第7話 特別な17才

「すまないな、主役に手伝わせてしまって」

「いえ、それはいいんですが。随分と豪勢すぎやしませんか?」


眼前に広がるのはどこぞの国賓の舞踏会かのごとく、豪華絢爛に彩られたホールだった。


この城外に併設されたホールにはほぼ用事などないので、掃除する程度にしか出入りしていなかったのだが、明らかに違うのは一目でわかるほどの煌びやかさだ。


「リーシェの17の誕生日を祝わずしてどうする」

「17って特に特別な数字ではないですよね」

「何を言っている!コルジールでは成年になる年だぞ」

「へぇ、そうだったんですね」


成年。ペンテレアでは18が成年であったが、ここでは17なのか、知らなかった。こういう初歩的な知識を持っていなかったのは不勉強だった、と反省する。


「感心している場合じゃない。というか、そもそもちゃんと伝えていれば、このように急ピッチでやる必要もなかったというのに」

「その言い合いは何度もしたじゃないですか」


そう、この不毛な言い争いは、先日誕生日を把握されてからほぼほぼ毎日と言っていいほど起きている。


正直もうこれ以上言われても私にはどうすることもできないのだが、クエリーシェルは案外しつこい性格のようで、顔を合わせる度に話題に上がるのだ。


「そうだが、リーシェは隠し事が多すぎる」

「そう言われても、こういう身の上ですので?」

「あぁ、わかってはいるが、それでも少ないのだ。言える範囲でかまわないのでなるべくこういう情報は開示してくれ」

「なるべく改善するよう善処致します」

「あぁ、そうしてくれ」


先程作ったテーブルクロスをフワッと広げてメインテーブルに乗せる。あとは既に用意済みの花などを飾り付けるだけである。


「そういえば、ケリー様はいつお誕生日なんですか?」

「私はリーシェがこの家に来る前に迎えている」

「ということは、あと半年ほどでしょうか?」

「そうだな」

「では、そのときは私が精一杯お祝い致しますね」

「あぁ、楽しみにしている」


次の誕生日では33か。いよいよ結婚も遠ざけてはいられない年齢である。


(誰かしら見繕わないと)


でも未だに人間嫌いなクエリーシェルが心を許せて、さらに跡取りを残せそうな人となると、それなりの年齢で、ある程度の爵位がある方の御令嬢に限られる。


(ちょこちょこ舞踏会効果で未だラブレターも来ているし、選ばなければどうにかなるといえばなるかもしれない?)


いっそ国際結婚とかはどうだろうか。ない話ではない。そういえば、私とクエリーシェルが結婚したら国際結婚になるのか。


(いやいや、私ったら何を考えているの)


年齢差は15、6。あり得ない年の差ではない。特別嫌なところもないし、どちらかといえば好意のほうが優っていると言ってもよい。


そもそもありがたいことに私のことを考えて、配慮してくれることが多いし、紳士然としてさらに顔も整っている。熊みたいな図体だが。


とはいえ、現在私は後ろ盾のないただのメイドだし、一応表向きは外国貴族令嬢という扱いらしいが、それはそれで不透明というか後ろ盾にするにはイマイチ説得力がない。だから私がクエリーシェルの伴侶になる資格は……


「リーシェ?」

「は!」


つい考えこみすぎてしまった。不意に顔を上げるとクエリーシェルの視線とぶつかる。思考の当事者が目の前にいたことで、焦って顔が熱くなって、思わず顔を覆ってしまった。


「どうした?体調が優れないのか?」

「いえ、別に何も!あぁ、ここの仕上げって私が手を加えてよろしいのでしょうか?」

「いや、そこまではさすがにしなくてもよい。少しくらいサプライズがあった方が良いだろう?というわけで、リーシェはこれから姉さんと衣装部屋に行ってきてくれ」

「はい?」


そこで待ち構えていたようにマルグリッダが現れる。


「さ、行きましょ!」

「え、え、ちょっ、……え!」


そのまま私は訳もわからず、鼻歌まじりのご機嫌なマルグリッダに連行されるのだった。

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