第42話 もう一度殺すつもりか?

「神……獣?」


 スプーンを口へ運ぶ手を止め、アズベルに聞き返す。


「そうだ。といっても本当に神の使いじゃなく、あまりに強力すぎて討伐出来ないから災害なんかと同格の『神の怒り』に分類されるな」


「神様のせいにして諦めちゃったんだ」


「そういうこった。軍と冒険者の合同討伐でもだめだったらしい。100年以上前の話しだがな」


「100年!? どんだけ長生きしてるんだよ」


「そういう奴を、お前は倒したんだよ」


 俺じゃなくてルリ子だけど。それにしてもスゲーなヴォルフって、そういえばドラゴンに噛みついてたし、ドラゴンといい勝負だったもんな~。


 でもドラゴンといい勝負なら俺は勝てたはずだ。

 ドラゴン1匹なら全く問題なく勝てる。なのにヴォルフを倒せなかったという事は、ドラゴン以上の強さがあるって事か?

 いや、ドラゴンとの戦いを思い出してもドラゴン以上の強さとは思えない。


 五分五分、お互い決め手に欠けて勝負がつかない感じだった。

 ならどうして俺は勝てなかった?

 敗因で思いつく事といえば

 1つ、斧が通じなかった。

 2つ、俺の魔法抵抗レジストスキルを上回る魔法スキル。

 この2つがメインだろう。


 単純な力比べは勝っていたし、素早さでも言うほど負けていなかった。

 武器を強化するか? といってもしずかが作れる武器で最高の斧を使っていたし、斧スキル・魔法抵抗スキルの2つはすでにMAXで上昇は望めない。


 俺では勝てないって事なのか?

 古代龍エンシェントドラゴンを倒すために数年間考え続け、ひたすら挑戦し続けた俺の戦い方が通用しないだって?


「おい! どうしたんだユグドラ! なぜそんな恐ろしい顔をしている、アイツとの戦いは熾烈しれつを極めただろうが、アイツはもういない。落ち着け!」


 いつの間にかアズベルが俺の両肩を掴んでいた。

 い、いかん、考え込んでしまったみたいだ。


「大丈夫だよ、苦しい戦いだったから、ちょっと思い出しちゃったんだ」


 リアも心配そうに俺を見ている。

 落ち着け俺。アイツはもういない、俺が襲われることはもうないんだ。

 

 リアの頭を撫でて心配ない事を伝え、食事を続けた。

 でもなんだろう、胸がモヤモヤする。


「でもそんな神獣を倒せて良かった。これで周囲の街の人達も安心できるね」


「そうだな。神獣の1体を倒せてよかった」


「……他にもいるの?」 


「ああ、この国には他にも神獣と呼ばれる奴が2体いる」


「へ、へ~、そうなのかー、それはコワイなー」


 モヤモヤの理由が分かった。

 悔しかったんだ。負けたまま終わるのが。

 まだ2体いると聞いて俺は喜んでいる。

 今度こそ勝って見せると息巻いている。


「だから安心しろって、神獣は滅多に出て来ないから。ほら深呼吸深呼吸」


 アズベルが息遣いの荒い俺を気遣ってくれてる。

 でも違うんだ。俺は嬉しいんだ!

 俺がこんなに負けず嫌いだったなんて知らなかった。

 番長の事をバトルマニアなんて言えないな。

 なにより俺が楽しくて仕方がない。


 30年以上生きて(今の見た目は20前半だけど)初めて知ったよ、俺って負けず嫌いだったんだな。

 ヴォルフみたいな事には絶対にならない様に、事前情報をしっかり調べてから挑んでやる。

 



 昼食が終わり、しばらくのんびりしてから出発した。

 そういえば一緒に馬車に乗っていた夫婦がまた一緒に乗ってきた。

 俺の怪我が酷かったから他の馬車に移動してくれてたらしい。


「いや~あ安心したよ。本当に大丈夫なのかい?」


「ええご心配をおかけしました。すっかり大丈夫です」


「そうかいそうかい。そいつぁーよかった!」


 この夫婦にも心配をかけてしまったな。

 鎧も斧も壊れちゃったけど、リアと少し仲が良くなったから万々歳だな。


 しかしそんな平和も長くは続かなかった。




 夜になり、夕食が終わってそろそろ就寝の準備をする時間に事件は起こった。

 周囲を警戒していた冒険者から報告が入った『何者かが包囲しようとしている』と。

 強盗のたぐいかと思ったけど、強盗にしては統率が取れすぎており、物音を立てずに移動していることから訓練された者だろうと推測された。


 この場所は周囲が林で囲まれており見晴みはらしが悪い。

 てか見つけた冒険者凄いな。


 一応俺は客だから馬車の中で待機している。

 手が足りなければ呼びに来る事になってるから。


 しかし俺を呼んだのは冒険者では無かった。


「ハニー! いるんでしょうハニー! 出てきてほしいの!」

 

 この声はエリーナだ。

 俺を毒殺した張本人が現れ、俺に出てこいと言っている。

 また殺すつもりだろうか。


 リアは俺の腕にしがみ付いて出て行かせないようにしている。


「ごめんリア。ケジメを付けないと」


 リアの腕をどかして立ち上がる。

 リアが泣きそうだ、でもこればっかりは終わらせないといけない。


 防具は心もとないが、武器はこいつを使おう。

 処刑執行人エクスキューショナーアックス

 1メートル近い波打った木製の柄に直角三角形の金属刃で、斜辺が柄に固定され、直角部分が柄の先の方に付いている。


 首を切るのに良いらしい。


 右手に斧を持って馬車を降り、ゆっくり歩いてエリーナの前に姿を現す。

 エリーナは俺を殺した時と同じ冒険者の服装だが、その周囲には全身黒ずくめの連中が馬車群を取り囲んでいた。

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