第14話 2人の老人

「ふぅ~……やってられませんね。あ、これとこれもお願いします」


「かしこまりましたー」


 私は今、バグレスの街にある飯屋でやけ食いの最中です。

 鍛冶・100人勝負? そんなものは知りません。あんなやからの顔を見るのも嫌なので、アグレスを離れ、最初の護衛依頼で来たバグレスの街までやってきました。


 この街はいいですね。小さいながらも港町で、魚介類ぎょかいるいが新鮮でおいしいです。

 今食べている焼き魚と刺身の盛り合わせも、とても美味しいです。


 ふぅ~、たくさん食べました。ひーふーみーよーいつむ、6人前も頂きました。

 水を飲んで、次の料理が運ばれてくるのを待っていると、お店に2人の老人が入ってきました。

 その老人2人は私に近づき、声をかけてきました。


「あんたがしずかさんか?」


 振り向いて声の主を確認します。

 1人は背が低く、髪は有りませんが白いあごひげの伸びたご老人。

 1人は背が高く、白髪ですがヒゲはなく、目が細く杖を持ったご老人。


「はい、しずかです。わざわざ来ていただき、ありがとうございます」


 イスから立ち上がって挨拶をします。

 来てくれて良かった。


「なんのなんの、すまないねぇ待たせちまって」


 背の高い老人が答え、2人は私の前のイスに座りました。


「それで、ワシらに用があると聞いたが、何の用じゃ」


「お2人は有名な船大工だと聞きました。なのでコレについて教えて欲しいのです」


 アグレスの街で依頼されたいかりをバッグから取り出し、2人に見てもらいます。

 そう、わざわざラマに乗ってバグレスに来たのは、いかりに詳しい人に会うためです。

 絶対にあの人物の鼻を明かしてやります。


「ん~? これは?」


「私は今、鍛冶・100人勝負の最中なのですが、コレを修理して欲しいと依頼されました。しかしご覧の様に原型をとどめておらず、修理しようにも出来ないのです。なので、この錨の元の形をご存じないかと思い、お2人に会いに来ました」


「随分と、というか、すでにてておる。こんな物、修理できんじゃろ。断ってしまえ」


「そうしたいのは山々ですが、勝負に持ち込まれた物の修理は断ることが出来ず、私の矜持きょうじとしても、1度受けた依頼は完遂させたいのです」


「ほっほっほ、お若いのに感心感心。して、これを持ちこんだのは、一体どんな人物なのかの~?」


「少々軽薄そうな、イヤらしい笑い方をする男性でした」


「ん? そいつは―――」


「ほっほっほ、そうかそうか、それは災難でしたなぁ~。偶然ですが、この錨の事は良く知っとります。お力になれますわい」


「ありがとうございます! それでは早速ですが、元の形を教えてくださいますか?」


「ええよ、ウチにおいで」




 造船所に連れてきてもらいました。

 今も船を作っている最中の様ですが、見た感じ10~20人が乗れる大きさの船です。


「あったあった、これですわい。かなり古くて文字がカスれとりますが、錨の部分は問題ないの~」


 かなり分厚く大きな設計図です。100ページ以上はあるでしょう。

 私は見ただけではどこの部分なのか分かりませんが、ページをめくると目的のモノが見つかりました。


「錨、ですね」


「おおコレだな。懐かしい、お前が昔かいた設計図だ」


「ほっほっほ、まさか今になって見る事があろうとはの~」


「この錨の……船の設計をされたのですか?」


「若いころの話しですわい。ささ、これを持って行って、早く修理に取り掛かるといいでしょう」


「ありがとうございます。早く終えて、すぐに返しに来ます」




 時間がかかりました。

 10日以上はかかっています。

 しかしお2人に見てもらい、完璧だ、とのお墨付きをもらいましたので安心です。


 アグレスの街に戻り鍛冶屋へ向かうと、相変わらず行列ができていました。


「お久しぶりです親方さん。ご迷惑をおかけしましたが、何とかなりました」


「おかえり。何とかなったか、そうかそうか。オイ! あいつらを呼んできな!」


 ギャラリーと職人さんが、面白そうにあの人たちを呼びに行きます。

 居場所、知ってるんですかね?

 私の不安をよそに、すぐに来ました。


「あ~ん降参か? ケッ! これだからトーシロは困んだよ」


 取り巻き連中は私を指差して笑っています。

 どうやら呼ばれた理由を説明されていないようですね。


「あちらがご依頼の品です。ご確認ください」


 すでに店の脇に置いてあった錨を指差すと、すぐに笑いが止まり、リーダー格に目をやります。

 

「これだとぅ? 違うなぁ、あれはこんな形じゃ無かったぜ! ヘッ! 出来ないからって適当なことしてんじゃねーぞ!」


「いいや、それであっとるよ」


 店の中にお年寄りが1人、杖をついて入ってきました。

 そしてリーダー格の目の前に立ち、細い目が少し開きます。


「じ、じじじじじ、じいちゃん!」


 ああ、やっぱりそうだったんですね。

 最初は弟子か何かかと思いましたが、話しを聞いているうちに気が付きました。

 孫も船大工らしいですが、サボりがちで仕事に身が入っていないそうです。


「ワシの形見なんじゃろ? 形くらい覚えとかんかいバカものが!」


 杖で頭を叩きまくってます。

 げ、元気ですね。


「じいちゃん痛い! ごめん、ごめんってば!」


 お孫さんはしゃがんで頭を抱えています。

 取り巻き連中はお孫さんを見て引いてますね、まあさっきの威勢はどこへやら、ですからね。


「さっさと戻って仕事をせんか!」


「は、はーい!」


 走って出ていきました。取り巻き連中も慌てて後を追います。

 ふぅ、何とかこの依頼も完了……あ、満足印をもらっていません。


「すまんかったな~しずかさん。依頼料はワシが立て替えるよ、今後はしずかさんをご贔屓ひいきにさせてもらうから、それで許してくれんか」


「私は今回色々なことを勉強させていただきました。贔屓にしてもらえれば、それで十分です」


「ほっほっほ、あんたはええの~、ワシがあと30若ければ結婚を申し込んどるぞ」


「ふふふ、それは残念でした」


「それじゃあの、また遊びに来ますわい」


「またどうぞ」


 お爺さんは左手で錨を持ち上げ、肩にかついで帰っていきました。

 ……え!? あれはかなりの重量があるはずですが!?!?

 あの人は一体何者なのでしょうか。




 鍛冶・100人勝負の残り2日、満足印人数62人。

 後38人必要。

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