第20話 謝罪

「で、盗っ人が紛れ込んでいたと」


ある程度はクエリーシェルとヒューベルトが話しておいてくれたようなので、だいぶ話がスムーズに進んで良かったとホッとする。だが、ホッとしたのも束の間、隣にいた彼女が食ってかかる。


「ぬ、盗っ人とは失礼……っぐふ!」

「えぇ。ですが、一応彼女はカジェ国の皇女ですので、それなりに丁重に扱っていただければと」

「丁重ってたってなぁ。はぁ、面倒なことになってきやがったぜ」

「えぇ、本当にもう、そこは返す言葉がありません」


騒ぎ出すマーラの口を慌てて塞ぐ。相変わらず自分の立ち位置がわかっていないようで、思わず私もヒヤヒヤする。口を押さえられたことへの抗議を未だに手の平に向けて吐いているが、とりあえずそのまま押さえておいた。


はぁ、と盛大な溜息をつきながら頭をガシガシと掻く船長。彼がボヤくのも無理はない。そもそも長旅で他国巡り。元々難題だというのに、さらなる難題が降りかかった感じだ。


「何か変更とかは?」

「いえ、特には。このままサハリに向かっていただければと」

「おっし、了解だ。あ、嬢ちゃん。さすがに料理長には謝っておけよ。嬢ちゃんのせいで、食糧不足だってあいつ嘆いているから」

「な、何でワタクシが……!そもそもあの食糧は我が国……ぶふっ」


すぐさま口を覆う。本当に口が減らない娘である。


「すぐに謝罪に向かいます。とりあえず部屋は私と同室ということでよろしいでしょうか?」

「あぁ、そうしてくれ。あと、あまり夜にフラフラすんじゃねぇぞ?そろそろ奴らも溜まってくる頃だろうから」

「はい、気をつけます」


頭を下げて、船長室を出る。他の乗組員には船長から伝えてくれるとのことで、とりあえずホッとである。


「ワタクシ、謝りませんわよ!?」

「謝らないと、貴女が食卓に出される可能性もありますよ?」

「は?何を言って……」

「ですから、ここは船上。コルジール国の船の上です。マーラ様の常識もルールも通用しません。ですから生かすも殺すも私達次第ということなのですよ?賢い貴女様なら、その辺りいい加減おわかりになりませんか?」


努めて、冷静に言ったつもりだ。実際、彼女が理解しようがしまいがこの事実は変わらない。いくら友好国とは言えど、見知らぬ船に乗ることは自殺行為である。それをある程度は身をもって感じてもらわねばならない。


無駄に反抗したところで、自分の立場がよくなることはない。彼女はそういう社会経験に乏しいようだから、いっそこの際今後の旅路のためにもそれなりの社会的常識等々も身につけてもらわなければ。


「わ、わかりましたわよ。行けばいいんでしょう!?行けば!!」

「えぇ、物分かりがよろしくて助かります。あと、船上には現在私しか女性がおりませぬから、諸々油断なさいませぬよう」

「え、何でですの?」


素直になぜかわからない、と言った様子でこちらを見るマーラ。純粋かつ無知なのだろう。きっと今までそれはそれは大事に扱われて、そう言った負の部分は秘匿されてきたのだろう。


だが、それは今この状況では悪手でしかない。彼女がある程度自衛をしなければ、この狭い船上だ。不用意な火種が発することになる。


「見知らぬ男性にご無体にされたくはないでしょう?」

「む、無体……?」

「とにかく、ここではマーラ様の常識はあまり通用しませんのでそのつもりで。あと、私の言うことはしっかりと聞いていただきます。一応私は今回のこの船での指揮も一任されれる立場ですので」

「本当、ステラって何者なのよ……」


顔を引き攣らせているマーラににっこりと微笑むと、そのまま食堂室へと向かうのだった。

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