第29話・みんなで文化祭へ④

 ☆★


「それじゃ、どこに行こっか? 私は十時からやるバトン部のパフォーマンスが観たいんだけど、それでいい?」

「いやいやいや、勝手に決めるなよ。バトンって女子の部活だろ?」

「そうだけどさー」


 秀のツッコミに、光は不満そうに頬を膨らませる。


「今はジェンダー平等の時代。頼めば男子も入れる」

「へ? 何だそれ?」


 ――ジェンダー平等なんて言葉、初めて聞いたぞ。

 疑問符を浮かべる秀に、蘭子は同情する目で真っ直ぐ見る。


「豊臣さん、今度から新聞を貸してあげる。もっと時事問題に興味を持ってほしい」

「お、おう。ありがとな」


 何となく不憫ふびんに思う気持ちが感じられたが、秀は素直に頷いた。

 ――森がせっかく貸してくれるんだし、ちゃんと読まなきゃな!

 読書に関しては、三日坊主の秀。新聞を読むことで、忍耐が鍛えられそうだ。


「ジェンダー平等って、男女関係なく平等な社会のことでしょ?」

「うん。光はちゃんと勉強している。偉いであります!」

「ふふ~ん、まぁねー」


 えっへんと、光は胸を張った。秀と目が合うと、意地悪っぽく微笑んだ。

 褒められて羨ましいでしょと、顔に書いてある。

 秀が何かを言う前に――ノーブルが口を開いた。


「光ちゃんは勤勉だよねー。偉い偉い」


 そう言って、ノーブルは対面で座る光の頭を撫でた。


「はあ!? ちょっと触んないでよ! 別にあんたに褒められても嬉しくないんだからね!!」


 むぎゅっと、光はノーブルの両頬をつまんだ。

 それでも、ノーブルはへらへら笑っている。

 ――何かこの光景、最近定番になってきたな~と、秀は止めるだけ無駄だと悟った。


「九尾学園はジェンダー平等の活動に取り組んでいるのが魅力の一つ」

「例えばどんなだ?」

 

 蘭子の説明に、秀が耳を傾ける。


「女子の制服にはスラックスが選択可能。もちろん男子もスカートが選択可能になっている」

「へ? まじで!?」


 どんな制服だったっけ? と、秀は九尾学園の生徒を見た。

 衣替え前なので生徒は、ピンク、白、紺、水色の四種類から好きな色の男女共通半袖ポロシャツを着ている。

 スクールベストとカーディガンも男女共通で、白、グレー、紺から選べるようだ。

 落ち着いた赤いネクタイも男女共通。高校生は、黒いラインが入る。

 もちろん、校章のワンポイントが入った靴下も男女共通で、茶色、白、紺が選べる。 

 スカートとズボンは、落ち着いた赤を基調としたチェックだ。

 かなり選択肢があり、生徒達はコーディネートを楽しんでいる。


「ジェンダーレス制服は、今や公立でも導入している学校もある。九尾学園はその先駆けであります!」


 蘭子が鼻息を荒くしながらどや顔をした。かなり九尾学園を押しているようだ。

 いまいちジェンダーのことが分からない秀。

 だけど、世の中には『男装をする女子』や『男の娘』と呼ばれるジャンルがあるくらいだ。学校の制服も男女関係なく選べるのはいいのかもしれないな? 人それぞれだしと、秀は思った。

 ――着る着ないと聞かれれば、俺は着ないけど……。 


「あはは、僕、スカートで登校しょうかな~」


 ぺろっと舌を出して、ノーブルは茶目っ気たっぷりに言った。


「あ、似合うんじゃない!」


 意外にも、最初に光が頷いた。

 ――絶対にキモっとかって言うと思ったのにな……。

 元々、光はしっかりしていた。それでも普通の小学五年生と何ら変わらない。同い年枠でのしっかりしている、だ。

 だけど、塾に通うようになってからは違う。偏見や人種差別について、しっかりとした大人に近い考えを持つようになったのだ。


「蘭も是非来てほしいであります!」

「俺もちょっとみたいかも」

「私からもお願いするわ」


 蘭子と秀、そして蘭子の母親も同意した。

 何も知らない人達はネタバレをしない限り、たぶんノーブルをひとりの女子として扱うだろう。


「あはは、冗談で言ったつもりなんだけどな~。そんなに言うなら、少しだけ考えてみようかなー」


 えへへっと照れ笑いするノーブル。どうやら本人もやる気満々なようだ。


「あら、もうこんな時間。少しだけ早いけど、バトン部を観るならそろそろ行きましょ」


 蘭子の母親が腕時計を見た。時刻は九時四十分。いい席で観るなら、そろそろ向かったほうがいい。


「え、いいんですか?」

「蘭も行く」

「うそ、嬉しい!」


 光は少し遠慮がちだったが、蘭子も行くと聞いて嬉しそうに立ち上がった。同時に、蘭子と蘭子の母親も立ち上がる。


「いってらー、俺らは違う所を見てくるよ」

「あっそ、それじゃ終わったら連絡するからすぐに返信できるようにしておいてよね」

「んー、分かった」


 体育館を出て行く三人を見送ってから、秀とノーブルはパンフレットを覗き込んだ。

 パンフレット内の地図を見ると、九尾学園が本館、南館、北館に分かれていることを知った。

 しかも四階建てだ。正直、教室が多すぎて、どこに行っていいのやら迷う。

 その中でも多い展示は、カジノとお化け屋敷と脱出ゲームだった。


「お化け屋敷は外せないよな!」


 秀は親指を立てて、ノーブルの横顔を見る。

 すると、ノーブルの顔が見る見るうちに青ざめた。


「ど、ど、ど、どうしょう。ぼ、僕、おばけ苦手で、おおお化け屋敷って入ったことないんだよねぇぇえぇ」


 震える声。綺麗な薄茶色の瞳からは、今にも涙がこぼれだしそうだ。

 事の意外さに、秀は目をぱちくりさせる。

 






 

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