第46話 交換条件

「〈あ、あの。自分が何を言っているかおわかりで?〉」

「〈もちろん。素面ですし。それで、お返事は?〉」

「〈受けるわけがないでしょう!〉」

「〈なぜ?〉」

「〈なぜ?って……私達と敵対している勢力となぜ縁を結ばねばならないのよ!!〉」


まさかのこの状況に頭がおかしくなりそうだ。帝国兵から求婚されるなどと誰が想像しようものか。


だが、ギルデルは顎に手を置いたあと考えるような仕草をしたあとに口を開いた。


「〈では、帝国兵でなければいいんですか?〉」

「〈いや、そういうわけじゃ……っ!そもそも、帝国兵でなかったとしても、そんな急に求婚されて頷く人なんかいないでしょう?てか、女性がいらっしゃるのでは?さっきの方が女の子がどうのこうの言ってたじゃないですか〉」

「〈先程言っていた彼女達はただの遊びです。ボク、この見目で資産も地位もそれなりにあるので、引く手数多なんですよ?それでも断ります?〉」


彼女達、という言葉にそういう関係の人が複数人いることはわかる。そういう好色な人がいるのは知っているが、受け入れられるかどうかは別である。


はっきり言って、絶対にこの人は合わない相手である。例え資産や地位があったとしても顔がいいとしても根本的に性格やその他諸々不一致なことが多すぎる。


「〈断ります〉」

「〈そうですか、それは残念〉」


残念、というわりには残念そうには見えないギルデル。全く真意が見えずに、モヤモヤする。


「〈では、これからボクのことを知ってもらうのは?〉」

「〈無理です。嫌です〉」

「〈そんなつれないことおっしゃらずに。大丈夫です、皇帝にはこのことを内密にすると誓いますから〉」


一体何に誓うと言うのか。というか、帝国に所属している以上そんなことは不可能だ。


いくら誇れるほどの資産や地位があったとしても、皇帝のきまぐれでそんなもの一瞬で吹き飛ぶ。そんなことを帝国に所属していて知らないはずがない。


「〈そんなの無理でしょう。てか、本当の目的はなんなんです?何を聞きたいんですか〉」

「〈本当の目的?ボクは本当にリーシェさんを好きになっただけですから〉」

「〈いやいや、どこに好きになるような要素が。そもそも私を捕らえるために貴方達はここに来たのでは?〉」

「〈それは半分正解で半分ハズレです〉」


思っていた答えと違う答え。しかも聞き捨てならない発言に、思わず「〈どういうことです?半分て……私以外に理由が?〉」と食いついてしまった。


「〈おや、気になります?〉」

「〈そりゃ、気にならないわけがないでしょう。追われている身なんですから、情報は多いければ多いほどいい〉」

「〈それは確かに、ごもっともですね〉」


私が食いついたことに機嫌をよくしたのか、心なしか声が弾んでいる気がするのは気のせいだろうか。


「〈では、条件をつけましょう。貴女からのキス1つで1つ情報を出すというのは?〉」

「〈はぁ!?嫌よ、そんなの!!〉」

「〈でも、情報が欲しいのでは?〉」

「〈そうだけど、そこまでして……っ!〉」

「〈そこまでするほどの価値はないと?ですが、ボクもそれなりの情報は持っていますよ〉」


一体どんな揺さぶりの仕方だ。キス1つで情報が買えると思えば確かにちょっと揺らめくのも事実だ。


情報がないと嘆いていた自分にはチャンスのように思えるが、かと言ってキスができるかと言われたら話は別である。


ちらちらとクエリーシェルのことが頭をよぎるし、もしキスをしたところで大したことない情報だったら憤死ものだ。


「〈そもそも、そっちのメリットは?私に情報を教えたところでそっちに何もメリットがないでしょう!?〉」

「〈キスをしてもらえることがじゅうぶんメリットと考えますが?〉」


(こんなにも読めない人間初めてだわ!)


だんだんとイライラしてくる。色々な人間に会ってきたつもりだが、ギルデルのように飄々としていて意図が読めないタイプは初めてだった。


「〈ほら、あんまり考えている時間はないですよ?リーシェさんはお急ぎなのでは?〉」

「〈何で、それを知って……っ〉」

「〈それは秘密です〉」


(やはりこの人侮れない)


私は自分の身の振り方について、考える。何をするのがベストか、そしてそれは……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る