第43話 模索

「ここにもない」


空いてる時間、ほぼ図書館に通い詰めてそれらしい本を探しているが、なかなか見つからない。


自国から連れてきた信用のおけるメイドにもお願いして、そういう『転生』についての噂があるかさりげなく聞いてもらってはいるが、そう言った話は聞いたことがないそうだ。


(やはり手掛かりとなるものはないか)


正直、お手上げと言ってもいい状態だった。時間がないというのに、手掛かりがなければどうすることもできない。


しかもここのところ、このことを考えすぎて何事も上の空なせいか、バラムスカに心配されてしまっている始末だ。


だが、下手にバラムスカに言ってもいいのだろうか、という心配もある。味方だと思っているが、やはり彼はこの帝国の人間であり、いくら妻からの訴えとは言え、血の繋がっている父親側につく可能性は大いにあり得る。


考えれば考えるほど、ドツボにハマっていく。


ステラと違ってこういうことに関してあまり得意でない私は、ただただ1人で悩む。だが、いくら悩んだところで、正解を出すのは至難の業だった。


「はぁ、どうしたものかしら」

「また考えごとかい?」

「バラムスカ様!」


急にニュッと視界に現れて、思わず小さく飛び上がる。ずっと考えていたせいか、気配に少しも気づかなかったので、集中していたぶん驚きは大きく、心臓がバクバクと今までにないほど速く動いていた。


「最近、いつも考えごとをしているようだが、どうしたんだい?マーシャルらしくないよ」

「いえ、ちょっと色々ありまして。お気遣いいただき、ありがとうございます」


目も合わせずに、それとなく躱して図書館に行こうとした時、手首を掴まれる。珍しい行動に、思わずバラムスカの顔を見れば、なんとも複雑そうな表情でこちらを見ていた。


「バラムスカ様?」

「私はそんなに信用なりませんか?」


ーーあぁ、私はなんて不甲斐ないのだろう、妻にこんな表情をさせてしまうなんて。


あからさまにしょんぼりとする彼に、動揺する。そうだ、この人は人一倍優しい人なのだ、と思い出す。


(もし、このまま手遅れだったとするより、打ち明けて何か変わる方がずっといい。例え、彼が敵に回ったとしても、それはそれ、どっちみち私には変えられなかった運命として受け入れよう)


覚悟が決まると、先程までの悩みが嘘のようにスッと心が静寂になる。


「マーシャル?」


ーーどうしたのだろうか?あぁ、私が強引に腕を引いたせいか?それで嫌われてしまったらどうしよう。幻滅されたか?それとも、私がこのようにしょっちゅう構うから呆れられて……


なんだか彼の思考が斜め上で、どんどん違った方向に行くのが面白くて、思わずクスクスと笑みを漏らす。


「ま、マーシャル?大丈夫かい?」


ーーまさか、悩みすぎて気が触れてしまったのだろうか?!


「ふふ、大丈夫ですよ。ごめんなさい、私はバラムスカ、貴方に隠しごとをしていました。これから正直に打ち明けますが、それでも貴方は私を愛してくれるでしょうか?」


バラムスカに手を差し出す。覚悟を決めたとは言え、この手を拒絶されたらと思うと少し怖かった。でも、この国へ嫁ぐと決めたのだから、私はバラムスカと運命を共にする覚悟は最初からできていた。


「もちろんだとも。良かった、やっと話してくれるようになったのだね」


すんなりと手を取り、握られる。それだけで、私はもうこの身がどうなろうとも、彼のために生きようと決めた。


「ご心配いただきありがとうございます。ここだと廊下に近いですから、寝室でお話よろしいでしょうか?」

「もちろん、構わないよ。秘密の話、ということだね。では、声はなるべく小さくするように心掛けよう」

「そうしていただけると助かります。ふふふ、本当に真面目な人ですね」

「マーシャルと一緒のときは常に真面目に振舞っているよ」

「では、私がいないときは?」

「……たまに息抜きすることもあるさ」

「では、これからは私の前でも真面目でない姿を見せてください」

「善処しよう」


今までのようなやりとりに、婚前を思い出すと、心が段々と軽くなってくる。そして私はお互い向かい合って寝室のベッドに座ると、ぽつりぽつりと読心術のこと、転生計画のことを話し始めるのだった。

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