第5話 海賊

「どうなってるんですか!?」


慌てて甲板に出れば、船長が船尾で待っていると船員から言われて指示された船尾方向に出ると、既にいた船長が私達を待っていた。


「船長!どういうことですか!?」

「おぉ、来たか。……どうしたもこうしたもねぇよ。やっこさん、思いのほか手広く巡回していたようでな、この闇夜に紛れ込んでだいぶ距離を詰めてきやがっていたんだ」


言われて指差す方向を見れば、そこには結構な近さと速度でこちらを猛追している海賊船がいた。


帆も真っ黒で、灯りもほとんどなく、これをこの真っ暗な状況で見るのは困難だっただろう。逆に、こちらは煌々こうこうと灯りをつけていたから追尾するのも楽だったはずだ。


「これはマズいですね。このままだと追いつかれます」

「そうなんだよ。しかも厄介なことにこの先は海流が速いエリアに侵入することになる。あっちもその辺りは想定してるだろうから、攻めるとしたら一気にそこで畳み掛けてくるだろう」


海流を避ければ、海賊の餌食。逆に海賊の魂胆を回避して海流に突っ込めば、海の藻屑と化すかもしれない。


まさにピンポイントで攻められた状況。そして、想定外の大ピンチの状況だった。


(しまった、もっとちゃんと考えていればよかった)


思わず、苦虫を噛み潰したような表情になってしまう。自分の想定の甘さに苛立ったが、今はそれどころではなかったので気持ちを切り替えていく。


「船長としてはどうお考えで?」

「このままの速度だとどうやっても追いつかれる。待ち構えて対処するか、それともとにかく逃げ切るかの2択だな。ただし、逃げるからには海流に突っ込んでうまく舵取りしなきゃならんけどな」


この2択は非常に難しい選択だ。どちらにしてもかなりのリスクがある。だが、悩んでいる時間もなかった。


「ケリー様はどう思います?」

「私は船のことはよくわからない。だが、リスクを回避するならある程度人数を減らしておくのが優先ではないだろうか」

「そうなると、待ち構える……ですか」

「ヤバい、降り始めたか」


ぽつぽつぽつぽつ、と上空から大きな雨粒が降ってくる。先程から風もだんだんと強さを増し、先日の嵐とまではいかないが激しく波がうねっていた。


この天候と深夜の真っ暗で周りが見えない状況はマズいだろう。このまま海流に突っ込んだら、さらに危うい気がする。


あちら側としては慣れた海かもしれないが、こちらは海流も風を読みながら対処せねばならないのは非常に不利である。であれば、ここはもう覚悟を決めるしかなかった。


「仕方ありません。戦闘準備を整えましょう。それまでできるだけ逃げ切るよう操舵をお願いします。万が一でも逃げ切れたら御の字ですし、逃げ切れないにしろこの嵐であれば乗り込んでくるのも一苦労でしょう」


少しでもリスクを減らしたい。勝てる見込みを少しでも上げていきたい。


こんなところで終わるわけにはいかなかった。


「そうだな。じゃあ嬢ちゃんの案を起用しよう。ま、臨機応変には行くがな」

「よろしくお願いします」

「おうよ、任されたぜ。お前達ー!さっさと準備しろ!!全速前進、嵐を突っ切ってあいつらの船を振り切るぞ!!ついでに戦闘支度もしろーーー!いつ寝首かかれてもおかしくないからな!!」

「あいあいキャプテンーーーー!!」


船長が号令をかければ、テキパキと動き始める船員。さすがの動きだ、手慣れている。船長もピンチの状況だというのに焦った様子もなく、むしろ楽しんでいるようだ。


(やはり場数が多い分、心に余裕があるのだろうか)


「嬢ちゃん達もさっさと用意しろよ」

「はい!」

「リーシェ、ヒューベルト、行くぞ」

「「はい!!」」


私達も自室や武器庫に戻って戦闘準備を始める。服を着替え、あまり雨を吸って重くならない服に着替え、髪を邪魔にならないように結い上げた。


乙女の嗜みと棍を準備したあと、短剣などを仕込む。あまり身体が重くならず、でもいざというときに使えるものだけを準備しておく。


「こんなところで旅を終わらせるわけにはいかない」


自分に言い聞かせるように吐き出すと、ふん、と気合いを入れ準備を整えて、甲板へと向かうのだった。

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