第17話 都合の悪い存在

「〈メリッサが指名手配されてるってどういうこと!?〉」

「〈あー、その話か〉」

「〈あー、じゃないでしょ。大事なことでしょ、その話〉」

「〈まぁ、下手に情報与えすぎて怖気つかれても困ると思うてのう〉」


大事なことを聞いてない!と詰め寄ると、ふぉふぉふぉ、とさしたる問題でもないかのように笑い出す師匠に、食えないジジイだ、と内心毒づく。


「〈まぁ、そういうことじゃ。あの子は全国指名手配中。そしてステラは世界で指名手配中。どちらも姫であるし、なかなかないコンビよのう……〉」

「〈そういうのはいいから。一気に難易度上がっているじゃない〉」


ただでさえ国境を越えるのが大変だというのに、指名手配が2人に怪我人1人とはどういうことだ。規模は私のほうが厄介ではあるが、全国指名手配というのもなかなかだろう。


「〈最近のことじゃが、メリッサが絶賛都合の悪い存在になっておってのう。現在の国王には1人息子がおるのじゃが、その子が病弱で世継ぎとして難しい〉」

「〈で、時期国王候補としてメリッサが?〉」

「〈あぁ。だが、帝国の人間との間の子だし、そもそも本妻でもない。さらに言えば、親類皆、時期国王の座を狙っているから、メリッサさえいなくなればと思う者も多い〉」

「〈確実に存在を抹消したい、と〉」

「〈そういうことじゃ〉」


どこもかしこもゴタゴタし過ぎだろ、と思わず頭を抱える。イレギュラーの巻き込まれだが、助けてもらっている手前、事情を知ったからといって約束を反故にするわけにもいかない。


まさに四面楚歌と言った状況なのだろう。師匠も狙われているというのは、メリッサを匿っているからに違いない。


確かに、正妻からすれば我が子の代わりに別の女が産んだ子供など忌むべき存在だろうし、帝国側からしても身内を殺したという勝手な逆恨みを募らせているのだろう。


親類はそりゃ自分達にもチャンスが巡ってくる可能性があるならそのチャンスを掴みたいだろうし、国王はどう思っているかは知らないが、積極的に庇おうとしていない辺りどうとも思っていないということか。


「〈だからこそ早めにあの子を連れ出して欲しかったんじゃ。ワシももう無茶はできん年になった〉」


不治の病だと先日メリッサには聞いたが、あえてここでその情報は引き出さずにただただ「〈年も年だしね〉」と適当に受け流す。


下手に情報を引っ張りすぎて感情が揺れてしまうのを防ぐためだが、とはいえやっぱり人間である以上考えないように意識したとしても無駄に考えてしまう。


だから私は余計なことを考えないように頭を切り替えることにした。


「〈ところで、越境のルートを知りたいのだけど。地図とかある?〉」

「〈古いのでよければあるぞ。確か、この辺に……〉」


そう言って引っ張り出してきたのは変色しボロボロになった古い地図だった。


「〈多少、地形の変化はあるものの、そこまで様変わりはしていないはずじゃ。まぁ、天候にもよるとは思うがのう〉」


(いくつか川があって、山があって、その周りに街やら村やらが点在しているといったところかしら)


ショートカットしたとしても最低5日くらいはかかるだろうか。メリッサの速度やヒューベルトの体調を考えるともっと延びるかもしれない。


どこかでちょこちょこ水や食料の補給もしつつも、なるべく街や村を回避して行くしかない。人目はなるべく避けるに越したことはないだろう。


先日流されてしまったせいで、棍も乙女の嗜みも全て流れてしまった。だから、もし多勢に無勢だったときや、突然のピンチには対応しきれない部分が出てくるかもしれない。


「〈これ、もらってもいい?〉」

「〈おぅおぅ、何でも使えるものは持って行け〉」

「〈ありがとう、そうさせてもらう。迷惑ついでにそれぞれの街の状況とか村の状況だとか、古い情報だとしても色々と欲しいのだけど〉」

「〈最近物忘れが酷いのだがのう。できるだけ思い出すようにするが、忘れておっても文句は言わんでくれよ?〉」

「〈それは、時と場合によるかもだけど〉」

「〈手厳しいやつよな。まぁ、命に関わることじゃし、なるべく思い出すことにしよう〉」


そう言って重い腰を上げた師匠は紙にずらずらっと覚え書きをし始める。それをぼんやり見ていると、「〈こんなん見ている暇があったらさっさとメリッサと組み手でもしてこい〉」と追い出されるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る