マーラの物語4
「無茶はしちゃダメって言ったわよね?」
「申し訳、ありません」
今ワタクシはアーシャ様に怒られている。
というのも、うっかり昨夜どうしても話の続きが読みたいと図書館に忍び込み、ついでに新たな言語の書物も読もうと図書館内をコソコソと歩いていた。
すると、たまたま近くを通った衛兵に何か物音がすると気づかれてしまい、慌てて隠れたのはいいがなかなか出るに出られず。そして、あろうことかそのまま寝てしまって図書館内で一夜を過ごしてしまったのだ。
ということで、侍女は朝ワタクシがいないことに驚き、そしてそれはすぐさま報告されてしまった。もちろん母にも知られてしまい、結局大捜索をされて、図書館ですやすや寝ているところを捕獲され、今に至っている。
一応、アーシャ様がワタクシに本を探させてたと母をとりなしてくれたものの、母は相当な怒りようだったようだ。
アーシャ様に「こんな時間に年頃の娘を呼びつけるなんてどういう神経してるのかしら?それとも、お年を召してから人に物を頼んだことも忘れてしまったとか?年を重ねると物忘れも酷くなると言いますしねぇ」と喧嘩を吹っかけたらしい。
アーシャ様はにっこりとあの真っ黒い笑みを浮かべて「その程度の嫌味しか言えないなんて、残念ね」とさらに母の怒りに油を注いだらしく、それはそれは城内大騒ぎだったとか。
ワタクシもあとで母と対面するのが億劫だが、それよりもまず目の前のアーシャ様である。
「知識欲も結構だけど、時と場合を考えなさい。まして夜に出歩くなんて」
「申し訳ないです」
「そもそも、どうして夜中に出歩いたりなんてしたの?」
「どうしても続きが、読みたくなってしまって……」
素直に白状すれば、「はぁ」と大きな溜め息をつかれたあと「本当、こういうところはステラに似てるんだから……」と小さく溢している。
「あの、聞き取れなかったのですが……」
「あぁ、今のは独り言。こっちの話だから気にしないでちょうだい。でも、とにかく今後はあのようなことは控えてね。今回まではどうにか庇えるけど、これ以上は厳しいわよ」
「はい」
「あの人のことだもの、きっと縛りがキツくなるだろうから、それは覚悟しておいてね」
あの人、……多分母のことだろう。
アーシャ様と母は昔から仲が悪いらしい、と以前から侍女達から聞いている。
実際、母から「あの年増の若作りが」と悪口を言っているのは聞いたことがあるし、ずっと母から悪いイメージを聞かされていたのでワタクシもそのようなイメージだった。
だが、話してみたらそんなことはなく、色々物分かりはいい人で、優しくまるで聖母のような方というイメージに180度変わった。
「あの、アーシャ様はどうして母と仲違いをしているのでしょうか?」
不躾かもしれないが、どうしても聞きたくなってしまってつい口から溢れ出る。すると、アーシャ様はその質問に怒るでもなく、咎めるでもなく、苦笑しながら「さぁ?」と答えた。
「私もよくわからないのよ。昔から……叔父貴と結婚するときからなぜだか目の敵にされていてね。正直、私が知りたいくらいだわ」
そう言われて、なんだか少し恥ずかしくなる。まさか一方的に母が喧嘩を売っていたとは思わず、上手い返しが出てこなかった。
「え……っと……」
「いいのよ、気にしないで。私、悪意を向けられるのには慣れているから」
「あ、でも……ワタクシは、アーシャ様のこと大好きですからっ!」
とりあえず、母はともかく自分はアーシャ様が好きだと伝えたかったのだが、なんだか告白のようになってしまった。
アーシャ様は最初、珍しく鳩が豆食ったような顔をしたあと、「くく……っあははは」と大きな声で笑い出した。
「あの、アーシャ様?」
「どうもありがとう。貴女ってあの人……いえ、お母様にそっくりなのに、性格は全然違うのね」
「あの、それはどういう?」
「いいのいいの。いやぁ、久々に笑わせてもらったわ。ふふ、あの人の顔で大好き、ね。ふふふ……、あ、今言ったこと貴女のお母様には内緒よ?きっとまた怒り狂うでしょうから」
母に似たワタクシがアーシャ様が好きだと言ったのが、そんなに面白かったのだろうか。
自分ではあまり理解できなかったものの、アーシャ様が笑ってくれたことを嬉しく思いながら母には絶対秘密にしなくては、と心に誓ったのだった。
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