第20話 労い
「〈随分と仲良くなったようじゃな〉」
「〈あぁ、師匠。おかえりなさい〉」
メリッサは鍛錬と遠出で疲れたのか、帰宅し果物を食べると私の膝の上で寝てしまった。身動きが取れず、さらに手近に何もなかったので、仕方なしにぼんやりと今後のことを考えていると、師匠が外から帰宅する。
「〈夜くらいしか寝ない子じゃったが、そうやって寝るのを見るのなんて久しぶりじゃな。そんなに疲れておったのか?〉」
「〈私に付き合って鍛錬と遠出もしてくれたからね〉」
「〈ほう、遠出……あの丘のところか?〉」
「〈えぇ、果物が取れるからって誘ってもらったわ〉」
師匠は慈しむようにメリッサを見つめながら、そっと頭を撫でる。その姿は元国王でもなんでもなく、ただの普通のおじいちゃんでしかなかった。
「〈この子は、ワシが城に引き取ってのう。噂で色々と聞いてはおったが、相当に酷い扱いをされていたようでな。夜は特に酷くて眠るのを拒否するくらいだったんじゃ〉」
「〈そうだったの……〉」
最初の頃の無表情な部分はどこか既視感があると思っていたが、あれはまんまかつての自分であったと思い出す。
あのクエリーシェルと出会う前の旧領主のところにいたときの自分。迫害され、疎まれて心を無にしてただただ日が過ぎ、死ぬことだけを望んでいたあのときと同じだと気づいた。
考えるから苦しい。
感じるからつらくなる。
だから私は考え、感じることを放棄した。言われたままに従う
「〈こうして寝れるようになったのは師匠のおかげね〉」
「〈ワシはあくまでちょっとした手助けをしただけじゃ。この子が自分で頑張ったからこそ、こうして生き、日々生活しておるのじゃ。そういうステラ、お主もよく頑張っておると思うぞ。ワシの自慢の弟子じゃ〉」
よく頑張った。
その言葉に、自然と涙が出てくる自分でも訳がわからず、濡れる目元を押さえると、師匠から優しく頭を撫でられた。
「〈お主も難儀よのう。定めは時に残酷じゃが、きっと報われる日がくる。今後も苦難があるだろうが、今まで本当によく頑張ってきた。偉いぞ、ステラ〉」
目頭が熱くなる。自分の今までの頑張りを認めてくれたこと、そして労ってくれたことに胸が詰まる。
「〈私、頑張ってる?〉」
「〈あぁ、ワシからしたら十二分に頑張っておるぞ〉」
自分で押し殺していた感情が溢れ出す。それは涙になって、次から次へと湧き出していく。
「〈よしよし、よく頑張った〉」
「……う、ぅう……っふ……っん」
「〈……んん、……どうしたの?ステラ、泣いてるの?〉」
私が泣いて身体が震えたせいか、メリッサが目を覚ます。そして、心配そうに手で私の涙を拭ってくれた。
「〈どこか痛いの?ずっと私が乗っていたから……?〉」
「〈違う、違うわ、メリッサ。ただちょっと、嬉しかっただけ〉」
「〈嬉しかったの?〉」
メリッサは師匠と私を交互に見てから首を傾げる。そしてわからないなりにも「よかったね」と師匠の真似をして私を優しく撫でてくれるのだった。
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