第15話 素敵な街

 今日はなんとか11人から満足印をもらえました。

 しかし期間は明日1日を残すのみ……27人ですか、2日あれば可能性がありますが、1日では無理でしょうね。

 いかりの件が無ければ、とも考えましたが、それがルールですので仕方がありません。


 明日も精いっぱい修理をする、それしかありません。




 今日も朝から大盛況です。

 朝から沢山の人が並んでおり、全員分の修理が出来ればよいのですが、半分も出来ないでしょう。

 さあ、修理を開始しましょう!


 午前の部が終わり、お昼休憩も程々に午後の修理を開始します。

 午前中で8人も満足印を頂けました。

 そしてみなさん事情を知っているせいか、気を遣って1人1個しか依頼してきません。


 やさしい方々ですね。

 私は依頼されたものを新品同様にして返す事しか出来ません。


「ちょいとごめんよ、ちょいちょいっと、すまないね兄さん、ちょいと順番かわってくんねーか」


 列をかき分けて1人の男性が現れました。

 並んでいた人たちもすんなり順番を譲っています。


「姉さん、コレの調子が悪いんだ、直るかい?」


 差し出された物は木の表面を削るかんなです。

 受け取って確認すると、少々刃が丸くなっていたので、いでお返ししました。


「ありがとよ姉さん、ちゃちゃっと満足印を押しとくぜい」


 そう言って表にある看板に印を押していきました。

 ? 一体何者だったのでしょうか。

 並んでいた方々も嫌な顔をしていませんので、この辺りでは有名な人なのでしょうか。


 まあ続きを……あら? 並んでいる人が随分と入れ替わっています。


「こいつを頼むよ」


 次の方が差し出したのは木を削るのみです。

 こちらも刃が少しだけ丸かったので、研いでお返しします。


「ありがとよ、押しとくぜ」


 その後も本当に簡単な、5分~10分で終わる内容の修理が続き、気が付けば満足印は99人まで来ていました。

 ですがすでに日は沈みかけており、次の修理の内容次第で成否が決まります。


 それにしても何が起こっているのでしょうか。

 その理由は次の人で理解できました。


「こっ、これの修理をたのむ」


「頼むじゃねぇ! お願いしますだろうが!」


「お、お願いします!」


 髪は短くなっていますが、いかりの修理依頼をした男性です。

 しかったのはどなたでしょうか。


 差し出されたのはカタツバという、船大工さんが使う道具です。

 (釘を打つ前に先導孔せんどうこうを開ける長細い道具)


 正直どこが痛んでいるのか分からないほどキレイでしたので、軽く表面と研いでお返ししました。


「あ、ありが、ありがとうございます!」


「おいもう一つあるだろう!」


「ま、満足印押しときます!」


 そういって走って出ていきました。


「しずかさんすまなかったね、ウチのバカ息子が迷惑をかけちまった。だが親父の言う通り、こんな状況でも一切の手抜きをしないとは感服した」


「お父様でしたか。私はこういうやり方しかできませんし、色々と学ばせて頂きましたから」


「かっかっか、あんなバカでも役に立てたのなら良かった」


 ヒラヒラと手を振って出ていきました。

 それと入れ替わるように鍛冶ギルドのマスターが入ってきます。


「驚いたな、まさか100人から印をもらえるとは思わなかった。おめでとう、これは約束の推薦状すいせんじょうだ」


 ギルドマスターから丸められ封印された用紙を受け取ります。

 と同時に拍手が沸き上がりました。

 口々に『おめでとう!』や『やったぜ!』と喜んでくれています。


 みなさん、私以上に気にしてくれていたのですね。


「ありがとうございます、ギルドマスター、みなさん。楽しく仕事が出来たのは、ひとえにみなさんのお陰です」


 お礼の言葉を述べると、そのまま暗くなった街に引き連れられ、大きな飲み屋でパーティーが始まりました。


「今日は鍛冶ギルドのおごりだ! お前ら飲みまくれ!」


 ギルドマスターの合図で一斉にジョッキが突き上げられます。

 冒険者や鍛冶屋、修理に来てくれた方以外にも沢山いますが、本当に良いのでしょうか。


 私も嬉しくてたくさん飲んでしまいましたが、パーティーの間に10人ほどからプロポーズされました。

 なぜでしょうか……私は中身は男です。男に言い寄られても嬉しくないです。

 丁寧にお断りし、ヤケ酒している方々を横目に夜が更けていきました。




 翌朝、一番に商工会に行って登録を済ませ、その足で鍛冶ギルドへ向かいます。


「おはようさん、はいギルドカード」


 ギルドに入ると同時にカードを渡されました。


「えっと、ありがとうございます? あの手続きなどは……?」


「ああやっといた。それで、どこに店を出す? おすすめの場所があるが、そこにするか?」


「申し訳ありません、まだ旅を続けたいので、ここでお店を構えるつもりは無いのです」


「そうなのか? 残念だが仕方がないな。しずかさんならどこへ行っても大丈夫だろうが、この街に来たら顔を出してくれよ?」


「ええ、お約束します。それでは次の街へ向かいます、色々お世話になりました」


「気を付けてな。この街はどうだった?」


 ふふふ、そんな事聞くまでもないでしょう。


「とても、素敵な街ですね」




 アグレスの街を後にします。

 次に向かう先はエリクセンという街ですね。

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