第31話・みんなで文化祭へ⑥

「ではでは、交渉成立ですね。武士ではありませんが、二言はありませんね?」

「うん、ないよ。怖いけど……お化け屋敷に挑戦してみる!」


 見知らぬ女子の問いかけに、ノーブルは覚悟を決めた声で答える。

 すると、見知らぬ女子は「もし途中で怖くなったら、私の背中に隠れて下さいね」とウインクをする。

 不思議と心を許せてしまう人に、ノーブルはつい安心してしまう。


「あはは、君は幽霊が怖くないんだね。羨ましいな~。初対面の女の子に頼るのは気が引けるけど……よろしくね」

「俺もいるから心配すんなって!」

「あはは、秀はかけがえのないくらい信頼しているよ」


 隣でにかっと親指を立てる秀に、ノーブルは同じポーズで気持ちを表現した。


「あっ! そういえば、自己紹介がまだでしたね。私、今川由音いまがわよしねと言います。以後お見知りおきを」

「「へ?」」


 一瞬、思考が停止。

 そして、秀とノーブルは混乱した。

 最近、秀達の間で何かと話題の芸能人。

 その名前を、目の前に座る女子が口にしたからだ。

 最近はテレビの露出は減っていたが、CMやドラマによく出ていたし年も近いこともあって親近感が湧く。

 だから、目の前の女子を見て、何か前から知っている気がする……? と思ったのは、そのせいだろうか?

 今川由音。本人――いやいやいや、でも、待て! もしかしたら、同姓同名って可能性もある。

 こんな体験するのは初めてで、どんな反応をすればいいのだろう? 

 秀は悩んだ。

 とりあえず、秀は左手で頬をつねって夢なのか確認する。

 痛い! 現実だ。


「へ~、君って今川由音と同姓同名なんだねー! 芸能人と一緒の名前だなんて、すごいよ!」


 あれこれ考えて悩んでいる秀の隣で、ノーブルがキラキラな笑顔ではっきり言った。

 あざとさの一欠片すら感じさせないない、天然発言。


「それって……同姓同名だと、みんな美人なのか!?」


 ツッコミを入れる秀も、感覚が少しずれていた。

 

「ぶっ! 今の凄く面白いボケとツッコミですね! ここまで息がぴったりで可愛らしいカップルには初めて会いました。ふふ、仲良しで羨ましいです」


 今川由音と名乗る女子が、秀とノーブルのやり取りが面白かったのか、お腹を抱えて笑いだした。

 

 ――あれ? 前にもこんな光景あったような……。

 そっか! 俺とノーブルのやり取りを見て、森が珍しく爆笑したんだったと、秀は思い出した。

 やっぱり俺とノーブルが漫才コンビを組めば面白いのかも知れない。

 だけど、今はそれどころじゃなかった。


「いやいやいやー! 何度も言うけど、俺達カップルじゃないし!」


 秀は由音にツッコミを入れる。

 それでも、由音は「ふふ、そういえば秘密の関係でしたね」と言ったまま笑いが止まらない。


「ま、いいじゃない。仲良しなのは合っているよ~」


 屈託のない笑顔で、ノーブルが言った。

 カップル扱いされるのが、秀ほど嫌ではないらしい。


「あー、久しぶりに心の底から笑いました。おふたりに感謝ですね。えーと、お名前を聞いてもいいでしょうか?」


 笑いながら、由音が尋ねてくる。


「俺は、豊臣秀とよとみしゅう。よろしくな」

「僕の名前は、織田ノーブルだよ。よろしくね~」


 ふたりは、由音に自己紹介をした。

 ふむふむと由音が、何度もふたりの顔を交互に見る。


「秀さんにノーブルさんですね。覚えました。よろしくお願いします。私のことは、由音でもよっしーでも好きに呼んで下さい」

「じゃあ、今川だな」

「僕は、由音ちゃんと呼ぶよ」

「それでは、自己紹介が終わりましたし、そろそろ行きましょうか。実は私、気になっているお化け屋敷があるんです。最初はそこでもいいですか?」


 にっこりと微笑みながら、由音は首を傾げた。

 無計画より行きたい所が決まっているほうが効率がいい。

 秀とノーブルは、断る理由なんてどこにもなかった。

 どんなお化け屋敷なのか楽しみだ。

 だから今は、行動を共にする女子が芸能人の今川由音なのか? 気にしないことにした。

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