第39話 ナンパ

(まずいなぁ、この状況)


現在、街の外れ。


買い物も終え、2人と約束した集合場所に行こうとしたら、男性2人組に声をかけられて今に至る。


「〈随分と荷物、重たそうだね、持ってあげるよ〉」

「〈おうちはどこだい?この辺の子にしては随分と色白だねぇ〉」


正直こうした声かけをされるのに慣れておらず、戸惑う。


(えーっと、これはいわゆるナンパというやつだろうか?)


知識として聞いたことはあるが、こうした内容で声をかけられるのはあまりない。いや、初めてではないだろうか。


この人達は不特定多数の女性に手当たり次第声をかけているのか、と思うとある意味メンタル強いな、と内心感心する。


(って、感心してる場合じゃなかった。こうしたときってどう対処するのがいいのかしら)


無視するのがいいのだろうか、それとも適当にあしらうのがいいのだろうか。いまいち対処法がわからずに困惑する。


すると、声かけに慣れてないのを察したのか、はたまた言葉が聞こえなかったと思ったのか、顔をずいっと近づけられる。


正直、見知らぬ人に顔を近づけられるというのは恐怖でしかなかった。


「〈もしもーし?もしかして、こういうの初めて?〉」

「〈俺達、何もしないから。ね?ほら、綺麗な手を汚したくないでしょ?〉」


言いながら腕を掴まれて、思わず咄嗟とっさにその腕を払い退ける。


(あ、やば)


無意識とはいえ、やってしまったことに動揺していると、気分を害したらしい男達は不機嫌さを隠すことなくこちらに向けてくる。


「〈ちょっと、それはないんじゃない?〉」

「〈こっちは善意でやってるのに、そうやって拒絶されるなんて悲しいなぁ〉」


口調は穏やかなのに、明らかな怒りを感じる。これはまずい、とこの状況を脱するための方法を考える。


(下手にここで騒動を起こせば、帝国兵達に目をつけられる可能性がある。それだけは避けなければ)


だが、とはいえ今までの経験上穏便にことを済ませられた試しがないこともまた事実だ。大体こういうときの選択ミスをやらかして、ことを大きくするのがセオリーなのだが、はたして今回は成功するのだろうか。


(無視するか、はたまた謝って適当にはぐらかすか。……やはり謝るのが無難だろうか。でも、謝ったらこの人達そのまますんなり帰してくれるかもあやしい。となると、無視するのが最善策か?)


頭の中で様々なことを逡巡するも、いかんせん不得手なことすぎて正解がわからない。


こうなれば、もうなるようになれ、と「〈すみません、先を急いでいるので〉」と無難な返しであろう言葉を返す。


我ながら一番いい返しではないか、と内心自画自賛し、彼らの横をすり抜けるように歩き始めたときだった。


「〈いや、ちょっとちょっと待ちなよ。何その冷たい感じ〉」

「〈そうだよ、それはないんじゃない?〉」


先回りをされて進行方向を塞がれる。まさかそんなにしつこくされるとは思わず、普段遭遇しないタイプの相手に、頭を抱えたくなる。


あからさまに拒否の姿勢を貫いているというのに、こうして食い下がられるのは初めてかもしれない。


(こうなれば、逃げるが勝ち!)


と、と、とととと……ダッ!と歩調を速めて、早足から一気に駆け出す。


「〈おい、こら待てっ!!〉」

「〈逃がさねぇぞ!!〉」


(何でこの人達こんなにしつこいの!??)


初めてこうして執着されることに危機感を抱きつつ、荷物を抱えて人混みに向かって突っ込んで行くのだった。

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