第59話 危険因子
「あまり言いたくはなかったのだが、ゴードジューズ帝国の刺客が来るかもしれない、という話があってな。それもあって警戒していたのだ」
「刺客……?ちょっと、一体どういうことなの」
全く寝耳に水の話である。そもそも前国王夫妻以前の危険因子ではないか、と思わず食いつく。
「まだ確定した話ではないがな。我が国出身の軍師がゴードジューズ帝国にいるのは知っているな?」
「えぇ、聞いたわ」
「以前話したように、我が国の人々は知恵を絞ることで苦難を乗り越えてきたが、それぞれ向き不向きがあってな。我が国は基本戦争などはしない、というかそもそも戦争するほどの余力がなかった。だから、戦術に長けた能力を持ち合わせている者は、ゴードジューズ帝国やブライエ国などに行き、外貨を稼いできてもらっていた」
確かに、自国で稼げるにも限度がある。そして、それぞれ人によって適性が異なっているのも理解できる。
「なるほど。それで?」
「……最近バレス皇帝が倒れたのは聞いたか?」
「えぇ、カジェ国で聞いたけど」
やはり「バレス皇帝が倒れた」というのは秘匿にされているとはいえ、それなりに情報が出回っているのだろう。
内部抗争だけでなく、他国からの侵略も考えると国が転覆するかもしれない話だ。あちらはあちらで、色々と必死なのかもしれない。
こちらとしては好都合な話ではあるが、そう簡単にはことは進まないであろう。
「そのせいで内部でゴタついているのだが、それに我が国の軍師が絡んでるのではないかと疑惑を持たれているのだ」
「疑惑……?」
「毒を盛ったのではないか、とかそういう
確かに、他国からの徴用となれば疑いをかけられるのは仕方のないことだとは思う。特にこの非常事態。周りが疑心暗鬼になるのも無理はない。
「ちなみに、実際にそういうことをしでかそうとするとは考えられる?」
「はは、ないない。国柄……国民性としてないな。きっと彼らもあらぬ疑惑をかけられて縮こまっていることだろうよ。まぁ、実際にどうにかできるならしてもらいたい気持ちはあるがな。ずっと睨まれた状態では、こちらも気が気じゃない」
実際、今は協力国として優遇されている立場かもしれない。だが、バレス皇帝は人一倍慎重な人物だと聞く。リスクはなるべく減らしたいと考えているはずだ。
「それで、念のためのあの包囲網?」
「あぁ、いつ密偵を使って我々を探りにくるかわからないからな。探られて痛い腹はないものの、難癖をつけられる可能性もなくはない。あと、下手に両し……前国王夫妻に会われて変な入れ知恵されても困る」
色々と悪条件が重なってのセキュリティ強化、ということか。捕まった立場から言うととんでもない話ではあるが、国を守る者として理解できなくはない行動である。
このサハリ国は基本的に海からしか入れないし、いざ何かゴタゴタを起こしたとしても海難事故として処理できるところも強みであるだろう。
ただ、海から一気に攻撃されてしまうとなし崩しになってしまうことが弱みでもある。立ち回りによっては、我が国ペンテレアの二の舞になることもあり得るだろう。
「でも、それならなおさら私があまりここに長居するのはまずくないの?そもそも結婚なんかしたらのらりくらりと躱すどころか、この国は一斉攻撃されておしまいでしょう」
「まぁ、そこは否定できないな。あちらは基本的に人の話を聞かないからな。だが、ここの文化でヒジャブがあるし、女性はあまり前に出ないことが多いから隠すことはできなくないよ。……強いて言えば、その美しい魔法の瞳と言われている翡翠の眼を誤魔化すのが難しいかもしれないがね」
言いながら前髪を掻き分けられて、思わずパシッと手をはたく。
「だからすぐ触らないで、って!」
「はは、ついな。ところで、今日はここで一緒に寝るかい?」
「寝ないわよ!」
(本当に気が抜けないわ)
余計に疲れた、と思いながら「もう用事がないなら部屋に戻るわよ」とブランシェの言葉も聞かずに、私はそそくさと部屋へと戻るのだった。
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