マーラの物語13
真っ白い場所にブランシェ国王が佇んでいる。
「ブランシェ国王!」
ワタクシは先程の恐怖から必死に彼に駆け寄って彼の腕にしがみつくも、その腕を思い切り払われた。
「やめてよ、汚らわしい」
「ブランシェ、国王……?」
今まで見たこともない冷めた瞳で見下ろされる。まるで下賤な者を見るかのようなその姿に、胸がギュッと締め付けられたように痛くなった。
「キミみたいなワガママな子は勘弁だよ。自分のことしか考えられない、後先考えずに行動する人なんてまっぴらごめんさ。それに、僕はステラのことしか考えられない。キミのことなんて、そもそも眼中にないよ」
そう言う彼のそばには、いつのまにいたのかステラが親密そうにブランシェ国王にくっついていた。そして、愉悦を伴った笑みを浮かべている。
それを愛しそうに抱き寄せるブランシェ国王に、さらに激しく胸が痛む。息が苦しい。
「キミはただのステラの友人だ。それ以上もそれ以下でもない」
「ですって。マーラ様、申し訳ありません」
そういうと、目の前でゆっくりと口づけを始める2人。ワタクシは、見ていられなくて、苦しくて、勝手に涙がボロボロ流れた。
「いや、やめて……っ!」
ガタガタガタガタ……ガタンっ!
「はっ!……え、あれ……?ワタクシ、は……」
大きく身体が揺れたことで、覚醒する。
まだ頭は多少混乱しているが、先程のはどうやら夢らしい。そして見覚えない揺れと景色にゆっくりと見回せば、馬車の荷台に乗せられているようだった。
(一体どうなっているの……?)
腕も足もキツく縛られていて、転がった状態にされていて身動きが取れない。腕を動かそうにも、縛っている紐が擦れて、痛みが走った。
転がされて乗せられているため、ダイレクトに衝撃が伝わり、振動に合わせて身体が跳ねたり動いたりして非常につらかったが、どうすることもできなかった。
(どうして、こんなことに……)
ステラのヘナタトゥーをして、その後会場へと向かおうとしていただけなのに。ワタクシはこのまま殺されて死ぬのかしら。
不安で胸が押し潰されそうになる。まだ15年しか生きてないし、まだ誰とも結婚もしてなければ、知りたいこと、やりたいことだってたくさんあるというのに。
カジェに戻ったら、両親に謝って、アーシャ様に謝って、カルーに謝って、それから侍女にも謝って。
ワガママなんかしないで、自分でできることはして、素敵な女性になって、それからそれから……
勝手に涙が溢れてくる。
死ぬ前に願いが叶うなら、ブランシェ国王にせめてちゃんと想いを伝えたい。
何もしないまま、誰にも謝ったり感謝したりできないまま、死にたくない。
「こんなとこで死にたくない……っ!」
ガガガガガガ……!!!
「きゃあ!!!」
急ブレーキで勢いよく身体が吹っ飛ぶ。ゴロゴロと狭い荷台を転がり、色々な荷物にぶつかってどこもかしこも痛かった。
「【くそっ!もう追手が来やがった!】」
「【どういうことだ、こんな早くにバレるだなんて聞いてないぞ!!】」
何やら前方が騒がしい。
今は逃げるチャンスだ、と思うが、身動きのできない身体ではどうしようもなかった。
(何もできない自分が恨めしい。……いや、何もできなくはない。何かできなくてもしなくては……っ)
ピンチでも進んで何か行動をしていたステラを思い出す。何もできないなんてことはない。何かやれば変わることもあるはず。
何もできないまま死ぬなんてごめんだ!
(今のワタクシにだって、できることはあるはずだわ……っ!)
必死に、ジリジリと芋虫のように床を這うように動く。進むスピードはとても遅いが、着実に前に進んでいった。
(もうすぐ、出られる……!)
荷台から思いきって飛び降りる。
「痛……っ!」
受け身はもちろん取ることができずに、肩から着地して思いきり顔を打つ。痛い。痛くて涙で視界が滲むが、それでも必死に動こうともがき続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます