第75話 婚礼準備
マーラを見送ったあと、婚礼用のドレスに着替える。
以前カジェ国で着たドレスよりも派手さはないものの、とても発色のよい色味で肌触りもとても良かった。
確かに、これほどの染色技術があれば、他国からも所望されること間違いなしだ。今回は擬似だし諸々の訳ありだから国内のみの催しに留めているが、このような結婚式を対外的にやるとさらに効果が出ることだろう。
その後、こちらの婚礼用のメイクを施される。カジェ国と同じ……いや、それよりもさらに華美で、目元や口元などの細部までメイクだけでなく装飾をされた。
(顔に宝石を貼るって、初めての経験だわ)
自分の顔が一体どうなっているのか。好奇心のまま、見たいような見たくないような複雑な気持ちだ。……まぁ、さすがに酷くはなってないとは思うが、あくまで希望的観測である。
「【さすがですわ、ステラ様。とてもお美しくていらっしゃいます】」
「【陛下もさぞお喜びになられますでしょう】」
「【どうもありがとうございます】」
(凄い、顔……)
見せられた鏡に写る自身は、もはや別人というか自分というのを認識するのが困難なくらいの仕上がりになっていた。
ほぼメイクで埋め尽くされていて、元の顔がどうだったか忘れてしまいそうなほどの仕上がりであった。
そして、侍女達から手放しで褒められるのがなんだかむず痒い。というか、居た堪れない。
早くこれは擬似結婚式だと打ち明けたいが、そのためにも早く前国王夫妻の本性を早く白日の下にと晒さねばならぬが。
(さて、どう出てくるかしら)
先日に一度襲撃があっただけで、結局この日を迎えてしまったが、今日も今日とて何もない。風呂の時やヘナタトゥーの際は無防備になるため、用心していたというのについぞ何もなかった。
ちょっと拍子抜けである。
まぁ、一応ブランシェが最高の体制管理をしてくれているというのももちろんあるが、それにしてもだ。
(諦めた、ということかしら)
こちらとしてはそれはそれでありがたいが、かと言って、そうなった場合はこの擬似結婚式はどうなるのだろうか。実は……ってネタバレするタイミングを考えると少々頭が痛い。
これで何事もなく無事に終えたら、さすがにちょっと赤面どころじゃ済まされない。
(そういえば、そういうことについては何も考えてなかった……!!)
有事があることばかり考えていたが、そうかそういう場合もあったか、と今更ながら原点とも言える部分を思い出し、頭を抱える。
(何もないことが望ましいけど、なかったらなかったで大変だなんて……!)
この二律背反で頭を悩ませつつも、時は残酷にも過ぎていく。
「【ではステラ様、こちらへ。陛下がお待ちです】」
「【ありがとうございます】」
本来なら式前に花嫁と花婿が対面するなど御法度だが、今回は打ち合わせをするためにイレギュラーなスケジュールである。
もちろん、根回しは抜かりなく、侍女達や従者達にも今回だけの例外だと言い含めておいている。
「ステラ、か?」
「えぇ」
部屋に入るやいなや、凄い顔でまじまじと見られる。気まずい。
「見違えたな……」
「それはどうも」
「さすがにここまでやると変わるな」
「そりゃそうでしょ」
近くに来ると、前から後ろから、色々な角度から見られる。まるで、見世物にでもなっているようだ。
「……ブランシェ」
「あぁ、すまない。いやー、これからキミが僕の妃になると思うと……」
「ブランシェ……っ」
私がブランシェをグッと睨みつけると、わざとらしく肩を竦ませて見せ、人払いをする。
全く、時間がないというのに随分と余裕たっぷりである。
(ちょっと私、
あまりの余裕っぷりに心配になるが、人払いを済ませ、室内が静かになると部屋の中央部の椅子へと案内されるのであった。
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