第12話 鍛冶・100人勝負

「鍛冶・100人勝負……ですか」


「そうだ! お嬢ちゃんも聞いた事があるだろう!」


「はい、もちろん初耳です」


「そうだろうそうだろう、はーっはっはっは! はぁ?」


「それは何をする勝負でしょうか」


「……コホン、『鍛冶・100人勝負』はな、お客さん100人を満足させることが出来るかどうかの勝負だ! 期間は30日、そのあいだに100人から満足印まんぞくじるしをもらえればお嬢ちゃんの勝ちだ」


「なるほど、30日で100人ですか。他にルールはありますか?」


「特にないが、鍛冶屋としての仕事に限り、依頼は全て受けるって事くらいだな」


「修理や販売ですか?」


「そうだな。修理は直接だが、販売は武器屋や防具屋、刃物屋の店主からだ」


 なるほど、そうなると数を稼げる修理の方が効率が良いのでしょうか。

 お店はオマケ程度に考えた方が良いかもしれませんね。


「鍛冶場は貸していただけるのでしょうか?」


「ああ、街の中心近く、色々な店もあるし人通りも多い。一等地の鍛冶屋を紹介してやる」


「分かりました。その勝負、受けて立ちます!」




 鍛冶ギルドの受付の男性に案内してもらい、今日から30日間お世話になる鍛冶屋さんに到着しました。

 中心近くにあるだけあって、それなりの大きさがあります。

 3人の鍛冶職人が作業をしていますが、金床かなどこはもうワンセット余っているようです。


「よう邪魔するよ。鍛冶・100人勝負が始まるから、この女性に場所を貸してやってくれ」


 3人の職人さんが一斉に私を見ます。その中の1人、親方さんでしょうか、使っていた道具を置いて近づいてきます。


「そうか、また随分と久しぶりの勝負じゃないか。何事も経験だ、ダメでも誰かの弟子になればいいさ」


 ポンポンと肩を叩いて戻っていきます。

 なんでしょう、すでに負けが確定しているような言い方でしたが。


「よろしくお願いします。若輩者ですが、精いっぱい勝負したいと思います」


 表面上は冷静に、しかし内心は煮えくり返っています。

 それにしても、100人勝負に勝った人は何人いるのでしょうか。


「鍛冶・100人勝負で勝った人は何人いるのですか?」


 ギルド受付の男性にたずねると、首を横に振りました。

 これはどういった意味でしょうか。


「過去に成功したヤツはいない。記録では50人以上が勝負しているが、0人だ」


 なるほど、そう言う事ですか。0%なら敗北前提で話しをするのも納得です。

 そうですか、ふふふ、燃える展開ですね。




 早速準備をして勝負に挑みましょう。

 道具や備品を揃え、炉に火を入れます。

 金槌かなづちと火バサミ、鍛接材たんせつざいも用意しましょう。


 ふと店頭を見ると、木製の看板が置かれていました。

 《鍛冶・100人勝負中! 期間中は挑戦者の修理は半額!》

 だそうですが、半額でいいのならお客さんは優先的に回してもらえる、という事でしょうか。


 それにしても、そうですよね、修理はお金をもらうモノですよね。

 ゲームでは無料で修理していたので、なんだか申し訳ない気がします。


 とはいえ勝負は勝負。利用できる物は何でも利用しましょう。




 早速最初のお客さんがいらっしゃいました。


「挑戦者に修理を頼みたいんだが、いいかい?」


 私服を着ていますが、筋肉の付き方や手に持った武具を見た感じ冒険者でしょうか。


「はいどうぞ。剣と防具の修理ですか?」


「ああ頼むよ。予備の装備なんだけど、しばらく手入れをしてなかったが大丈夫か?」


 剣と金属鎧を受け取り確認すると、特に刃こぼれや痛みが酷いわけでもなく、少々さびが浮いている程度でした。

 これなら剣は研いで、鎧は磨き上げと関節や接続部分の手入れだけでいいでしょう。


「問題ありません。では作業に入ります」


 片手持ちの両刃の剣を水で濡らし、砥石といしいでいきます。

 ゆっくりと錆が落ちていき、本来の輝きが戻ってきました。

 しかし金属の質が良くありません。ユグドラで見た時もそうでしたが、この街周辺の装備はどれも品質が悪く、冒険者の装備も上級冒険者にならないとまともな物を持っていません。


 剣の研ぎが終わり、紙を1枚取り出します。

 刃にあててずらすと、音もなく半分に切れました。

 これで良いでしょう。では次は鎧です。


 胸の前後と、籠手、具足のセットですか。他の部分は革鎧でしょうか。

 鎧は軽い錆びなので、研磨剤を付けた布でこすれば取れました。

 数か所にあった錆を落とし、接続部や関節のつなぎ目の調整をして動きを確認します。


 表面を磨き上げて、蝶番ちょうつがいに油を差して完了です。


「完了しました。確認をお願いします」


 武器と鎧を渡そうとすると、周囲には人だかりができていました。

 いつの間に……。

 集中すると周りが見えなくなるのは、直さないといけませんね。


「あ、ありがとう。確認するよ」


 剣と鎧を手に取り、剣を数回振り回し、鎧を装備しました。


「な、なぁお姉さん、この剣ピカピカなんだが」


「はい。顔が映るほど磨いた方が、切った際に抵抗が少なく、切れ味が良くなりますので」


「そうなのか?」


 そういって近くにある試し切りの木の棒に、剣を振り下ろしました。

 棒は真っ二つに切れ、切り口はとてもきれいな物でした。


「ほ、本当だ!」


「次俺のを頼むよ!」


「バカ野郎俺の方が先に並んでたんだ!」


「お姉さんコレ! コレ頼むよ!」


「ちょっと! 私の方が先だよ!」


 評価は上々のようです。

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