マーラの物語11
「いよいよ、明日は結婚式ですわね」
「そうだね。あぁ、今夜にはキミの部屋に先日仕立ててもらった服を届けさせたよ。色、僕の見立てた色にしてくれたんだって?この前は急用が入ってしまって最後まで見れなかったから、マーラに仕立てた服がどんなものか楽しみだよ」
仕立てた日、あの白のバリエーションを見せられたあと、彼はワタクシに似合う白を選定している途中で兵から城に呼ばれて行ってしまったのだ。
店員からどの色にするか、と訊ねられたとき真っ先に彼が選んでくれた白を所望したのだが、いつの間にかその話が本人にいっていたらしい。
なんとなく恥ずかしく思いながらも、自分のために選んでくれたのだから恥ずかしく思う必要はないわよね、と自らに言い聞かせる。
「あのパールホワイトは、真珠のように光沢のある白でね。特にあの生地との相性がとてもよくて、きっといい色が出てるはずだから楽しみにしててくれ」
「ありがとうございます」
「マーラが着たらどれほどキミの美しさが際立つか、明日がとても楽しみだ」
(そんなこと、おっしゃらないで)
口には出したいけど言えない言葉。そして、ゆっくり息を吐いて、勘違いしてしまいそうになる自分をグッと堪える。
「ぜひ、着こなせてみせますわ」
自信たっぷりと
◇
「なんてまぁ、本当に美しい……!」
想像以上の出来栄えに、思わず感嘆の声が漏れる。
パールホワイトに染色され、至るところに金できめ細やかな刺繍が施されている。まるで芸術のようなそれに、本当にワタクシがこれを着てよいのか不安にさえなるほどの仕立て具合だった。
さすが、国王御用達の仕立て店である。
そして、これを自分が着れるのだと思うと、嬉しさで胸が張り裂けそうになる。
しかも、ブランシェ国王からのプレゼントだ。これで、喜ぶなというのが無理であった。
(ワタクシのために選んだワタクシだけのもの)
その事実に、口元が緩む。幸せで死んでしまいそうだった。
(いけないいけない。これを着たら、ステラのところに行かないとだわ)
今日は彼女の結婚式。そして、その晴れ舞台の化粧をワタクシが施す。
胸が痛まない、と言ったら嘘になるが、それでも自分の役目はきちんと果たそうと、早速服に腕を通すのだった。
「【お願いします……って、マーラ様!?】」
相変わらずの反応だが、気を緩むと口元が緩んでしまうので、グッと口元を引き結ぶ。そして、やはりこれから結婚式をするという余裕、羨ましさから、「いたら悪いですか?」と可愛げない言葉を言ってしまう。
(あぁ、こういう可愛げのないところがダメなのよ、ワタクシ……っ!)
そうは思っても素直になれない愚かな自分。だが、さしてステラは気にしてないようで、絵が描けるの凄い、と褒めてくれる。
実際、絵は好きだった。
幼少期から様々な色を目にしているからか、絵を描き、色を塗り、自らが描いたものが形になることがとても好きだ。
こうして筆を身体に走らせるというのは不思議な感覚だが、実際にやってみると面白い。
時々、ステラが気を遣ってくれてるのか話しかけてくるのだが、不意にブランシェ国王の名が出て思わず筆があらぬ方向へといく。
「ななななな何ですか、突然。藪から棒に……!」
自分でも動揺しているのがわかる。まさかステラから指摘されるなんて思わず、普段のワタクシ達のことでも見られたのかと焦る。
でも、よくよく話を聞くとブランシェ国王との会話内容から推察したようで、そっと胸を撫で下ろす。
ステラは変に聡いところがあるから、下手にワタクシの気持ちを知られて今後の挙式に影響が出ないようにと必死に隠そうとするのだが、ステラはワタクシのことなど眼中にないのか、あまり追及はされなくてホッとする。
それはそれでちょっとモヤモヤする、と我ながら勝手だと思う。でも、ワタクシなんてブランシェ国王の相手が務まらないとでも思っているのかと、どんどん悪い方向に考え、勝手に気落ちしてしまう。
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