第17話 寝入るメイドと困る領主
「ステラ……?」
目を閉じ、脱力している彼女を揺する。だが、一向に瞼が開く気配もなければ、寝息まで聞こえてくる始末だ。
(寝てる……)
この長旅の疲労とそれなりにストレスもあっただろう。そして、最後に夕飯もたくさん食べてゆっくりすれば、そりゃ眠たくなるのも頷けた。
(だが、困ったなぁ……)
出し物が終わった今、あとは充てがわれた部屋に寝に帰ればよいのだろうが、いかんせん場所がわからない。しかもリーシェが寝てしまった今、言葉の問題もある。
「もっとよく習っておくべきだったか……」
溜め息と共に小さく独り言ちる。
今更ながら、カジェ国語をもっと習っておくべきだったと後悔する。リーシェが「私が常にそばにいるから大丈夫です!」と言っていたのを鵜呑みにし過ぎた。
いや、十分一緒にいるし配慮はしてもらっているが、こんな年下の娘に色々世話をされてばかりじゃさすがに自分どうなんだ、とも思う。
(とりあえず、誰か呼ぶしかないか)
気持ち良さそうに寝ているリーシェの顔を見て微笑ましく思うと、つい口元が緩む。彼女の顔にかかっていた髪を払ったあと、自分に寄りかかっていたリーシェの身体をゆっくりと持ち上げる。
(相変わらず、軽いな)
まるで羽が生えているような軽さだ。本人も気にしているようだが、よくこのような小さく軽い身体で、メイド業だけでなく姫として国を背負うことができると、感心というか感服せざるを得ない。
そして、誰よりも何よりも頑張っていることを思うと、申し訳なくなってくる。
「(あら、お眠りになられたんですか?)」
「!!」
後ろから声をかけられて、思わずリーシェを抱えながら飛び上がる。ここの侍女はいつでもどこでも出てくるイメージがあるが、一体どうなっているのか不思議で仕方ない。
「えーっと……部屋を案内して欲しいとはどう言えばいいのだ……」
リーシェを抱きながら困惑していると、侍女が手の平を前に出して、何かジェスチャーしている。
(待っていろ、ということか?)
とりあえずそこで立ち尽くしていると、彼女はパタパタと駆け出していく。それをぼんやりと見つめながら、ふぅ、と息を吐いた。
(今日は色々なことがあった。というか、驚きの連続だった)
ぼんやり待ちながら、今日の出来事を振り返る。
リーシェはカジェ国の民族衣装を着て現れるし、食事もカジェ国の料理ももちろんだが、ペンテレア国の料理も思いのほか美味しくいただけた。
さらに、カジェ国では一般家庭では普段床で食事をするらしく、裸足で生活することや手で食事を食べることなど触れたことのない文化に、ただただ驚くばかりだった。
(裸足というのも、案外悪くないものだな)
全く異なる文化ではあるものの、これはこれで悪くないと思う。裸足は過ごしやすいし、服も着心地がよくて、なおかつ女性はとてもセクシーである。
リーシェの姿に思わず胸が高鳴ったなどと恥ずかしくて本人には言えなかったが、普段では見られない姿にときめいたのは事実だ。
薄手生地なため、寝息と共に胸部が上下しているのが見て取れる。香りもここの香油を使ってるのか甘くいい香りで、普段しないような化粧も普段の可愛らしい姿から想像できないほど煽情的だ。
実際に、誰にも見せたくないくらい美しい。
(明日のメンバーに見られずに済んで良かった)
お見合いのメンバーに見られたら、見合いどころではなかったはずだ。きっと、どうにかリーシェを妻にと躍起になったに違いない。
「あらあら、寝ちゃったの」
振り返ると、髪を下ろして少しラフな格好になった王妃だった。私にわかるようにか、コルジール語で話してくれている。
王妃はリーシェの寝顔を覗き込むと、ふふ、と何とも微笑ましそうに笑いながら彼女の頬を撫でた。
「こんばんは、王妃様。本日はどうもありがとうございます」
「こんばんは。えーっと……」
「クエリーシェル・ヴァンデッダと申します」
「そう、ではヴァンデッダさん。お部屋の案内をするわ。ついてきて」
そう言うやいなや、踵を返される。そのままスタスタ歩き始める王妃に、リーシェを抱え直しながら慌ててついていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます