第59話 カチコミじゃぁ~

「がっはっは大量じゃのう! ワシ、モテモテじゃ!」


 かなり近くまで接近しておるから、この距離なら斧槍ハルバードよりもながドスがええのぅ。

 メニュー画面のバッグに斧槍をしまい、長ドスを2本取り出す。


 しかし素性を隠す必要が無くなると、メニューのバッグを使うのに抵抗が無くなったわい。

 前までは服の中や肩掛けバッグから取り出しているフリをしていたが、もう無制限につかえる。

 はたから見たら、何もない所から突然武器が現れとるじゃろーな。


 さて、長ドスを両手に持ってさやを投げ捨て、右手の長ドスの刃を見る。

 こっこれは! ワシの顔がボコボコじゃ! 漫画みたいにボコボコの顔しとる!

 鏡の様に磨かれた長ドスの刃に映ったワシの二枚目な顔は酷いありさまじゃ。


「ゆるさん……ゆるさんぞおまんらー!」


 体の前で腕を交差させ、姿勢を低くし一気に後ろまで腕を振り抜いた。

 まるで鳥が翼を広げているような姿勢になり、後ろに伸びた長ドスが血で赤く光り輝いている。


「喧嘩は終わりじゃ。ここからは殴り込みカチコミじゃぁ~」


 ワシ、怒った。


 ひたすらに長ドスを振り回すと、ワシが歩いた後には死体の山が出来た。

 小さい奴も大きい奴も、細切れにすれば同じじゃ。

 しかしこいつ等、ワシのドスを避けようともせんとはな、いや、見えておらんのじゃな、腕の動きが速すぎて。


 前、左右、上。

 背後には死体の山があるからモンスターは襲ってこんし、この長ドスの届く範囲にいるモンスターはまるで光る筋に切られておるように見えるな。


 ふと横を見ると防壁に殴り掛かる大型モンスターが見えた。

 貴様、ワシを無視するとはいい度胸じゃ!


 右手の長ドスを高く空に放り投げ、背中に担いでいる短めの槍の先端を大型に向けて軽く浮かせる。

 メニューのバッグから斧槍を取り出し、体を1回転させて勢いをつけ、浮いている槍の尻を野球の様に打ち付ける!


 でかい衝撃音と共に槍は数百メートル飛び、大型の体を貫通・防壁に当たって地面に落ちた。

 ちなみに体を回転させたときに周囲のモンスターも斬り倒しておる。

 うむ、ワシを無視するから……なに!? 反対側には3体もおるではないか!


「ぐぬぬ、いいじゃろう! 徹底的にやってやるわい!」


 長ドスを投げ捨て、槍を3本取り出して空に投げる。

 体を回転させ、1回転ごとに1本打ちだす。

 3本の槍は途中に居た数匹のモンスターを突き抜け、防壁近くの大型に命中し、今度は防壁に槍が突き刺さった。


 あいつらは体がやわいな。

 さて、気が付けば敵の数もあとわずか。さっさと終わらせようかのぅ!




 死体の山脈が長々と続いておる。

 万里の死体山したいやまとでも命名しようかのぅ。

 流石に3000匹の死体はやり過ぎたか?


 時々空を飛ぶ奴らが出て来ておるが、防壁上からの投石機や固定式大弓おおゆみ攻撃で対応できておる。

 モンスターの姿もまばらじゃ、ワシの出番も終わりかのぅ。


「バンチョウ怪我は無いか!?」


 アズベル達冒険者や兵士たちが駆け寄ってくる。


「うみゅ! らいじょーぶじゃ!」


「って大丈夫じゃないだろ! なんだその顔の腫れは!」


 振り返ってにこやかな笑顔を作ったはずじゃったが、どうやらワシの想像以上に酷い顔をしとるようじゃ。

 

「あのバンチョウ、無理はしないでちょうだい。治療なら私ができるわ」


「バンチョウ、強いな」


「なぁにぃその顔ぉ~、ブドウみたい~」

 

 ふおぉ! 女子おなご達じゃ! 女子たちがワシの心配をしちょる!

 そ、そうじゃな、無理はいかんな、むむっ! 何やら体調がすぐれんな!


「ああ~、いかんのぅ、ムリをしすぎてたいりょくのげんかいじゃ~」


 こう、か弱く女子おなごたちの方に倒れ込めば、きっと優しく受けてめてくれるはずじゃ!


 よたよたと歩いて女子たちの前で目を閉じて倒れ込んだ。よし! たいみんぐバッチリじゃ!

 こう、ふか~っと、ふくよかな胸で優しく包まれるように……キター! ん? 随分とたくましいのう、冒険をしとるからガッチリ体型になるのか?

 しかし受け止めてくれた時に“ガツン”と音がしたのじゃ、まるで硬い鎧同士がぶつかり合うような……?


「しっかりしろバンチョー! 大丈夫だ俺達が付いてる! 衛生兵! 衛生兵はまだかー!」


 随分と野太い声じゃのう!? やはり冒険者たるもの遠くまで声が通らないといけないからかのう!?

 いやわかっちょる、わかっちょるがなぜじゃ!

 なぜワシはマッチョな男に抱きかかえられておるのじゃ~~!!

 そしてなぜワシを中心に男連中が円陣を組んでおるのじゃ!!


「衛生兵が到着したぞ!」


「お、おまた、おまたせしました~」


 恐る恐る目を開けると、衛生兵らしい者がドスドスと地響きを立てながら走ってくる。

 ふくよかな腹をしておるのぅお主!


「これは私達の出番は無いわね」


「安心だなバンチョー」


「男の友情ぉ~? かっこいぃ~」


 ち、違うのじゃ~~!!

 ワシは生まれて初めて血の涙を流した。

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