第15話 模擬戦
模擬戦場に2人が入場して来る。
そしてお互い向かい合うと、恭しく礼をした。沸き立つ観客達。呼応するように私のテンションも上がってくる。
「ケリー様頑張れ!!」
歓声の中、聞こえてはいないだろうがとりあえず声はかけておく。シグバール国王にはあのように言ったが、やはりできれば勝ってほしいという想いはあった。
セツナ相手に難しいとは思うが、勝てないほどではない。力量としては恐らく五分五分と言ったところだと思う。
しいて言うなら、状況把握は確実にセツナのほうが上だ。クエリーシェルは力に重きを置いているのに対して、セツナはワザで勝負といったところか。
「[いよいよだな]」
「[そうですね]」
自分のことではないのに、なんだかドキドキする。模擬戦なので、模擬剣使用なのだが、それでもこの2人の対決だ。怪我をしないことを祈りながら、見守る。
「[はじめ!!]」
レフェリーが声を上げると、それぞれ剣を構える。先に仕掛けたのはクエリーシェルからだった。
真っ直ぐ正面にひと突きするのを、セツナは華麗な身のこなしで避ける。それに合わせるようにクエリーシェルも素早く身体を捻って振り向きざまに力強く剣を振るうも、セツナはしゃがんで避けてしまった。
「[おぉ、いい立ち回りだ]」
「[えぇ、さすがです]」
セツナはしゃがんだあとにクエリーシェルの軸足目掛けて掬うように蹴りを入れる。だが、クエリーシェルもきちんと踏み込み、体幹を鍛えているからかびくともしなかった。
「おぉ、やる〜」
「それほどでも」
すかさずしゃがんでいるセツナの首根っこをひっ掴もうとするも、ゴロゴロゴロ、と彼はクエリーシェルの股の下をくぐって背後を取る。
今度は背中からセツナが剣を振り下ろすも、素早く振り返ったクエリーシェルが剣を弾いた。
「[ははは、両者互角と言ったところか]」
「[えぇ、今のところは。このあとお互いにどう仕掛けてくるか……]」
セツナが本気を出したところは今まで一度も見たことがない。だからこそ、彼の本気がどれほどかは気になっていた。
クエリーシェルもスイッチが入ると人が変わったかのように鬼と化すというが、今のところそのスイッチが入ったような傾向はない。2人が本気を出したら一体どうなるのだろうか。
「こりゃ、決着つかなそうだな」
「そうですね。このまま、では」
「お、言うじゃねぇか。まぁ、せっかくの肩慣らしだ。ちゃちゃっとギア上げて終わらせますかね」
(あ、雰囲気が変わった)
飄々としていたセツナから一瞬で表情がなくなる。遠く離れて見ているこちらがゾクッとしてしまうほどの殺気。こうも瞬時に変わるのか、とあの男が味方で本当に良かったと思った。
「[ほう、ちょっとは本気を出すようだな]」
「[そのようですね]」
「[さ、お手並み拝見といこうか]」
観客も空気が変わったのに気づいたようで、シンっと一気に静まり返る。模擬戦でこんなに静かなのは初めてだった。
ザッ……っ!
セツナが一気に地を蹴るやいなや、目にも止まらぬ速さでクエリーシェルに突っ込む。だが、すんでのところでクエリーシェルが剣で防ぐ。
だが、防がれたと同時にセツナはふっと宙を舞い、クエリーシェルの頭上を跳ぶ。クエリーシェルは一瞬で視界から消えたセツナを見失ったのだろう。次の瞬間、背中から蹴りを入れられる。
「ぅぐう……っ!」
「ケリー様!!」
「おいおい、どうした。あんたはこんなもんじゃねぇだろ?まだオレさまは3割も力出してないぜ?」
「っく」
クエリーシェルはすぐに立ち上がり斬りかかる。だが、それをひょいっと躱すと、セツナはクエリーシェルの手首目掛けて思いきり踵を落とし模擬剣を落とさせると、そのまま反対の脚でクエリーシェルの首目掛けて蹴り上げた。
「ケリー様!!!」
そのまま崩れるように地面に叩きつけられるクエリーシェル。思いきり首に蹴りが入ったせいか動かなかった。
(これって模擬戦よね……?)
思いのほか一方的な戦況に胸が苦しくなる。さすがセツナ、強いとは思うが、だったらもっと加減しろと理不尽な怒りも沸々と沸いてくる。
「[さて、ヴァンデッダ卿はどうするか……]」
「ケリー様……」
「おいおいおい。もうしまいか?オレさま全然肩慣らしもできてねぇぜ?コルジール国の軍総司令官というのは随分と簡単になれるんだな」
(さっきからやたらとケリー様を煽るわね。一体なんなの?)
やたらと挑発を繰り返すセツナ。そんな戦い方をする人だったっけ?と疑問に思いながらも決着を見守る。
「どうした?オレさまの勝ちでいいのか?」
「っ!」
ガッと勢いよくクエリーシェルがセツナの首を掴む。そのまま持ち上げると、セツナの身体が宙に浮く。
セツナがもがくも、クエリーシェルの力が強いせいか抜け出そうにもびくともしないようだった。
「え、ケリー様!?セツナさん!!」
「[そこまでだ!!]」
シグバール国王の怒号が轟く。隣から発せられたその音に、思わずびくりと全身が竦んだ。
クエリーシェルも我に返ったのか、セツナの首を離し、セツナはセツナで地面に落とされるとそのまま咳き込んでいた。
「すまない。大丈夫か?」
「ごほっげほっ、あぁ、大丈夫だ。あとちょっとで死んでたかもしれないが」
「申し訳ないっ、つい……っ」
「大丈夫だ、ちょっとオレさまも煽りすぎた。ま、あとで反省会でもしようぜ?時間ないから手短にしかできないけどよ」
「あ、あぁ……」
放心してるクエリーシェルをよそに、セツナはそのまま模擬戦場を出て行く。私もまるで石のように固まっていると、トンっと肩を叩かれる。
「[大丈夫か?]」
「[え?あぁ、はい……]」
「[そうか、ならいいが。あまり気負わないようにヴァンデッダ卿には伝えておいてくれ]」
「[は、はい……]」
未だに胸がドキドキする。それがなぜだかわからずに戸惑ったまま、私はクエリーシェルの元へと向かうのだった。
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