第4話 めんどくさい愛しい人
「ほら、口を開けて……」
「もう、自分でこれくらいできますから」
あれから結局国王の前に立つならそれなりに体調が戻ってからだとクエリーシェルに説き伏せられ、私はベッドで寝転んだまま。
トイレのときくらいしか出歩くことが許されず、しかもずっとクエリーシェルが私のそばを離れずに、まるで親ガモが子ガモを連れて歩いているような状態であった。
そのため現在もこうして夕食をクエリーシェルに食べさせられるというとても恥ずかしい場面に直面している。
ちなみにメリッサは自室が用意されたとのことでそちらに行ってくれているため、彼女にこの状況を見られないのが唯一の救いである。
「ほら、食べるものも食べないと」
「いや、ですから。食べることは食べますから」
「私の手ずからでは食べたくないと?」
「いや、そうではなく……あー、もう食べますよ!」
もう埒があかない、とスプーンにぱくんとかぶりつく。さすがに病院食なので薄味ではあるが、ずっと寝たきりであったため美味しく感じた。
「ケリー様はお食事どうされるんです?」
「私もここで食べる」
「え、なぜ?」
「なんだ、ここにいては悪いのか?」
「そうじゃないですけど……」
(なんかめんどくさい人になってる)
なんだか過保護に拍車がかかってるのはどうにも気のせいではなさそうだ。
まぁ、確かにここのところ心配かけてばかりだし、ボコボコにされているしでクエリーシェルはちょっと寿命が縮んだと言われても納得してしまうくらいには無茶をしている自覚はあった。
「ケリー様」
「何だ?」
「私はケリー様も心配です」
そう言って彼の手を握る。ゴツゴツした指の感触を味わうようにゆっくりと彼の手に自分の指を這わすと「り、リーシェ……」と戸惑うような声が頭上から降ってくる。
「食べるのが大事、だというならケリー様も食べなくては。ちょっと顔色悪いですし、私にずっと付き添っていたのでは?」
「それは……」
「でしたら、メイドとして主人のそういう不摂生は見逃せません」
「もう、今更メイドも何もないだろう」
「そういうわけにはいきませんから。コルジールに戻ったらまたケリー様のおうちでメイドとして働かせてもらいますよ?」
「そうだとしても今は……」
「私もケリー様同様心配なんですよ」
キュッと手を握り込む。大きすぎて全体を握り込めてはいないが、それはご愛敬だろう。
「リーシェ……」
「無事に会えてよかった」
「あぁ、本当に」
ギュッとクエリーシェルに肩を引き寄せられて抱き締められる。そして、頬に手を添えられるとそのまま唇が重なった。
「愛してる。安否がわからない間は生きた心地がしなかった」
「ごめんなさい。無茶をして」
「髪もそんなに短く……大事にしていただろう?」
そっと優しく頭を撫でられる。
髪は無我夢中で切ってしまったため、腰くらいまであったはずの髪がバッサリと顎の辺りまで短くなってしまっていた。
「それは……。でも、手入れの手間が少なくなって頭が軽くなりましたし、また伸ばせばいいんですから」
「そんなことを言って……。まぁ、だが、リーシェは短くても似合ってはいると思う。あとで綺麗に整えてもらおう」
「ありがとうございます」
目が合うとそのまま今度は深く口づけられる。身体もきつく抱きしめられ、クエリーシェルの体温や匂い、骨格全てが愛しく感じて涙が溢れてくる。
(生きててよかった。死ななくてよかった)
彼と再会できたことが嬉しくて、ぽろぽろと涙を溢しながら抱き合った。
「私もケリー様に会えてすごく嬉しいです。あと、その……私も好き、です。だから……」
「だから?」
「ちょっとだけでいいんで、こうしてくっついていたいです。あとキスも……。そのあと2人で一緒にご飯食べましょう?」
「あぁ、そうだな」
ちゅっちゅ、と何度も何度も唇を合わせる。今まで離れていたぶん、相手の存在を確かめるかのように長く深くまるで溶け合うかのようにくっつきながらキスをするのであった。
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