。

 ダメ、全然反応が無い!

 それに周囲には吐血や吐しゃ物が散乱してて、ユーさんは……息をしていない。


 どうしようどうしようどうしようどうしよう!!

 どうして、どうしてどうしてどうして!?

 エリーナさんはどこ? エリーナさんなら回復薬を持ってるかもしれないし、治療の心得があるかもしれないのに!


 そうだバッグ。

 ユーさんのバッグにはいろんなものが入ってるはずだから、きっと回復薬もあるはずだ!

 急いでバッグを開けて中を探す……え? 何も、入ってない。


 どうして? このバッグからよく物を取り出していたし、中に入れてた。

 私は解毒剤は持っているけど、息をしていない人には効果がない。


 他に、他に何かないの!?

 薬草! ダメ、ここに生えてるのは傷薬でも回復薬でもない。

 ……そういえば前に薬師くすしさん(医者)に同行した時、教えてもらった事がある。

 それを、やってみよう!


 まずは口の中をきれいにしよう。

 口の中に残っている物を手で掻きだし、血だらけの口内は服を破ってふき取る。

 そして下を向いたままだと出来ないから、仰向けに……重い。

 本当、鎧が重い。


 両足でユーさんの左わきを抑え、しゃがんでからユーさんの右肩を持って後ろに体重をかける。

 あ、上手く仰向けになった。

 よし、次は息を吹きかけるんだったよね。


 大きく息を吸ってユーさんに口を合わせ、鼻をつまんで息を吹き込む。

 胸が少し膨らんだ。

 次は胸部圧迫だ。


 青いローブと鎧を脱がせ、ユーさんの胸に両手を重ねて当てて体重をかける。

 リズムよく胸部を圧迫し、反応を見る。

 ダメ、もう一回最初から!


 何回も繰り返したけど、ユーさんは目を開けてくれない。

 お願い、お願いお願い! 目を覚まして!!


「ふ~ん、ひっとぽいんとがゼロになったと思ったら、本当に死んじゃってたんだ」


 突然後ろから声がして振り向いた。

 そこには銀色の長い髪をした少女が立っていた。

 誰? いつの間にそこに居たの?


「あの、あなたは?」


「あー気にしない気にしない。それより続けて続けて、私もチョットだけ手助けするからさ!」


 女の子は中空で指を動かしている。

 なんだろう、魔法かな。


 私はユーさんの蘇生を続けた。




 少しすると、ユーさんの胸が自分で動き始めた。

 成功した!?

 口から血が流れだし、せきと同時に血が飛び散った。


「ユーさん、ユーさんしっかしりして!」


 咳き込みながらゆっくりと目が開いた。


「お兄さんお兄さん、ボーっとしてる暇はないよ、早く解毒しないとすぐに死んじゃうよ?」


 うつろな目で周りを見回してる。まだ理解できていないんだ。


「ユグドラさん! 解毒剤です! 早く飲んでください!」


 薬瓶のふたを開けて手渡すと、ゆっくりと口の中に流し込んだ。

 まだ顔色が悪いけど、首を動かして必死に周りを見てる。


「お兄さんお兄さん、まだまだ、このままだと小石につまづいただけでも死んじゃうよ」


 ユーさんはバッグの中に手を入れて、回復薬を取り出した。

 ……さっきは何も入って無かったのに。

 でも薬を飲んで、ユーさんの顔色もかなり良くなって体を起こした。


「これは、一体何が起きたんだ」


 手足や顔を触って驚いてる。


「ユーさん! 良かった、本当に良かった!」


 その後は女の子とユーさんが色々な話しをしていた。

 ニホンとかシステムとかイセカイテンセイとか、私の知らない言葉ばっかりだ。

 この2人の関係はなんなんだろう。


 でも助けてもらったのは間違いないみたい、本当に感謝してる。


 感謝してるけど……私の妄想がユーさんにバレた。

 でも怪我の功名というか、トントン拍子で結婚する事になった。

 う、うん? 上手くいきすぎ。

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