第32話・みんなで文化祭へ⑦

 階段で北館二階へ向かうと、そこは活気が溢れていた。

 生徒のひとりひとりが生き生きしとした表情をして、文化祭を楽しんでいるのが見ただけで分かった。

 各教室を彩る装飾にもこだわりがあり、『花見』のテーマを題材に生徒達だけで作ったとは思えないほどのクオリティの高さを表現していた。

 全部の展示を見て回りたくなるくらいだ。

 由音が気になっているお化け屋敷も、こだわりが凄かった。

 科学部の展示。テーマは『キツネの診療所』。

 場所は生物室のはずだが、外観は深い森の中に建てられた診療所に様変わりしていた。

 部員魂の気合いがみなぎっている。

 どうやれば、紙だけでここまで凄い装飾が出来るのだろう?

 感動しすぎて、秀・ノーブル・由音はひたすら「凄い! 凄い!」としか言えなかった。

 演出も凄かった。

 受付をしているふたりの生徒は、血だらけの白衣を着て狐のお面をつけている。

 そして、受付に使っている机には彼岸花が飾ってあった。黙って座っているだけなのに、そこだけ何とも言えないおぞましい雰囲気が漂っている。

 怖がりなノーブルには、少々酷な感じがしたが――とりあえず、三人は並んだ。

 三組待ちだ。 


「並んでいる時間に、誰が先陣を切って中に入るか決めましょう!」


 楽しそうな由音。わくわくしている気持ちが、秀とノーブルに伝わってくる。

 それとは対照的に、ノーブルはガクブル状態だ。秀のワンショルダーバッグを、ぎゅっと掴んで離さない。


「そうだな~。じゃあ、じゃんけんで決めるか?」

  

 そう言って、秀が拳を握る。すると、ノーブルが半泣きで口を開く。


「えぇえっ!? ぼ、僕、先頭は絶対に無理だよ!」

「あ、そっか。じゃあ、俺と今川でじゃんけんしょう」


 ノーブルは幽霊が苦手で、お化け屋敷は初体験だ。 

 ここで無理強いさせてはいけないと、秀と由音は目配せする。

 

「仕方がありませんね。ところで、秀さんとノーブルさんは何年生ですか?」


 じゃんけんをするのかと思いきゃ。

 突拍子もないことを、由音が言い出した。


「へ? 俺達五年生だけど、それがどうかしたか?」

「あらあら、そうでしたか。実は私、こう見えても六年生です。この中でお姉さんですし、私が先頭を歩くことにしましょう」

「えー、一つしか変わらないじゃん! 正々堂々とじゃんけんで決めようぜ‼」

「あらあら、ご不満ですか。仕方がないですね。では、公平にじゃんけんをしましょう。勝敗が決まっても、恨みっこなしです」


 がっかりする秀に、由音が大人の余裕感を漂わせる。ウインクするのも忘れない。

 こうして、秀と由音のじゃんけん大会が始まった。

 最初はグーから始まり、あいこが四連発。そしてやっと、由音がパーで勝利したのだった。


「ふふふ、私が先頭ですね」


 由音は全身を使って、喜びを表現した。どんなに年上ぶっても、無邪気な笑顔は小学六年生だった。


「くそーっ! じゃあ、俺は二番手だな」

「僕はふたりの後ろを歩くよ」


 悔しがる秀の背中に、ノーブルがぴったりくっつく。

 無事に列の順番が決まったころで、狐のお面をつけて白衣を着た女子生徒が、秀達に声をかけてくる。

 いつの間にか、先頭になっていたようだ。


「お待たせしました。受付をさせていただきます。何名さまですか?」

「「三人です」」


 秀と由音の声が重なった。ノーブルは歯をカチカチ鳴らしている。


「かしこまりました。では、この診断書を記入して、診療所内三か所に先生がいるので見せて下さい。時間になりましたら、お呼び致します」


 女子生徒が、診断書を挟んだバインダーとボールペンを人数分渡してきた。

 それぞれ受け取ると、さっと目を通す。


 内容は――


・最近悩んでいること。

 一、勉強。

 二、恋。

 三、睡眠不足。


・キツネの診療所に入院したいか。

 一、はい。

 二、いいえ。

 三、入院中。


・稲荷寿司は好きか嫌いか。

 一、好き。

 二、嫌い。

 三、どちらでもない。


 ――だった。


「なんだこれ……どんな意味があるんだ?」


 秀は首を傾げる。

 その隣で、ノーブルは少しだけ緊張が和らいだ。


「あはは、よく分からないけど、この診断書は面白いね」

「そうですね。どんな思惑があるのか分かりませんが可愛くて癒されます」


 由音もほっこりした顔をする。

 それは何故かと言うと、診断書に狐のマークや狐の足跡が沢山ついていたからだ。

 さすが、キツネの診療所なだけある。

 三人が診断書を書いていると、「診察オッケーです。いつでも入れます」と出口側に立つ生徒が受付の生徒達に声をかけた。

 受付の女子生徒が頷いて、秀達を呼んだ。


「お待たせしました。診療前に伺いますが、スタンプラリーはやっていますか?」


 受付の生徒の問いに、秀は「あ!」と声を出す。

 ノーブルと由音も、ぴんと来たようでカバンからパンフレットを出した。

 部活を見て回るスタンプラリー。

 まず最初に押してもらったのは、科学部の狐スタンプだ。白衣を着た狐が、ちびキャラで凄く可愛い。

 部によって、狐の着ている服が違うらしい。これは全部集めたいな! と、秀は思った。


「では、診察室へどうぞ」


 もうひとりの受付の女子生徒がドアを開けて、秀・ノーブル・由音を中へ入るようにうながした。


「わくわくしますね」

 と、軽口を叩く由音。

 でも、診療所内に一歩足を踏み入れた瞬間――スカートをくるりとひるがえし、ノーブルもいるにも関わらず秀の後ろに移動した。


「へ? おいおい、さっきまでも威勢はどうしたんだ!?」


 先頭になった秀が、目をぱちくりさせながら由音を見た。


「ふふ、突然ですが実は私、秀さんにかっこいいところを譲ってあげたくなりました。ですので、どーぞどーぞ先に進んで下さい」

「ははーん、さては怖気づいたんだな。よーし、俺が先頭を歩いてやるぜ!」

「ではでは、お願いします」

「秀、頼りにしているよ」


 ふたりから背中を押されるので、秀は大胆不敵に先頭に立った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます