第86話 傷だらけ

「マーラ様!」


城内へと戻れば、こちらもボロボロになったマーラがブランシェに抱えられていた。せっかくの衣装は泥汚れだろうか、見るも無残に汚れていて、顔も私ほどではないだろうが多少の傷が見受けられる。


そして一度酷く泣いたのだろうか、真っ赤に泣き腫らした目元が痛々しい。声をかけると私を認識したようで、「ステ、……ラ……っ!?」とこちらを見ると、私の名を呼びながらギョッとした表情をしていた。


「どうしたんですの!その身体!!」

「いや、マーラ様に言われたくないですけど」

「いえ!絶対にワタクシよりもボロボロですわよ!!てか、血!出血が!!」

「ステラ、その、任せてしまった上にそのような状態というのは……」


マーラが錯乱している隣で、ブランシェが申し訳なさそうにこちらを見ていた。私がボロボロの状態というのは、すなわち自分の親がした仕打ちだと彼にはわかったのだろう。


「気にしないで。とりあえずこの件はあとで。前国王夫妻はどちらも拘束しているから、あとは任せるわ」

「あ、あぁ……すまない。マーラもステラもとりあえず医務室へと運ぼう」


それぞれ医務室につけば、私とマーラは隣同士のベッドに下ろされる。


ブランシェはマーラに話しかけたあと、私を見て「礼や謝罪はまた後ほど」と断りを入れるとすぐさまホールの方に向かったようだ。彼はこのあと事後処理があることだからとてつもなく忙しくなることだろう。


「ケリー様もどうもありがとうございました」

「……全く、いつも無茶ばかりして……」

「こういう性分なので。あとは、ほら。売れるものは売っておいたほうがいいじゃないですか?」

「というと?」

「恩」

「……そういうところは相変わらずだな」


そりゃ計算高くないとやっていけない。こうして恩を売ることで、彼らは我々コルジール国にお返ししなければいけない立場になったのだから。


国交する上で、有意に立てるものがあるとしたら積極的に利用し、根回ししておくことに越したことはないのだ。


「【では、殿方は退室されてください。これから治療をしますので】」

「ケリー様。ご退室してくださいって」

「……なぜだ?」

「治療するからですよ。私の裸、見る機会ですか?」

「い、いやいやいやいや!そういうつもりでは……!すぐさま部屋を出よう。またあとでな」


そう言って、そそくさと退室するクエリーシェルを見送る。彼の行動にいつの間にか緩んでたらしい表情に気付いて、口元に手をやれば、隣から突き刺さるような視線を向けられていることに気付いてそちらを向いた。


「どうかされました?」

「……どうもこうも……、随分とクエリーシェル様と仲がよろしいのではなくって?」


指摘されて初めて、マーラの前でこうしてやり取りをしていたことに気づく。


そういえば、彼女の気持ちの手前、わざとクエリーシェルとの接触は避けていたのだが、疲労等々で思考が鈍っていたせいもあって彼女の存在を忘れて普通に接してしまっていた。


「あはは、それは……えーっと……」

「誤魔化さなくても結構ですわよ。白々しいですわね。ワタクシのことからかっていらっしゃったの?」

「い、いえ!そんなつもりは全くなかったんですけど、言い出せませんで……すみません」

「……そんなボロボロの状態で謝られたら、怒るにも怒れませんわよ。早く治してもらってくださいな」

「申し訳ないです」

「【おしゃべりは結構ですけど、治療にあたりますのでその辺で】」

「【す、す、す、すみません……っ!】」


治癒師の人にピシャリと言われてしまって、慌てて謝る。


その後、顔にめり込んだ宝石やら石粒やらを除去され、清められたあと、大袈裟なくらいに全身グルグル巻きにされたあと「絶対に、動かないでくださいね」と強めに釘を刺されるのであった。

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