第28話 試運転
ドーーーーーーン!
まるで地鳴りのようなけたたましい音や振動と共に、空中に綺麗な放物線を描きながら、海面へと吸い込まれていく砲弾を眺める。
大きな水飛沫と共に沈んだ砲弾の飛距離は2kmといったところだろうか。できればもう少し延ばしたいところだが、どうだろうか。
周りが歓声をあげ、パチパチと拍手喝采が起こっている。
大砲の試作機の試運転とはいえ、あまり密かに実行するのも変な勘繰りをされては困るとのことで、今回勝手なこじつけだが、カジェ国友好50周年と偽り、その祭事ということにしてある。
根回しというのも大変だな、と思いつつもそういう政略的なことに関しては他人事であるので、私はその辺を考えるのは放棄した。
「どうだ」
「まぁまぁ、ですかね」
「手厳しいな」
肩を竦めて見せる国王だが、彼も出来栄えについてはわかっているから、わざと
最近、クエリーシェル抜きにでもちょこちょこ接する機会が増えたせいか、国王と話す機会が多いのだが、この男はスイッチが入らないときは基本ちゃらんぽらんである。
普段は周りの執事やら王妃が尻をひっ叩いてどうにか操縦しているようだが、有事が発生したり何かしら本人の興味が惹かれたりしない限りはダラダラしたりテンションが低かったりする。
今回は民衆の前だと言うことと、武器の試運転ということで張り切っているからか面倒にならずに済んでいたが、いつまた普段通りのダメダメモードに戻るかと思うとヒヤヒヤではある。
今回クエリーシェルは領地の視察ということで別行動なので、1人でこの男と相対しなくてはならないため、なるべく面倒ごとは避けたかった。
(まぁ、面倒ではあるけど、これくらいの方が人間味があるっていうのかしらね)
賢王だからって、「全てが全て、完璧ではない」というのはある意味人間らしくていいかもね、と勝手に1人で考えながら、新たに作られた戦争用の試作機をどんどんと見ていく。
「これは、バリスタですか」
「あぁ、クロスボウを作るならこれもあった方がいいと思ってな」
バリスタは弩弓と呼ばれる、据え置いて使用する巨大クロスボウだ。巻き上げて弦を引き絞り矢を発射させるのだが、狙いさえ定められれば船に甚大な被害を与えられるほど凄まじい威力がある。
また、矢に火をつければ延焼を促せるし、狙いも投石機や大砲よりもつけやすく、防衛にはもってこいの武器だと言える。
「いいですね。ある程度試運転は?」
「あぁ、済ませてある。小さな手漕ぎボートは木っ端微塵だった」
「それは朗報ですね。では、各港町に配置できるよう増産せねば」
それから、クロスボウやら火薬やら、試作機や状況を見ながら、それぞれの配置や配備の手順について話していく。
「国民の避難所や避難用経路、また合図なども決めておかねばですね」
「あぁ、その辺に関しても軍部と議会で話し合っている。だがまぁ、急に私がやる気なもので、訝しまれているがな。近々戦争が始まるかもと無駄な噂を立てて不安を煽る者もいるから、こちらとしては面倒なことこの上ないがな」
「そこは、どうにか賢王としての手腕をお見せください」
「あーー、わかっている。全く、手厳しい女だな。そういうところはメリンダに見習え。あれは飴と鞭を使いこなす女だ」
「はぁ」
急にまた話が脱線して、とりあえず相槌だけ打っておく。年を取ると説教臭くなるのか、時折今のように関係のない私の女としての在り方のような話になってくる。正直、余計なお世話だ。
(こういうところが合わないのよね)
私は、こうあるべきだと決めつけられるのは、あまり好きじゃない。そもそも大して私を知ってるわけでもないのに、一体私の何がわかるというんだ。
ーーステラ様はかようなことを望んでされていないはず。私がお守り致しますから、どうか、そのような無粋なことはおやめください。
以前言われた言葉を思い出す。あのときも、不快でどうしようもない気持ちになったが、そこは弁えて笑顔を貼り付けていたような気がする。
(そういう意味では、クエリーシェルはそういうことをあまり言ってこないかも)
呆れられたり驚かれたりすることは多々あれど、あの人は私に対して型に嵌めないというか、こうあって欲しいというような決めつけはしてこない気がする。
(だから、居心地が良かったのかも)
国王と同い年だというのに、こうも違うんだなぁ、と国王が延々と話し続けるのを聞きながら、リーシェは今晩のおかずについて考えていた。
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