第49話 対策について

「ルートはこの沖合をぐるっと回って、一度この海域に出てから」

「それ遠回りじゃないの?」

「この辺りは潮の流れが速いのよ。だから、あまり近道はオススメしないわ」

「なるほど」


地図とにらめっこしながら、船での進行ルートを考える。幼い頃はただ船に乗っていれば良かったのだが、今回はそうはいかないため、色々と頭に叩き込む。


「ここの海域に海賊が出没するところがあるわ。多分、この辺りに隠れ島でもあるのでしょうね」

「なるべく近づかないように心掛けるわ」

「そうしてちょうだい」


(海賊かぁ)


結構船旅に関してよくする方だったとは自負しているが、実は海賊に関してはあまり遭遇したことはなかった。


以前幼少期に会ったときはほぼ遠方からの攻撃でどうにか撃退できたから、乗り込まれたことはなかったのだが、それはあくまでペンテレアの船の性能や乗組員の操舵の腕前などが良かったからだ。


ペンテレアは多くの諸外国から国の先行きを占うためによく出向くことが多かったのだが、そのおかげで船は最新式の装備であった。


各国も自ら出向くよりかは来てもらう方が都合が良かったので、船の装備に関してはそれぞれの国の最新技術を提供してもらえていた。


だが、今回は違う。元々不慣れな船旅などあまりしないコルジールの船だ、ペンテレアのようにはいかない。そのため、細心の注意を払わねばならなかった。


(一応火薬や弓やらは積んではいるけど、問題は乗り込まれてきたときよね)


乗組員達はわかってはいるだろうが、船での戦闘は難しい。何より船を維持しなければならないし、船に気を配りすぎて自分達がやられてしまっては元も子もない。


それに船での戦闘は相手の方がどう考えても上手うわてであろう。しかも相手は積荷や金品、船を強奪できればいいのだし、取れなきゃ取れないで撤退すればいい。


守るものがないもののほうが無鉄砲である、つまりどんな攻撃をどんな犠牲をも厭わないということだ。それは非常に大きな脅威であった。


(海賊対策が目下の課題、ってとこかしら)


となると、複数相手にする技をしっかりと身につけなくてはならない。私の棍は1人1人で戦うからこそ発揮するものだ。なので、複数人相手となると威力は半減する。


いくらどうにも鍛えようとも、力では男性に勝てない。そうなると、別の部分、頭を使うことといかに自分の身軽さを武器にするかに焦点を当てて考えなければならない。


(大剣持つよりかは短剣よね、私が扱うには)


剣術は教わったものの、複数人相手で大剣を振り回すことなど恐らく不可能だろう。とくに船上という限られた範囲で戦わねばならない場合は。


(下手なことをして身内を切っても大惨事だ)


そうなると、必然的に使用するのは短剣一択だ。特に間合いを詰めて相手の懐に入りながら適度に距離感を調整するにはもってこいであるし、短剣だけでなく格闘術も合わせればそれなりにはなることだろう。


(師匠がまだご存命であれば、ご教示いただきたいが)


のらりくらりと生きていたあの師匠のことだ、生きてても死んでても、どちらでもおかしくはない。気功を教わったのだって、そもそもただの彼の気まぐれだ。というか、しきりに私がせがんだのだったっけ。


過去の記憶を思い起こす。


当時私はまだ年齢が6つとかで、生意気盛りであったことを思い出す。そして、生意気なことを言ってとてもしごかれていたような……。


(ヤバい。ここのところ黒歴史の発掘三昧だ)


思い出してしまったことを後悔するような愚行の数々に、つい頭を抱えたくなる。


(会ったら謝ろう。うん、会えたらいいな)


「痛っ……っ!」


思いきり頭を叩かれて、回顧から我に還れば、非常に憤った顔をしたアーシャが私の顔を覗き込んでいた。


「こら、ぼんやりしてない!全く、すぐどっかにトリップするんだから」

「人を危ないやつみたいに言わないでよ」


頭を摩りながら抗議すれば、再びキッと睨まれる。


「十分ヤバいやつよ。大事な話、しかもこんな美しくて聡明な王妃の私の話を聞かないだなんて、あんたくらいよ」

「……自分で言うか、普通」

「聞こえてるわよ!」


またしても脱線しながら、その日はどうにか船の新たな積荷についてや日程などを話し合うのだった。

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