マーラの物語12
そんなワタクシの様子に気づいているのかいないのか、ジッとワタクシを舐めるように見始めるステラ。この人は本当に読めない人である。
「そういえば、言いそびれてましたが、その衣装お綺麗ですね。マーラ様にとてもお似合いです」
言われて、言葉が詰まる。これは一体、なんて返すのが正解なのかしら。ブランシェ国王からいただいたものだと伝えたら、さすがのステラも気分を悪くするかしら、とちょっと悩む。
沈黙してても仕方ないので、とりあえず「え……あぁ、そうですわね。ありがたい、ことですわね……」辿々しく答えるだけで精一杯だった。
その後も質問攻めにあい、思いのほかワタクシとブランシェ国王とのことを気にしてるようなそぶりを見せるステラ。
それがちょっと嬉しくもあったが、あまり詮索されたらボロが出てしまうのはわかっていたので、どうにか話をそらす。
だが、何を考えているのか、やけにニヤニヤとこちらを見てくるのにはどうにも腹が立ったのはワタクシだけでなく、皆あの顔を向けられたらそう感じるであろう。
(一体、何を考えているのかしら)
これから結婚する相手のことを話題にして、それで戸惑っているワタクシを見てニヤニヤする。
ここだけ聞いたら、ステラはどれほど下賤で悪辣な人物だと思われるだろうが、どうにも本人を見てるとなんだかそうも言い切れないのが不思議である。
とりあえず、絵に集中せねばとステラの相手はそこそこに、筆を滑らせることに集中することにした。
絵を描くのも楽しいが、案外こうして人に装飾を施すのも楽しい。カジェにいたときは化粧はされてばかりだったが、人にするのも楽しいかもしれない。
(それにしても、ステラはされてくすぐったくないのかしら)
ずっと同じ体勢でいるのはつらいだろうと思うが、ステラはそんな様子をおくびにも出さずに、ずっとワタクシや他の方々が描き終わるのをずっと待っている。
自分がカジェにいたときは「早く終わらせて」「いつまでやっているの」と侍女をよく急かしていたが、こうしてみると理不尽なことを要求していたのがよくわかった。
(本当、ワタクシは自分のことばかり。ステラのこういうところを見習わないといけないのかもしれないですわね)
ブランシェ国王も、きっとワガママな娘より、ステラのような分別がある女性が好きなのだろう。であれば、ワタクシもそのような女性を目指さなくては。
例え、ブランシェ国王とは結ばれなくても、他の誰かと結ばれるようにはなるはずだから。
「ふぅ、終わりましたわ」
「ありがとうございます。どれもこれもとても美しいです」
「お、お世辞は結構ですわよ! 乾くまでは放っておいてとのことですので、触らないでくださいな」
「はい、わかりました。大人しく待ってます」
ワタクシよりも年上なはずなのに、とても無邪気な人だと思う。普段は大人びているのに、こういう素の部分ではどこか年相応というか、それ以上に若さを感じた。
本当のステラはどちらなのだろう、と考えながら、手についてしまったヘナを拭い落としておく。
「では、ワタクシはこれで。結婚式、楽しみにしておりますわ」
「ありがとうございます、マーラ様」
自分でも、本音で言ってるのか建前で言ってるのかよくわからなかった。
でも、ブランシェ国王も好きだが、ステラのことも程々には好きである。だから、2人が幸せになるのであれば、それはそれでいいとも思うが、やっぱり心のどこかではそれを否定する自分がいた。
(恋ってこんなに苦しいものだったのね……)
初めて味わう感情。今まで与えられたものを、ただ受け入れるだけの自分にはないものだった。
(好きになるというのは、幸せなことだけじゃないのね)
ただ結婚し、幸せに暮らすことだけを夢見ていたが、現実はそんな簡単なものではないと実感していたその時だった。
「……っ!んぅ、……っぅうううう!!!!」
突然、真っ暗となる視界。そして、大きな手で塞がれる口。
何が起こっているかもわからず、ジタバタと暴れれば「【静かにしろ!】」と首を絞められる。
「ううううぅうううぅう……っ!!……ふ、っ!!」
「【暴れると、今すぐ殺すはめになるぞ】」
息が苦しい。このまま、本当に死ぬのではないかと思った。
「【こら、殺すんじゃない!こいつは生かしておくようにとの命令だっただろ】」
「【あ、あぁ、そうだったな……。ついカッときちまって……】」
ふっと首から手を離されるも、意識が遠のいていく。
(あぁ、ワタクシ……どう……ブランシェ国王……)
そのまま、ワタクシの意識は消えてしまった。
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