第33話・みんなで文化祭へ⑧

 診療内を見えないようするためと、全体を暗くするするために、教室内は暗幕がかけられていた。


「そのカーテンを開いて、奥に進んで下さい」


 背後から受付の生徒の声が聞こえた。

 秀+その背中に捕まるノーブルと由音は、怖いもの見たさに暗幕をくぐり抜けた。

 すると奥は、実験机を一つだけ暗幕で仕切った狭い空間だった。

 実験机には、実験器具と顔だけのマネキンが並べられていて、黒いベールがかけられたデスクライトからもれる薄暗い明かりに、ぼんやりと照らされている。

 どれも血だらけで、おどろおどろしい。

 よく見ようと、秀だけ机に近づこうとする。

 ノーブルは怖くて秀のあとについて行けず、由音の後ろに隠れることにした。

 秀が机のそばに立つと――突然、向かい側から狐のお面を被った白衣の生徒が「わっ!」と姿を現した。 

 かなり心臓に悪い。


「うわっ!」

 と、秀は軽く驚いた。でも、冷静に何が起きたのか観察する。

 由音は「きゃー!」とは言うものの、まだ余裕がある表情だ。

 だけど、ノーブルだけは、声にならない声を出して由音の腕にしがみつく。本気で怖がっていた。

 三人三様の反応だ。

 演出が凝っているだけに、本格的なお化け屋敷に近い感じがする。

 これはかなり楽しめるな! と、秀は思った。


「診断書を見せて」


 脅かしてきた先生生徒が、かすれたような声で言った。


「「はい」」


 どうなるんだろう? わくわくしながら、秀と由音が診断書を渡す。

 ノーブルはガクブルで動けないため、秀が代わりに持って行く。


 質問内容:最近悩んでいること。


 秀と由音は、『勉強』を選んだ。

 診断書に目を通す先生生徒。内容を確認すると、机の上に置いてある冊子に手を伸ばした。


「君達に、これをあげよう」


 しわがれた声で、去年の過去問題集を渡してきた。部員達の解説付きだ。


「あ、ありがとうございます……」


 一気に現実に引き戻されたかのように、秀は顔が引きつってしまう。

 それとは対照的に、由音はツボに入ったようだ。大笑いしたいのを何とか我慢して「ありがとうございます」と、にやけた顔で受け取った。


「君にはこれを」


 そして、『睡眠不足』を選んだノーブルには、ラベンダーの香りがする親指よりも小さい石鹸を渡された。

 怯えながらも何とか石鹸を受け取り、「ありがとうございます」と、ちゃんとお礼を言った。

 先生生徒が次の部屋へ行けと、どこの暗幕を開けるか指示してくる。

 言われた通りに、三人は次の部屋に続く暗幕を開けた。 


 次の部屋は、暗幕で広めに仕切られていた。

 やっぱり薄暗い。

 そんな中、三列ある実験机の上に、狐のお面をかぶっている人達がパジャマ姿で寝ていた。体には所々に包帯が巻かれ、血っぽいものがついている。

 その周りを、狐のお面をつけた白衣の先生生徒が、何をするわけでもなくゆっくりと歩いている。

 きっと、この部屋は病室を演出しているのだろう。


「「こわっ!!」」


 秀と由音が好奇心を含めながら叫んだ。

 ノーブルは今にも失神しそうだった。 

 診断書を見せるために、秀と由音は先生生徒に近づいた。

 けれど、先生生徒は全然違うほうへ歩いて行く。


「へ?」


 どうしてだ? と、秀は首を傾げた。

 すると、由音がぴんと頭を働かせる。


「これは面白い発想ですね。多分、鬼ごっこと同じです。挟み撃ちで捕まえましょう」

「まじか! よし、行くぞ」

 

 そう言うと、秀が先陣を切って走った。

 由音は様子を見て、先生生徒が走る方向を観察してから走った。

 すると、すぐに捕まえることが出来た。


「やりました!」

「おう! やったぜ」

「あはは、凄い凄い」


 嬉しくて、秀と由音がハイタッチをした。

 突っ立っているだけのノーブルも、ついつい恐怖を忘れて拍手をしてしまう。


「「「お願いします」」」


 三人で先生生徒に診断書を差し出す。

 

 質問内容:キツネの診療所に入院したいか。


 秀は「はい」と答えた。

 すると、右のポケットから入院許可書と書かれた紙が出てきた。

 由音は「入院中」と答えた。

 すると、左のポケットから退院許可書が出てきた。

 ノーブルは「いいえ」と答えた。

 すると、胸ポケットから診察券が出てきた。

 又しても、面白い演出だった。


「「「ありがとうございます」」」


 受け取った三人は、ぺこりとお辞儀をした。

 秀・由音・ノーブルは、次に進んだ。

 最後の部屋だ。

 教師が使う黒板前の広い実験机があり、沢山のホルマリン漬けの標本が置かれている。

 どこにお面をつけた白衣の先生生徒がいるのだろうと、三人はきょろきょろした。

 すると、隣の部屋へ続く暗幕から「わっ!」と、先生生徒が現れた。

 秀と由音は、待ってましたと言わんばかりに叫んだ。

 最後まで状況を楽しんだ。

 ちょっとだけ慣れてきたのか、ノーブルは叫んでいるものの顔に少し余裕があった。


「「「お願いします」」」


 三人は診断書を渡した。

 最後の質問:稲荷寿司は好きか嫌いか。

 この質問だけ、三人の答えが一致していた。

 「好き」に丸がついているのを見て、先生生徒は三つ並んで置かれた箱に近づいた。

 左の箱に手を入れて何かを取り出すと、ひとりひとりに配った。

 何だろう?

 薄暗い光の中で、三人は何をもらったのか確認する。

 色はよく分からなかったけど、手のひらサイズの巾着袋だということが分かった。

 他に丸をつけていたら、何がもらえていたのだろう?

 気になるところだけど、先生生徒が出口を指差すので、とりあえずお礼を言った。

 それから三人は、暗幕をくぐり抜けて出口のドアを開けた。




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