第28話・みんなで文化祭へ③

「あっ、スタンプラリーやってるんだって!」


 パンフレットをざっと見た光は、スタンプラリーに興味を引かれた。


「へ? どこだ?」

「三十五ページだよ」

「本当だ。様々な部活を見て回ろうだって! 何か楽しそうだな‼」


 秀もスタンプラリーをやりたくてうずうずした。

 ルールを読むと、先着で『きつね祭限定のクリアファイル』がもらえると書かれている。

 どんなのが貰えるか分からないけど、取りあえず欲しいと思った。 


「楽しそうであります!」

「ルールの所に、お花見をしながらスタンプラリーをしょうって書いてあるけど、どんな感じなのか気になるね。行ってみよう」


 蘭子とノーブルもやる気満々だ。


「二十か所のうち、十五か所のスタンプを集めれば任務完了だって。よーしっ、やってみよう!」

「「「おーっ!」」」


 秀の掛け声で、三人は右手を高く上げた。

 文化祭ど素人の秀・光・蘭子(隆雪が受験の時は全く関与しなかった)+文化祭経験者のノーブル(イチゴの付き添いで渋々)。

 文化祭を友達同士で楽しむのは初めての経験だ。

 家で遊ぶのとはまた違った雰囲気に、自然と気持ちが盛り上がる。

 四人は思わず大声で騒いでしまった。

 すると、蘭子の母親が「楽しいのは分かるけど、もっと声のトーンは落としてね」と、やんわりさとす。


「「「「「はーい」」」」


 四人は聞き分けのよい返事をした。


「じゃあ、まずはどこに行こっか?」

「僕、朝ご飯食べていないから何か食べたいな~」


 光の問いに、ノーブルがすかさず提案する。


「へ? 迎えに行った時めっちゃ寝起きっぽかったけど、まじで起きたばっかりだったんだ?」

「えへへっ、インターフォンで目が覚めたよ~」

「げっ、俺より朝弱いじゃん!」

「そういえば、秀も朝が弱いんだよね。凄く心強いよ!」

「おう! 俺たち仲間だな!」


 キラキラと目を輝かせて、秀とノーブルはガシッと握手をした。

 朝寝坊同盟を結ぼうとしている所に、光が頬を膨らませながらふたりの間に割って入る。


「はいはい、暑苦しいから離れて。ていうか、朝が弱いなんて威張ることじゃないんだからね!」

「改善するには、ぐっすり眠ることが大切。質の良い睡眠が摂れれば起きやすくなる。ちなみに、小学生の理想睡眠時間は九時間。夜更かしは禁物」

「く、九時間!? それって何時に寝ればいいんだ?」


 蘭子が進める改善法に、秀が首を傾げる。


「九時が理想。最低でも十時には寝てないとだめ」

「へ? それって……塾に行ってたら無理じゃないのか?」

 

 秀は目を丸くする。

 戦国アカデミーに通う五年生は、週三回十七時から二十一時まで拘束される。

 どんなに早く帰宅しても、入浴や宿題をこなしていたら、あっという間に十一時くらいになっている。


「塾がない日に行えばいい。実行するのみ」


 少し投げやり気味に言われてしまった。蘭子はつべこべ言われるのが嫌いなようだ。

 

「分かった。やってみるよ」


 秀が素直に返事をすると、蘭子の口元が少しだけ柔らかくなるのが見えた。 

 だけど、改善が必要なもう一人はあっけらかんと笑った。


「あはは、僕はいつも九時間くらい寝てるけどね~」

「あんたは塾でも寝てるでしょ! ちょっとは反省しなさいよ!!」


 ふにゃけたノーブルの両頬を、光は両手で引っ張った。柔らかくて、よく伸びる。色白なだけに、頬が赤くなってしまった。 


「まあまあ、光ちゃん落ち着いて。飲食スペースは所々にあるみたいだけど、体育館が一番多いみたいよ。行ってみましょう。こっちよ」


 蘭子の母親に誘導され、四人は校舎内へ向かった。

 エントランスに入ると、下駄箱がなく広々としていた。

 見慣れない新鮮な光景に、秀は首を傾げる。


「あれ? 下駄箱がないけど靴ってどうしているんだ?」

「この学校はそのまま入ってもいいのよ。エントランスで内履き履き替える学校もあれば、教室内で内履きに履き替える学校もあるし、色々な学校があるのよ」

「へへー! 何かスゲーな!!」


 蘭子の母親の説明に、秀は感動した。

 秀達が通う小学校は、朝から生徒が下駄箱でごった返している。内履きに履き替えるのに一苦労だ。下駄箱渋滞がないのはかなり楽だなと、秀は思った。

 体育館に向かうと、まだ客の入りが少なかった。

 飲食スペース担当の生徒やお手伝いの保護者たちが、楽しそうに話をしている。

 時刻は、九時すぎ。

 どうやら、来場者は先に展示を優先しているようだ。


「何食べる?」


 秀が首を傾げる。

 屋台は「カレー」「豚まん」「フランクフルト」「菓子パン」「肉巻きおにぎり」「焼きそそば」「タピオカドリンク」「焼き鳥」など、豊富に取り揃えられていた。


「……これって学生だけで準備したのかなぁ?」


 まるで地域のお祭りみたいな雰囲気に、光は圧倒された。


「保護者の協力もあるけど、ほとんどの学校は実行委員会の生徒達が中心となって色々と手配するみたいよ」

「えー、凄い! 楽しそうだし絶対に実行委員に入りたい!!」


 蘭子の母親の話を聞いて、光は目を輝かせた。

 クラスの中心人物で、尚且つ人に指示を出すのが上手な光には、文化祭実行委員長が向いているだろうと、秀は思った。

 蘭子の母親が席を取っておくと言ったので、四人は食べたいものを買いに行った。

 光と蘭子はタピオカミルクティー。秀は肉巻きおにぎり。ノーブルは焼きそばと菓子パンだ。空いていたので、すぐに購入することができた。

 蘭子の母親が座る席に向かう途中で、秀は各テーブルに花が飾られていることに気がついた。

 もちろん、秀達が座るテーブルにも、だ。

 何の花なのか分からないが、凄く綺麗だった。

 きつね祭のテーマは「花見」。

 どうやら意図に沿って、色々な所に花が飾られているみたいだ。さっきは気がつかなかったけど、よく見ると屋台にも花が飾られていた。

 そんな細かい気配りが、『みんなで文化祭を盛り上げよう!』としている熱意が感じられた。

 凄く楽しそうでいい学校だと、秀は思った。

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