第33話 変装

翌日、早朝より起きて侍女達を待っていると、わらわらわらわらと一体何人部屋に入って来るんだ?というくらい、侍女達がやってくる。


そして、私とクエリーシェルはそれぞれ別室に追いやられると、また身包みを剥がされ、あれよあれよと言う間に着替えやら化粧やらを施される。


「誰……?」


ぞろぞろと撤収する侍女を見送り、部屋に備えつけの鏡で自身を映せば、そこには見たことないほどハッキリした顔立ちの娘が立っていた。


黒髪のウィッグに濃いめの化粧で目元がキリリとキツめの猫目になっており、普段の自分の顔からは想像できないほどの出来になっている。


服も極彩色で、先日着なかった赤や紫、黄色系統をこれでもかとあしらわれ、さらにジャラジャラと装飾具までつけられて、慣れないものばかりで多少の頭痛さえ感じた。


「り、リーシェか……?」

「はい。そうです、って……え!ケリー様!!??」


背後から声をかけられて振り向けば、そこにはクエリーシェルらしき大柄な男性がそこにいた。……ただし見た目は普段とは全く違うが。


髪は恐らく切ったわけでなくウィッグだろうが、黒髪ではあるものの短いし、肌は何か塗られたのか褐色に。服もこちらの民族衣装であるクルタと呼ばれる白い服を着ている。


「凄い変身ぶりですね!誰だかわかりませんでした!!」

「リーシェも、間違えて別の人に声をかけたかと思ったぞ」


お互い、いつもと違う姿にしげしげと見合う。普段もカッコいいとはもちろん思うが、これはこれで何というか、……とてもいい。


クエリーシェルの短髪で褐色の肌など見たことがなかったが、案外顔立ちが整っていることもあって、サマになっている。


しかも身長が大きいぶん服も映え、服の白がコントラストになっていて身体つきの良さが前面に出ていて、贔屓目なしにカッコいい。


思わずぼんやりと見つめてしまうくらいには、私としては好みにドンピシャである。


アーシャとこう言った男性の好みなど話したことはないはずなのだが、狙ってもしこの格好をクエリーシェルにさせているのなら、ある意味恐ろしい。


「素敵です、ケリー様」

「そ、そうか?そう言われると少し照れるが、リーシェも普段と違って大人びているように見えるぞ」


何だかそう言われると気恥ずかしくて照れていると、クエリーシェルも同様に照れている。以前なら社交辞令だと適当にあしらうことが多かったが、こうして好意がある相手だと感じ方が違うと改めて思う。


(褒められると嬉しいというのは、悪い感情ではないわよね)


「では、早速参りましょうか?」

「ん?食事は?」

「本日の朝食は外で。メイン通りの市場には露店がいくつかあるので、買い食いという感じです。あ、お金はアーシャから用意されているので、問題ないですよ」

「至れり尽くせりだな」


感心するクエリーシェルの腕を掴む。そして、「せっかくの計らいですから、今日は楽しみましょう?」と彼の腕に自らの腕を巻きつける。


(何だか、変装のおかげで普段の私ではできないことができる気がする)


こうして甘えることなどほぼないが、普段とは違った見た目な分、ちょっと大胆なことができる自分に気づく。


彼にこんなにくっつくなど、人目がなくたって遠慮していたのに、先日女性に囲まれていたりマーラにひっついていたりしていたのが自分の中でどうも燻っていたらしい。


意識してなかったつもりだが、やはり嫉妬があったのだろう。無意識に変装の開放感もあって彼にひっつくと、逞しい腕の筋肉が感じられてドキドキする。そしてそのまま腰に腕を回されると、なんだか頼もしく思えた。


(って、元々頼もしい人だとは思っているけど)


「……考えてみたら、これってデートですね」

「デート、か。そういえば、改まってするのは初めてかもな」


アルルが一緒とは言え、こうして2人きりで出かけても、視察だったり用足しだったりと遊ぶことメインで行動するのは、初めてな気がする。


そして、恋人みたいにお互いに意識してからこういうデートをするのは何だか気恥ずかしいけど、嬉しくもあった。


「今日はよろしくお願いしますね」

「あぁ、こちらこそ。よろしく頼む」


顔を見合わせるとお互い真っ赤で、笑い合う。


相変わらず恋愛初心者だなぁ、と思いつつも人のことを言えないので、今日は初デートを楽しもうと思いながら、アルルと待ち合わせの場所に向かうのだった。

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