第19話 金髪おっp……斧の使い方
「あなた凄いわ! 私達の命の恩人ね!」
金髪美女に正面から首に抱き付かれ、俺は硬直してピクリとも動けなくなっていた。
け、けっして女慣れしてないからではない!
あ、でも革鎧越しでも胸の感触が……俺はフルプレート着てるから伝わらないけど、心で感じ取った。
「い、いえいえ、お役に立てて良かったです」
なんとか言葉をしぼりだし、心臓のバクバク音がばれないように女性を引き離した。
「あん、もう照れちゃって、命の恩人なんだから、私を好きにしちゃっていいのに」
ええ!? そうなのか! じゃあもっと感触を味わっておくんだった!
と内心思ったけど、あれ以上は俺の心臓がもたない。
「い、今は周囲の警戒をしたり、荷馬車や他の人の様子を見ないといけませんから」
「む~、真面目なんだから、でもそういう所も素敵ね」
ごふぉあ! ウインクされた! なんだなんだ、こっちに来てから初めてチヤホヤされてるぞ!
しかもチヤホヤしてくれてるのは金髪巨乳美女だ! ここが桃源郷か!?
日本での生活を含めても、こんなに幸せを感じた事ないな。
「ほら、お前は警戒に当たれ、他の者は怪我人の付き添いと、馬車や荷物の確認を急げ」
冒険者リーダーが指示を出していく。美味い具合に彼女も離れてくれた。
「私はエリーナ、よろしくね。お兄さんは?」
「私はユグドラといいます。よろしくお願いします」
手を振って周囲の警戒に入った。
ふぅ、落ち着いた。さすがにいきなりでビックリしたよ。
「アンタはどうする、ユグドラだっけ? 用事があるのなら仕方ないが、無いのなら護衛に付き合ってくれると助かる」
冒険者リーダーからこのまま護衛できないかと頼まれた。
急ぎの用事があるわけじゃないし、エリクセンへ行くのならこのまま一緒に護衛したい。
むしろさせて欲しい、食糧事情的に。
「はい、私も護衛に参加しますが、行き先はどっちですか?」
「エリクセンの街へ向かっている」
「行き先も同じなので、ご一緒します」
「ありがとう、助かる。俺はアズベルだ、よろしくなユグドラ」
周囲にはもうモンスターの姿は無いらしく、交代で見張りをする事になった。
俺も見張りに参加し、色々と話しを聞いた。
アグレスからエリクセンへ向かう荷馬車の数は24台。1台は燃えてしまった。
商人の荷物や旅行客を運んでいるようで、馬車で3日の旅路のようだ。
普段はオーガが出ても1匹か2匹で、今回の護衛人数30人なら全く問題が無いはずだったようだ。
だが今回は5匹の上、狼も50匹程も現れたため、全滅を覚悟したと。
「それにしても斧って強いのか? 斧で戦う奴を初めてみたが、見せてもらっていいか?」
「ええ、いいですよ」
斧を手渡すと、冒険者は手が滑ったのか斧は地面に落ちてしまった。
「なにやってんだお前。遊んでないで俺にも斧を貸してく……ぐおおおおお!」
次の冒険者も、持ち上げる振りだけして持ち上げない。
??
「あの、冒険者の間で流行ってる遊びですか?」
流石にずっと地面に斧を置いておくのも嫌だったから自分で拾い上げた。
ふと見ると、持ち上げるフリをした2人が凄い顔で驚いてる。
え? なに? なにがあったの?
「ユグドラ、俺にも貸してくれ」
アズベルさんが手を差しだしてきた。
まあこの人なら変な遊びはしないだろう。
と思ったけど、斧を持った手ごと地面に落ちた。
悲鳴を上げながら斧の下敷きになった手を抜こうとしてるけど、またパントマイムか、抜けないフリをしてる。
「あの、一体何をしてるんですか?」
斧を持ち上げると、アズベルさんの手は
……え?
「なんだその斧、どれだけ重いんだよ」
涙目で手に息をかけている。
意味がわからないけど、腫れあがった手を放っておくことも出来ず、ひとまず手の治療をした。
骨は折れていなかったが、ヒビが入っていた。
治療スキルのお陰で骨の治療も出来て元通りになったけど、ひょっとして、斧を持ち上げられない演技じゃなくて、本当に重くて持てなかったのか?
確かにバトルアックスは全て金属製で、長さは80センチ、柄の前後に巨大な刃が付いた物だけど、特殊な効果が付いている訳では無い。
オーガとの戦いを思い出す。
肩にハチェットを刺した時、大して力を入れてないのに簡単に切り落としてしまった。
ジャンプをした時も、想像以上に高く飛んでしまった。
演技じゃ……なかったのか。
本当に重たいんだ、俺が使っている武器は。
試しに小型の斧・ハチェットをアズベルさんに渡した。
30センチ程度の長さで、刃は片側にしか付いていない。
かなり重そうに、両手でなんとか持てている。
理解した。俺の身体能力は想像以上におかしい。
力加減、生活に必要な加減は出来ているが、とっさに力を入れたらヤバイなこれ。
下手に人と接すると、骨を簡単に折ってしまう。
骨ならいい、力いっぱい抱き付いたら殺してしまうだろう。
俺は、俺が考えている以上に危険人物なようだ。
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