第66話 鈍感姫

「リーシェ先生って国王陛下とご友人なんですか!?」

「え?」


王城を出て貴族御用達という店に着き、席に着くやいなや畳み掛けるように質問されて、思わず目を丸くする。


「いえ、友人とかそう言ったものではありませんが。私が居候させていただいているヴァンデッダ様が級友だそうで、時々お話させていただくんです」

「なるほど、そうなんですね」

「でも、国王陛下とああやってお話できるのすごいですー!」


(中身ちゃらんぽらんで、めんどくさがり屋だけどね)


国王のメンツのためにも、あえて口にしないが。


「ヴァンデッダ様って、あの侯爵で国軍総司令官のクエリーシェル・ヴァンデッダ様ですか?」

「えぇ、そうです」


そう聞いてくるのは子爵家の2男であるヒューベルト・ダントだ。彼は確か、軍に所属しているからクエリーシェルのことを知っていてもおかしくはない。


ニールとは違って、爽やかで凛々しい顔立ちのイケメンだ。


爵位持ちではあるものの、軍出身家系の子爵の2男という肩書きこそあまりよろしくないが、それ以外では背もあるし顔立ちもいいし、常に敬語で礼儀正しく人も悪くなさそうで特に問題なさそうなのだが、なぜこの婚活メンバーに入っているのだろう?と不思議ではある。


何かしらクエリーシェルのように問題を抱えているのか、はたまたニールのように同性が好きなのだろうか。


「ヴァンデッダ様をご存知ですか?」

「はい、以前ヴァンデッダ様の軍に所属していたことがありますので」

「そうなんですね」

「ですが、ヴァンデッダ様が誰かとご一緒に暮らしてるというのは意外です。普段はとても手厳しくて、優しいときは優しいのですが、大体距離をお取りになられる方だったので」

「そうですね、確かにちょっと人嫌いという気はありますね」


事実、そうである。過去のことと、見た目が災いして遠巻きにされることが多く、本人もそれを望んでいた。いや、望んでいたフリとも言うべきか。


本来の彼は、案外構ってほしがって甘えたがりだ。最近、想いを重ねてから余計にそう思うようになった。


(なんだかんだで、人目がないとすぐにいちゃついてくるし)


本当は満更でもないのだが、それでもやっぱり天邪鬼で難儀な性格なもので、羞恥心が優ってつい抵抗してしまう。


甘えようと思っても、なかなかどうにも簡単には性格は変えられなかった。


「ちなみに、リーシェ先生とその侯爵様とは何もないんですか?」

「……はい?」

「そうそう、リーシェさんはこのコルジールに語学留学されてるんですよね?」

「えぇ、まぁ」

「本当は、どなたか婚約者を探しにいらっしゃってるとかではないんですか?」

「えーっと……」


あまり男性からこのようにガンガン質問攻めにされることがないので、矢継ぎ早に話されて目を白黒させる。


ロゼットのときもそうだったが、そういう話は男女共に興味を唆られるらしく、性差はないらしい。


「あ、あの、今回のお茶会はカジェ国についてのお話だったのでは……?」


というか、本来はその話をするためで集まったはずなのに、なぜ私のことを聞いてくるのだろうか。異国人であることには違いないから珍しいのだろうか、いや、だがこの国に異国人は何人もいるはずだ。


「せっかくの機会ですから、カジェ国のこともそうですが、リーシェ先生のこともお聞きしたいです」

「母国って、北国のバーミリオンでしたっけ?」

「そういえば、先日誕生日を迎えたと聞きました。よければお祝いをしたいので、我が家へお越しいただくのは」

「こら、抜け駆けしようとするな」


(なんだかカオスな状況に)


目の前で繰り広げられる何かに、気が遠くなる。先生と呼ばれる立場ゆえか、彼らは自分よりも年上な人ばかりだというのに、どうにも年下のやんちゃな子供達が戯れているようにしか見えない。


(うーん、困ったな)


この状況に加わっていないヒューベルトを見れば、肩を竦ませてお手上げのポーズをしたあと、なぜか私の背後を見て固まる。


何か背後にいるのかしら、と振り返ると、そこにはなぜか息を切らしたクエリーシェルがいた。


「ケリー様、どうしたんですか?」

「いや、クイードのやつに……。まぁ、それはいい。……随分と楽しそうだな」

「そう見えます?」


このカオスな状態は、どこからどう見ても楽しいお茶会には見えないだろう。


だが、先程まで目の前で繰り広げられていたやり取りは、クエリーシェルが来たことによってピタッと治ったので良しとしよう。


「リーシェが世話になっているようで」

「「「「「「「「「いいいいいいえ!!こちらこそ、いつもお世話になってます」」」」」」」」」


(なぜか、心なしかみんな顔引き攣っているけど)


「すまんが、リーシェはこれから用事があるので先に失礼させてもらう。あぁ、船には私も同行させていただくので、よろしく頼む」


そう言うと、クエリーシェルに促されて席を立たされる。私はとりあえず一礼して「では、また船でお会いしましょう」と声をかけると、腰を抱かれて早々に店を出させられた。


「……何か怒ってます?」


人気がないことを見計らって、こそっとそう口にすれば、「人に私達の関係を隠すというのなら、リーシェはもっと自衛をしてくれ」と苛立ち紛れに言われる。


「自衛って。あの方達はこれからカジェ国に行く方達ですよ?あちらでも爵位がある女性とお見合いするつもりで来てるんですし、私みたいな肩書きもない、よくわからない小娘なんて相手にしませんよ」

「……とにかく、隙を作るでない」

「わかりました」


なんだか、ムッとしてるクエリーシェルが可愛らしい。そう思って、馬車に乗ったときに頬をツンツンと指で突くと、「それ以上するなら襲うぞ」と牽制されてしまった。

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